Aguhont Story Record 7th Episode

『4つの国と神殿の謎』 

作:天びん。 

(2:2:1) ⏱40分 

 

【登場人物】

・リシェラ:人間の女性でバルナのケーキ屋店主。明るく人見知りなどもない。お菓子作りと読書が趣味。

・イタロ:人間の男性で自称錬金術師。何に対してでもとりあえずやってみるという考えの持ち主。今回はバルナ軍からオペルソン神殿の調査を命じられた。

・ティアン:性別不問、獣人、猫耳。処の国にも属さない戦いの見届け役。

・リア:エルフの女性で占い(特にタロットカード)が好き。たまに皇族のエリスに頼まれ、軍の戦況やリーベル国の未来について占ったりしている。

・ナキオ・ナズク:人間の男性でお爺さん。ボケているがとても都合よくボケるし忘れる。老いを感じてそれまでの仕事を引退してからはオペルソン神殿に訪れることを日課としており、それなりに楽しんでいる。

・クリオ(声の出演はなし):性別不問、各地の伝承を調べるのが趣味で、大体宿屋や飲み屋でバイトしながら情報を集めて各地を転々としている。元リーベル国民。



【本編】


―カランカラン♪と入店を知らせるベルが小気味良い音を奏でる。


リシェラ:いらっしゃいませ、最近よく来てくださいますね。

イタロ:あのレアチーズケーキを食べてからハマってしまってね。マスカルポーネの爽やかな甘さはクセになるよ。

リシェラ:ありがとうございます!

リシェラ:ラスク、おまけしておきますね。

イタロ:悪いねぇ。

リシェラ:いえいえ、その代わりいつまでも贔屓(ひいき)にして下さいね!


―リシェラはイタロの注文したケーキを包みながら笑うが、イタロが小脇に抱えていた何冊かの古書に目が留まる。


リシェラ:随分と古そうな本ですね…お仕事に使われるんですか?

イタロ:ん?

イタロ:あぁ…実は先日この国の皇族が家庭教師に習ったとかで、リーベルの神殿に興味を示されたそうでね。

イタロ:軍のお偉いさんから神殿に調査に行ってくるよう頼まれたんだ。…私は考古学者ではなく錬金術師なんだけどねぇ。

リシェラ:リーベルの神殿って…4人の賢者様が祀(まつ)られてるオペルソン神殿のこと?

イタロ:おんや、知ってるのかい?

リシェラ:私読書が趣味だから、本当に色んな本を読むんだよね。昔この大陸の歴史について興味を持ってた時期があって、その時にオペルソン神殿についてもすこーし調べたんだ。

イタロ:なるほどなぁ…。

イタロ:まぁ、調査に行くのであれば最低限の情報は調べておこうと思ってね。それでバルナの図書館でオペルソン神殿について書かれた本を片っ端から借りてきたってところなんだよ。


―それを聞くとリシェラは少し考え込んだ後口を開く。


リシェラ:イタロさん、もし良かったら私もその調査についていっても良い?

イタロ:ほぉ、それはまたどうしてだい?

リシェラ:実は新作のケーキに使う材料としてリーベル産の木の実を使おうかなって考えてて、いずれ現地に行ってみるつもりだったの。それに、オペルソン神殿について調べたことがあるから、ある程度の知識は教えてあげられるよ。

リシェラ:…どうかなぁ?

イタロ:そういうことなら、お願いしようかな。

イタロ:いんや、助かるよ。

リシェラ:じゃあ、いつにする?その間お店も休みにしないといけないし…。

イタロ:そうさねぇ…


―和気あいあいと調査日程を詰める2人の近くでティアンが購入したシュークリームを頬張っている。


ティアン:やっぱり、んま~い♡

ティアン:シュー皮サクサクでクリームも甘くて美味しい!!

ティアン:(…にしても、オペルソン神殿か…)

ティアン:(4人の賢者が祀られてるけど、あの神殿にはまだ秘められた謎があるって噂もあったなぁ。…急激に国民が減ってるって噂のリーベルの様子も気になるし、ちょっくら確かめてきますか!)



―数日後

―リーベル国、宿屋キュヴェル食堂にて、リアがタロットカードを見ながら溜め息を吐いている。


リア:(溜め息)どうしましょう~。

ナキオ:なんじゃお嬢さん、浮かん顔をしおって…

ナキオ:そんなんじゃ飯も不味くなるじゃろう?

リア:え…?ご飯はもう食べ終えましたが…?

ナキオ:…。

ナキオ:なんじゃお嬢さん、浮かん顔をしおって…

リア:あの~、無かったことにしないで下さいませ?

ナキオ:何のことじゃ?わしゃあ知らんぞ。

リア:…(苦笑)

ナキオ:そんなことはどうでも良い。何かあったんじゃろ?

ナキオ:このジジイに話してみぃ、少しは気が楽になるじゃろうて。

リア:…実は、私この国の軍に属しているのですが、占いが得意でして…たまに軍の行く末等を占うんです。

ナキオ:はぁ、占い…そのトランプで占うのかえ?

リア:これはトランプではなく、タロットカードと言います。タロットには大アルカナと小アルカナとありますが…運命の輪、吊られた男等…割とよく知られているのは大アルカナの方ですので、こちらで占うことが多いですね。

ナキオ:綺麗な柄じゃのう…見てるだけでも楽しそうじゃ。

リア:ふふ…ありがとうございます。

リア:それで、城でエリス様にお会いした際タロットの話題になったので、占って差し上げたのですが…

ナキオ:結果が芳しくなかった、ということかの?

リア:端的に言えば、そうなりますね…。

リア:一般的なキルケ十字という置き方で占ったのですが、知性や判断力の低下を暗示する女教皇の逆位置が出てしまい、現在の状態を示すカードには物事が思い通りに進まず、どう動いていいか分からずに混乱してしまいがちな状態を示す戦車の逆位置となってしまって…

リア:最後の方にはエリス様も遠い目をされておりました。

ナキオ:しかしのぉ…エリス殿には悪いが、占いは「当たるも八卦当たらぬも八卦」位の気持ちで良いんじゃないかい?

リア:その通りではありますが…昨今リーベルの国民が急激に減っており、内心気にしてらっしゃるのではないかと…。

ナキオ:なんと…あの噂は真じゃったのか。

リア:えぇ…。何とか励まして差し上げたいのですが、なかなか良い案が浮かばず…こうして溜め息を吐いていた次第です。

ナキオ:なるほどのぉ…。

ナキオ:ワシから言わせてもらえば、エリス殿もお嬢さんも考えすぎじゃ。

リア:え?

ナキオ:1つのことに真剣になりすぎるから周りが見えなくなって不安になる。そんな時は他の事に意識を向けて、その事を考える間もないくらい打ち込むと良いんじゃ!

ナキオ:必死に取り組めば些細なことは忘れてしまうかもしれんぞ?

リア:おじいさん…。

リア:ありがとうございます。

ナキオ:そうじゃ!今からお嬢さんも一緒に来るかい?

リア:え?

ナキオ:わしゃあ仕事を引退してからはオペルソン神殿に行くことを日課にしておっての。今日もこれから向かうところじゃったんじゃ。

リア:…素敵な場所ですよね、あそこは…。

リア:私も元は賢者様達を祀る神殿を一目見たくてリーベルに来たんです。

ナキオ:なーんじゃ、そうじゃったのか。

ナキオ:ならば話は早い。共に行こうぞ。

リア:分かりました。私で良ければ是非。


―そこへリーベルを訪れていたティアンが合流する。


ティアン:あ!ねぇねぇお姉さん達!

ティアン:今神殿に行くって話してたよね?私もついていって良い?

リア:私は構いませんよ。

ナキオ:なーんじゃ、ネコ。お前も来たいのか?

ティアン:ムッ、ネコって何さ!!あたしには「ティアン」って素敵な名前があるんだよぅ!!

ナキオ:テア?

ティアン:ティーアーン!!

ナキオ:そんなに怒鳴らなくとも聞こえとるわーい!

ティアン:じゃあ最初からそう言えー!!

リア:クスクス…そういえば、私も名乗ってませんでしたね。私はリアと申します~。

ナキオ:わしゃあ、ナキオ・ナズクじゃ。

ティアン:…え?逆から読んだら…

ナキオ:善は急げじゃ!行くぞテオ!!

ティアン:ティアンだ!っつってんだろ、このくそジジイ!!

リア:クスクス…。


―オペルソン神殿の付近に移動。


リア:…では、ティアンさんは大陸中を旅して回っているんですね。

ティアン:そうだよ!だから今回はリーベルに寄るついでにオペルソン神殿も覗いていこうかな~って。

ナキオ:ほぉ…リアンは若いのに大したもんじゃのぉ。若いうちから色々な物を見ておくのは良いことじゃぞ。

ティアン:だーかーらー、私はティアンだってば!リアンって誰だよ!何ならリアさんと混ざってるから!!

ナキオ:はにゃあ?そうじゃったっけ?

ティアン:…ホンットに直す気ねぇだろ。

リア:ナキオさん、名前を間違われるのは皆悲しいと思いますので、ちゃんと覚えてあげて下さいね。

ナキオ:そうじゃのう…そうしたいのは山々なんじゃが、いかんせんワシも歳でな…。

ティアン:わざとやってるようにしか見えない…(ボソッ)

ナキオ:さて、着いたぞ。

ナキオ:…おや?どうやら先客がおるようじゃの。


―3人がオペルソン神殿に入ると、中で等間隔に並べられている石盤を調べていたリシェラとイタロがこちらを向く。


リア:こんにちは、観光ですか?

イタロ:あ、え?ま…まぁ…

リシェラ:そうなんです!

リシェラ:私達バルナから来たんですけど…お姉さん達も観光ですか?

リア:いえ…私達はー


―瞬間、イタロが手を触れていた石盤がグラリと揺れ、倒してしまう。


イタロ:あ。やっべぇ…かもー


―激しい揺れと共にゴゴゴゴゴ…と音を響かせながら全ての出入口が閉ざされる。


ティアン:え?何?地震?!

リア:これは…?

ナキオ:い、いかん…!


―最後にゴゥン…という音と共に真っ暗闇に包まれたが、1拍遅れて松明に炎が灯る。


ティアン:…えっ?!ウソウソ、困るよ!!


―ティアンがすぐさま扉に駆け寄り、入り口だった場所にそびえ立つ石柱をカシカシカリカリと引っ掻く。


リア:閉じ込められてしまいましたね…。

ナキオ:この神殿は戸締まりできるようになっとんたんかぁ…

イタロ:んな訳ねぇだろ、ジジイ!脳内お花畑か!?

リシェラ:まぁまぁ、イタロさん、落ち着いて…

リシェラ:ーあ、あら?皆さん、あちらを…。壁の一部が白く光ってます!


―5人が近付いて見てみると、古いエルフ語で何か書かれている。


イタロ:んん?…何て書いてあるんだ…?

リア:『緊急措置発動』…と書いてありますね。

イタロ:あんた…読めるのかい?

リア:ちょっと古い書式ですが、何とか読めます。

リシェラ:緊急措置…ってことはー


―リシェラの言葉が言い終わらないうちに自然と全員の視線が倒れた石盤に注がれる。


ナキオ:アレじゃのう。

ティアン:アレだね。

リア:アレですね~。

リシェラ:イタロさん、ドンマイだよ!

イタロ:そこは嘘でもアレって言えよな?!そんでもって俺が原因なのは分かってんだよ、悪かったなぁ!!

ナキオ:ほれほれ、叫んでも仕方なかろう。今決めなきゃならんのは、誰がどこで寝るかじゃ。

イタロ:住む気か…?脱出諦めるの早すぎだろうよ…。

ティアン:どうしてくれんのさ!あたしこのまま干からびるなんて嫌だよ?!

リア:…神殿内の設備や備品を壊そうとするような行為が見受けられた場合、このような緊急措置が発動するようですね。


―リアが壁面に触れながら読み解く。


リア:解除方法も書かれてますが、どうやら3段階のセキュリティがかけられてるみたいです。

イタロ:あー!面倒くせぇことになったぁ…。

リア:そうですねぇ…

リア:難しく考えるのはやめませんか?どうせならもっと楽しいことを考えましょう。

ティアン:楽しいこと?

リア:例えば、ここにはちょうどリーベルとバルナの国民が2人ずついるじゃないですか。なので、どっちの国が多くセキュリティを解除できるか、謎解き勝負をするんです。

ティアン:良いんじゃない?なら、審判はあたしがやったげるよ!

イタロ:そういやコイツはリシェラのスイーツバトル大会の時も見に来ただけって言ってたなぁ。

リシェラ:面白そう!イタロさん、やってみませんか?


―リシェラがニコッと笑ってイタロを見ると、イタロは長い溜め息を吐く。


イタロ:まぁ、今回は俺の責任でもあるからな…やってやるよ!

ティアン:決まりだね。

ナキオ:決まったのかえ?イタコはどこで寝るんじゃ?

イタロ:まだ住む設定が生きてんのかよ!!それに俺はイタロだ!!

ティアン:まーたやってるよ…

ティアン:ーん?


―ピコッと耳を震わせると、ティアンは祭壇の裏に駆け寄り、声をあげた。


ティアン:見て!祭壇の裏に階段が出来てるよ!

リシェラ:本来オペルソン神殿は1階層となってたはず。セキュリティで隠されていたのかな…?

リア:では、お二人とも宜しくお願いしますね。私はリア、こちらはナキオ・ナズクさんです。

イタロ:こっちはリシェラ、で俺がイタロだ。宜しくな、お嬢さん。

ナキオ:タロウくん、ワシは…?

イタロ:数にいれてほしきゃあ、いい加減名前覚えろや!


―5人でオペルソン神殿の地下に進んでいく。


ティアン:見て、少し先に空間がある!!

リシェラ:すごーい…まるでドームみたい。

リア:こんな大空間が地下にあるなんて…

ティアン:ここって未発見区域だよね?ちょっとワクワクしてきた!!

イタロ:壁から天井にかけて何層かレリーフがあるな…一番上の層は…定規と天秤と剣に扇子…?

ティアン:2層目は…カニ、サソリ、蛙、蜂、ライオンだね!

ナキオ:3層目は牛、狩人、山羊、魚、羊…かのう?

リシェラ:4層目が人、獣人、エルフ、ゴーレムですね…それぞれ草地に立っています。しかも3層目までは四方の壁に同じものが作られているのに対して4層目は種族ごとに分かれてます。


―リアが部屋の中央にある石柱に気付いて歩み寄ると、彫られた古代エルフ語を読み始める。


リア:『星の海を辿り、命に恵みを与えよ。』

リア:『審判の神器より零れたるは、罪無き者を殺した銀』

リア:『銀を産み出し魔物は騎士に倒され、白き獣は騎士を突く。』

リア:『尾を突かれた騎士は逃げ惑い、川に魔物の尾を落とす。』

リア:『後に白き獣はその身を潤すが、銀を含みしその乳は、骨に絡まり人をも殺めん。』

ナキオ:…どういう意味じゃ?

リシェラ:この文章に出てくる「銀」とはそのまま銀と読んで良いのでしょうか?

ティアン:でも人を殺すってことは、毒のことなんじゃない?

イタロ:いや…銀は恐らく水銀のことだ。


―イタロはゆっくりと、しかし淡々と口にする。


イタロ:最後に『骨に絡まる』とあったな。水銀を摂取した場合、肉体が朽ちて骨だけになっても残るんだよ。

イタロ:水銀は不老不死の薬と信じられていたこともあったが、その実有害な物質だ。人を殺めると言う点でも銀=毒とみて間違いない。

リシェラ:ってことは、『命に恵みを与えよ』ってあるから…毒で人が死なないようにすればいい、ってこと?

イタロ:簡単にいえばそうだろう。だが、それだと『星の海を辿り』の部分が分からない。

リア:イタロさん、詳しいですね…。

ティアン:イタロはこう見えて錬金術師なんだよね!

イタロ:こう見えては余計だな?

ナキオ:ほぉ…!ソイツはすごい。

イタロ:錬金術といっても私の場合はほぼ独学でね。色々なものをベースにしているんだよ、化学とか…占星術とかね。


―その瞬間、リアがハッとした顔になり声をあげる。


リア:私、分かっちゃいました~。

イタロ:は…?もう、解けたのか…?

リシェラ:まだそんなに時間経ってないよ?

リア:ええ、でも分かったのはイタロさんの話を聞いてたからなんです。

リア:これは恐らく錬金術が元に作られた問題です。その証拠に、『星の海を辿り、命に恵みを与えよ。』とあります。

ナキオ:それがどう繋がるんじゃ?

リア:先程、イタロさんはこう仰いました。『錬金術は化学や占星術をベースにしている』と。


―イタロはその言葉を聞き、ハッとする。


イタロ:そうか!十二星座か!!

リア:はい。つまりこの問い掛けを分かりやすくすると、『十二星座の順番に命の水を流して毒を混入すること無く、各種族に恵みを与えなさい』ということだと思います。

イタロ:なるほどな。錬金術と聞いてすぐに思い付くのは賢者の石、命の水だ。

ティアン:じゃあ、一番最初は『審判の神器より零れたるは、罪無き者を殺した銀』だったよね?

リシェラ:ええ、十二星座の中で審判の神器といえば、天秤座ね!銀を持つ魔物…これは順番的にさそり座のことかな。

ナキオ:『銀を産み出し魔物は騎士に倒され、白き獣は騎士を突く。』…となるとサソリは狩人に殺された。しかし次の白き獣とはどいつを指しとるんかのぅ…。

ティアン:多分『突く』って表現があったから、角を持っている山羊座のことじゃない?

リア:そうですね。次のフレーズに『尾を突かれた騎士』とありますから、本来は狩人も射手座を示すケンタウロスを指しているんだと思います。

リシェラ:ってことは…天秤(てんびん)座、さそり座、射手(いて)座、山羊(やぎ)座…あっ!あのレリーフの並び、水の流れを他のレリーフが邪魔しない配列になってる!!

リア:しかし、このままではサソリの毒が混入されてしまうので…すみません、この中で弓を扱える方はいませんか?

ナキオ:ワシ使えるぞい。

イタロ:私も弓は使えるが…当てるのは、苦手だ。

リア:では今回はナキオさんにお願いしますね。あのサソリのレリーフを全て壊してもらえませんか?

ナキオ:サソリをぶっ壊せば良いんじゃな?―そぉいっ!


―ナキオは弓をキリキリと引くと、サソリのレリーフのど真ん中に矢を射る。


イタロ:うお…すげぇな…。何者だよこの爺さん。

ナキオ:わしゃあ、仕事を引退しただけのただのジジイじゃよ。


―ナキオが4枚全てのレリーフを破壊すると、リアは呪文を唱え始める。


リア:満ちよ、満ちよ、ー柔らかく、涼やかに、ひとえに育む力を与え給えー水球。

ティアン:あ!水球が審判の神器に吸い込まれていく…。

イタロ:水が流れて…4つの種族のレリーフが濡れていく。

ナキオ:おお…こりゃまたけったいな…

リシェラ:見て!階段だよ!!これで次に進めるね!

ティアン:階段が現れたので、まずはリーベルが1ポイント先取~

イタロ:クッソ…錬金術がベースなら俺が解きたかった…

リア:でもイタロさんが居なかったらもっと時間がかかってたと思いますよ?ありがとうございます。

イタロ:そうかい…調子狂うな…。

ティアン:んじゃ、早く次の階層に行こうよ!


―ティアンの言葉を皮切りに、5人は再び階段を降りていく。


イタロ:しっかし、さっきみたいな問題が続くようなら結構厄介だぞ…。

リシェラ:確かに…たまたま今回は解くことが出来たけど、次も同じとは限らないもんね。

リア:これはあくまで推測ですが、恐らくこの緊急措置は4人の賢者様が組んだものでしょう。であれば、4つの国の関係性や特色になぞらえて作られている可能性が高いと思います。

ナキオ:そうじゃのう…さっきの部屋も4種族のレリーフがあったし、何より賢者様達は4つの国に争いが起こらぬよう治めとったくらいじゃからな。

イタロ:となると、各国の特色や象徴について考えてみるのが良さそうだな。

リシェラ:―あ!また広めの空間が見えるよ!

ティアン:おおー、いかにもって感じで部屋のど真ん中に剣が刺さってる!!

イタロ:こういうのは大概トラップだろ。地面の中にスイッチがあって、剣を抜いたらトラップが発動するって仕組みとか…

ナキオ:でもこれフツーに抜けちゃったぞい、ホレ。

イタロ:ジジイー!!テメェには緊張感ってもんがねーのか!!

ナキオ:なんじゃそんな怒らんくとも…ホレこれやるから機嫌を直しとくれ。

イタロ:先に触れたくて怒ってたんじゃねーのよ、爺さん。いい加減その飄々とした態度どうにかしてくれないかなぁ?

リシェラ:イ…イタロさん、落ち着きましょ?ね?何ともなかったんだから…。


―苛立つイタロをリシェラが諫める一方で、リアとティアンが室内を確認して回る。


ティアン:んー、リアさん。さっきみたいに説明文とかあった?

リア:…いえ、どこにもありませんね。となると、ナキオさんが抜いた剣に書かれていたりするのでしょうか?

イタロ:いや、剣にも文字は彫られてなさそうだぜ。言ってもただ装飾が華美なくらいか。

リシェラ:この装飾、すごいですね…宝石とか、貴金属が使われてるような形跡はありませんけど、剣の柄(つか)に施されている彫刻は素晴らしいです…。

イタロ:めぼしい情報は剣のみ、か…まさか、どこぞの遊戯みたいに相応しい相手しか剣を抜けないとかじゃねぇだろうな…。

ティアン:でも4人の賢者様を祀るような人達がそんな人を選ぶような仕掛けを採用するかな?

ティアン:あたし達みたいに誤って閉じ込められる可能性もあったわけだし、あたしなら正しい心根を持ってる人なら誰でも解けるようにするけどね。

リア:…困りましたねぇ…。


―4人がうんうん唸りながら頭を捻っている中、ナキオは剣を眺めている。


ナキオ:…おお!剣で思い出したが…そういや昔はこんなこともしとったのぅ?


―そう言うが早いか、ナキオは4人から少し離れて部屋の中央に移動すると、剣を構えた。


イタロ:爺さん?今度は何をおっ始める気だ?

ティアン:冷めた目でイタロがナキオを見るが、ナキオはそのまま鋭く剣を振り下ろす。地面に着くスレスレの所でそのまま剣を横に凪ぎ、最後は弧を描くようにしてナキオが回る。


リア:これは…剣舞でしょうか…。

リシェラ:あ!この舞の型…本で読んだことあります!!タングリスニの軍では遥か昔、自国の豊穣(ほうじょう)、繁栄(はんえい)、天下泰平(たいへい)を願い剣舞を奉納(ほうのう)していた時期があったとか…

イタロ:おいおいおい…冗談だろ?まさかこれがその剣舞なのかよ…。


ティアン:口をあんぐりとあけるイタロを横目に、ナキオの剣は飄々(ひょうひょう)としていた印象とは打って変わってその切っ先はぶれない。

ティアン:舞も翼を広げて背を守るかのような堂々とした動きをしたかと思えば、ふわりと風に靡(なび)くように柔らかな動きをするなど、緩急つけた剣舞はかなりの見応えがあった。


ナキオ:…破!


ティアン:最後にそう叫ぶと、ナキオは構えていた剣を下ろし、最大限の礼の姿勢をとった。


リア:すごい…すごいですよ、ナキオさん~!

ティアン:じーさん、やるじゃーん!!

ナキオ:おお、そうかい?

ナキオ:いやぁ~久々じゃて覚えてるか不安じゃったが、案外身体が覚えとるもんじゃのう。

リシェラ:まさか太古の剣舞を目に出来るなんて思いもしませんでした!!カッコ良かったですよ!!

ナキオ:そうかい、そうかい…なら試してみて正解じゃったわい。

ナキオ:剣を見た時、刃は潰されていて装飾に宝石などもなかったから、これは祭祀(さいし)用の剣で剣舞に使われておったんじゃないかと考えたんじゃ。

イタロ:マジかよ…。


―再びゴゴゴゴゴ…と地鳴りがし、今度は上りの階段が前方に現れる。


リア:皆さんあちらを…!階段が現れましたね!!

ティアン:と、いうことは…2ポイント目もリーベルがゲット~!

イタロ:ほぼほぼノーヒントで剣舞をしろなんて分かるわけねーだろ!!

リシェラ:まぁ、これは仕方ない…かな。

リア:でもこれで残るセキュリティはあと1つになりましたね。

ナキオ:そうじゃな。なかなか楽しかったが、暗くて埃っぽい所に閉じ込められるのはあまりいい気分ではないからの。

イタロ:少し前まで住む気だったのは何処のどいつだよ、ったく…。

ティアン:あ、また空間が見える!セキュリティは全部で3つなら、これが最後だよね?

ティアン:この箱はなんだろ?(箱の中を覗き込む)

ティアン:んしょっと…何かたくさん石が詰められてるけど…キラキラ光ってて綺麗…

リア:こちらは…4人の賢者様の石像でしょうか…。

リシェラ:そうじゃない?石像の足元にもそれぞれ文字が入ってるから…これは賢者様達の名前かな?

リア:…いえ、これは国名ですね。左からバルナ、リーベル、マリシ、タングリスニの順で並んでいるようです。

ティアン:んん?ちょっと待って!


―ティアンが石像の足元の土を払うと、新たに文字が現れた。


ティアン:これも古代エルフ語なんじゃない?

リシェラ:よし!皆で石像の足元の土を払ってみよう。

リア:えっと…左から順番に「調和」「豊穣」「叡智」「勇敢」と彫られてますね。

イタロ:オイこれ…さっき話してた各国の象徴のことじゃないか?

ナキオ:なるほど、言われてみればそう取れなくもないの。

イタロ:となると、こっちは…


―イタロは箱から赤い石を一つ掴み、懐からルーペのようなものを取り出すと、じっくり観察する。


イタロ:…間違いない、宝石だな。

ナキオ:こんなところにそんなものが…!どれも100カラット程はあるぞ?!

ティアン:えぇーっ?!じゃあもしかしてコレ、4賢者様の財宝とか?!

リア:いえ、この文章によればちょっと違うみたいですよ。


―いつの間にか壁面を調べていたリアが皆に壁面の文字を示す。


リア:『正しき解釈と正しき心で扉を開け。』恐らく正しい場所に正しい宝石を嵌めなくてはいけないようです。

リア:また…正しき心とありますから、ここの宝石をポケットに隠して持ち帰ろうとしてもダメみたいです。それこそ今度はさらに奥深くに落とされてしまうかもしれませんねぇ。

イタロ:こえーことを笑顔で言うなよ…いい女に拍車がかかるぜ。

イタロ:ってことは…お?石像の手元に石が嵌まってたような窪みがある。此処に正解の宝石を嵌めるんだな。


―イタロの発言を聞き、それまで宝石の入った箱を眺めていたリシェラがガバッと顔をあげる。


リシェラ:イタロさん!今回は私お役に立てそうです!!

イタロ:お、おお…?そいつは助かる…。

リシェラ:一時期宝石の種類や色、成分が気になって宝石に関する本を片っ端から読んでいたことがあるんです。ズバリこれは宝石言葉ですね。

リア:…なるほど。『正しき解釈』とは石像に刻まれていた意味と同じ意味を持つ宝石を嵌める、という事ですか。

リシェラ:恐らくそうかと。先程箱の中の宝石を調べてみましたが、石像に刻まれた意味と同じ意味の宝石もちゃんとありました。


―そう言って、リシェラは4人に確保しておいた4つの宝石を見せる。


リシェラ:まずはバルナ、「調和」です。これはアメジストとシトリンが1つになった珍しい宝石、アメトリン。宝石言葉は「調和」「創造性」。

リシェラ:そしてリーベルは「豊穣」。これに見合う宝石は翡翠で、意味は「豊穣」「忍耐」です。

リシェラ:次にマリシは「叡智」。科学者の街で発展も著しいですからね。マリシの宝石はエメラルド。宝石言葉は「叡智」「未来」。

リシェラ:最後にタングリスニは「勇敢」です。これに見合う宝石はアクアマリン。意味は「勇敢」「聡明」。

ナキオ:こりゃ驚いた…!お嬢ちゃんは博識じゃのう。

リシェラ:えへへ…。

ティアン:でもこうして見ると、この4つの宝石って青みがかった色の宝石なんだね。紫も赤と青で作るし、緑も青と黄色で作れるから。

イタロ:言われてみれば、そうだな。…案外この大陸に4つの国ができるまでは青がイメージの1国があったのかもしれないぜ。

リア:ではさっそく試してみましょうか。


―リシェラがカコン、カコンと宝石を嵌めていく。

―最後の宝石を嵌めると、石像の背面の壁が動き、暖かく緑豊かな木漏れ日が差し込んできた。


ティアン:出口だあ!!


―ティアンは身体いっぱいに喜びを表現してピョンピョンと飛び跳ねる。


イタロ:助かったぜ、リシェラ。

ナキオ:おや、ここは…神殿の裏手じゃの。


―ナキオの言葉に皆が辺りを見回すと、その通り神殿の裏手に出てきたことが分かる。

―また、3つのセキュリティを解除したためか、神殿の出入り口はいつもどおり開かれていた。


リア:良かった…神殿のすべての出入り口が解放されたようですね。

ティアン:…と、いうわけでぇ~!バルナ対リーベル神殿謎解き対決は、1対2でリーベルの勝利~!!ドンドンパフパフ~!!

イタロ:あー、俺1問目解けてたらなぁ…くそぅ…。

リア:でも楽しかったですね。

ナキオ:そうじゃのう…。リアさんも顔色が良くなっとる。こっちの方が美人さんでええわい。

リア:まぁ!クスクス…。

リア:でも、この神殿に隠し階層があったことはエリス様に報告しなくてはいけませんねぇ。そうなると各国に情報を公開して、調査隊を編成して…また悩みの種を増やしてしまいそうです…。


―しょんぼりとしたリアを見て、ナキオは少し考えると、イタロの肩をガシリと掴む。


ナキオ:ならほれ。イタロ君に調査してもらったらどうじゃ?錬金術の要素が含まれとるなら調査には参加したいじゃろ。

イタロ:はぁ?!ってか名前覚えてんじゃねーか!!

ナキオ:ハッ!いかんいかん間違えてしもうた…。

ナキオ:すまんの、タロウ君。

イタロ:イタロな!?あってたからな!!ボケろって意味じゃねえんだわ!!!

ナキオ:耳元でデカい声出すんじゃなーい!年寄りは労わり給え。

イタロ:こんの…ジジイ!!

ナキオ:そんなことより、調査はええのか?わしゃあ適任じゃと思うが。

イタロ:そんなこと?!

ティアン:いーんじゃない?そもそもあたし達そのおっさんのせいで閉じ込められたようなもんだしぃ。

ナキオ:ほれ、アンナもそう言うておる。

ティアン:だから、ティアンだって言ってんだろうが!!あたしの名前は何時になったら覚えんだよ!!

ナキオ:イタミ君もイアンも細かいことは気にせんでもろうて…

イタロ:細かくない!(ナキオが「もろうて」まで言ったらすぐに続ける)

ティアン:細かくない!(ナキオが「もろうて」まで言ったらすぐに続ける)

イタロ:というか、勝手に決めるんじゃない!!

ティアン:だーって、謎解きもイタロだけ正解してないんだから、罰ゲームで調査手伝うくらい誠意を見せた方が良いんじゃないのー?

イタロ:…う。

イタロ:あのなぁ…!調査するにしたって許可出すのはエリスなんだろ?…だとしたら俺はあまり心証が良くねぇから許可すら下りねえよ。

リシェラ:イタロさん、心証が悪いって…他国の皇族に何したの?

イタロ:まぁ、いろいろあるんだ、色々。

イタロ:ただ、今回は俺のせいで迷惑かけたからな。誰か信頼できる奴をバルナから調査派遣できないか軍の奴に聞いてみる。

リア:そうして頂けると助かります~。

イタロ:しっかし…俺も今バルナで保護されてる身だからちゃんと動いてもらえるかどうか…。

リシェラ:あ、ならクリオさんなんてどうかな?確かクリオさんって元々リーベル出身で、各地の伝承を集めるのが趣味だから、その土地の宿屋に住み込みでバイトしたりしながらいろいろなお話を集めてるの。確かオペルソン神殿にも興味を持っていたはずだよ。

イタロ:…と、いう事なんだが…確認してから派遣ということでよろしいか?

ナキオ:無理矢理派遣されるよりも意欲をもって参加した方が何事もプラスになるじゃろ。エリス殿にはリアさんから報告してあげなさい。

イタロ:あ…一応俺の名前は出さないでもらえるかな。その方が多分うまく回ると思うから。


リア:その後リシェラさんからオペルソン神殿の調査について話をしたところ、クリオさんが快く引き受けてくれたため、正式にバルナからクリオさんを調査派遣していただくことになりました。

リア:今回はたまたまこのような事態に陥ったため、調査をすることになりましたが、まだまだ、オペルソン神殿や4人の賢者様については多くの謎が残っているのかもしれません。



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