Aguhont Story Record 8th Episode

『りたのこころ』 

作:こんのすけ 

(0:2:4) ⏱40分 

 

登場人物────


コハク〈不問(女性向)〉= リーベルからタングリスニに無理やり連れてこられた狐の獣人。幼い姿に、内気で優柔不断な性格。チッチと呼んでいる小鳥がお友達。変化〈へんげ〉という姿を変える力に目覚める。


ラポム〈不問〉= 見た目がリスのような小さいけど大人な獣人。ラッポムは了解という意味らしい。タングリスニの軍部に所属しており、短剣とドングリ爆弾が武器だが、今回は短剣は使わないようだ。


ティーナ〈女〉= バルナ出身のエルフで迷子のプロ。今はタングリスニに住んでいる。親友とリーベルに行った際に、コハクやフーリとも会っている。ハープを奏でて眠らせたり、癒すことが出来る。


クロナ〈不問〉= マリシの軍部に所属しているアンドロイド。心からお仕えするマスターを求めている。現在はマスターがいないため、国に忠誠を誓っている。眼鏡で解析ができる。眼鏡がないと別人のよう。


リシェラ〈女〉= バルナでケーキ屋を経営している。明るい性格で、お菓子作りと読書が趣味の女の子。両親がマリシの科学者として研究所で働いているはずだが、何年も音信不通。何やら裏の顔がありそう。


ティアン〈不問〉= どこの国にも属さない戦いの見届け役の一人。好奇心旺盛な猫耳&しっぽの獣人。中性的な容姿でどちらにも間違えられる。一人称は気分で変えているようだ。



・・・


コノハ = コハクの夢に登場する狐の獣人。コハクはコノハの記憶を忘れている(※コハク役が担当)

アイシャ = 元リーベル出身でマリシの軍部に所属するカンフーエルフ(※偽物としてコハク役が担当)

ギャギャギャリアン・ヴェルナヴァンド = マリシの軍部開発研究に所属する博士(名前のみ登場)

フーリ = コハクと一緒にタングリスニに連れてこられた放浪の薬売り(名前のみ登場)

シャトン = ティーナの親友。リーベルに帰国している(名前のみ登場)

テルエス = タングリスニに住むエルフ。コハクとフーリを連れ去った軽薄な皇族(名前のみ登場)


────────────────



ティアン:N『むかしむかし、一人のエルフが、大陸の外からきたヨウコウという名の狐の獣人と出会いました。ヨウコウは自身の住まう国を追われ、酷い怪我を負いつつも、なんとかアグホント大陸へと辿り着いたのでした』

ティアン:N『傷ついた狐の獣人を見つけたエルフは、魔法で傷を癒してあげました。けれど傷は一向に回復しません。それもそのはず、ヨウコウは身重だったのです。そのため、治癒の魔法は全てお腹の子に吸収されてしまうようでした。エルフは詫びました。このままではどちらかしか助けられそうにありません』

ティアン:N『ヨウコウは首を横に振ると、数日ぶりにお腹の子の胎動を感じられたと、涙を浮かべエルフに感謝しました。そして最後の願いをエルフに託します。可哀そうに思ったエルフは願い通り、魔法でヨウコウの魂をリーベルの大きな樹へと宿らせ、お腹の子を助けました。子供たちの名前はコノハとシズク。二人は母の能力を受け継ぎ、特別な力を持ちました』

ティアン:N『エルフは大樹にヨウコウの名前をつけました。獣人の魂が宿った陽光の樹はリーベルに住む我が子を、そしてリーベルの民を、母のように優しく見守っています。リーベルの民もまた、陽光の樹を母なる樹として大切にしました……』


────疲れたので先の文章をサラっとだけ目を通し本を閉じるティアン


ティアン:「はぁーん、なるほどねぇ。そのエルフがリーベルの賢者『オーベル様』で、その後も行き場を失った獣人たちを受け入れてきたから、リーベルには獣人も住んでんのねー」

ティアン:「さてと、おっちゃんがリーベルで拾ったこの本を、持ち主の狐の子に返さなきゃなんだけど、どうしよ? んー、とりあえずタングリスニに行こっ」


◯ 回顧

コノハ:M(タングリスニの者に攫われたあの時、お主を逃がそうと必死に叫ぶフーリの声に、意識を失っていたお主は目を覚まし......わしの力を使うた)

コノハ:M(……『変化』……呪具でわしの力を封じておったのに……守りたいと願うのはコハクの心か、それともわしの心か。それが変化の力を目覚めさせたのか? 否、それだけではあるまい。母様が目覚めたと考えて間違いないであろう……)

コノハ:M(変化の力に目を付けられ、テルエスが何やら企んでおるやもしれぬ。コハクの身に危険が及ぶことなどあってはならぬ.....そのためにわしの記憶をコハクから消し、危険を恐れる臆病な子にしたはずが……『強くなりたい』と願うなど……あってはならぬのに……)

コノハ:M(それに、あの時落としてしまった本を取り戻さねば……。心配ではあるが、このままずっと眠らせておく訳にもいくまい。そろそろコハクを起こすとしよう。さぁ……起きなさい、コハク。お主がタングリスニの手の者から受けた傷は、とうに回復していますよ……)


〇タングリスニ・幽閉された狭い病室

コハク:M(夢……何だっけ……ん? チッチの声と……ハープ? 優しい音色がする)

コハク:「ふあぁ……チッチ、おはよう。えへへ、くすぐったいよ」

ティーナ:「……こ、コハクちゃんっ! 」

コハク:「あっ、ティーナおねぇちゃんっ! リーベルに来たの?」

ティーナ:「コハクちゃん。ここは『タングリスニ』ですよ!」

コハク:「え? あっ、そっ……か、ボク、タングリスニの怖い人に捕まって、それで……えっと」

ティーナ:「タングリスニに着く途中で一度目が覚めたけれど、また気を失ったと聞いているわ。もう何日も目が覚めないから凄く心配で……よかった……本当に……よかった」

コハク:「……ありがとう、ティーナおねぇちゃん」

ティーナ:「ううん。私は何も……」

コハク:「……あっ! フーリおねぇちゃんは!」

ティーナ:「えっと……フーリさんはお薬を作らs……っ! 作りに行ってるから忙しいみたい」

コハク:「そっか……。ねぇ、ティーナおねぇちゃん。ボク、どうなっちゃうの? もう、リーベルに帰れないの?……帰りたいよ……」

────抱きしめるティーナ

ティーナ:「大丈夫っ、大丈夫だからっ!」

コハク:「んあっ! ……えへへ、ティーナおねぇちゃんあったかいね」

ティーナ:「ふふっ、ここは寒いでしょ? 何かあったら私が守るから安心して? また来るからね」

コハク:「うん、ありがとう……」

コハク:「行っちゃった……フーリおねぇちゃん大丈夫かな……」


◯バルナ・ケーキ屋

────お店のドアに張り紙を貼り、読み上げてみるリシェラ

リシェラ:「[臨時休業のお知らせ。誠に勝手ながら、本日はお休みさせていただきます。『リシェラーゼ』 オーナー・リシェラ]」

リシェラ:M(うん、これでよしっと。急なお休みになっちゃうけど、今日こそパパとママの話、聞かせてもらうんだからっ!)


◯タングリスニ・テルエスの屋敷

────テルエスに訴えるティーナ、居合わせたラポム

ティーナ:「テルエスさん、お願いします! フーリさんとコハクちゃんをリーベルに返してあげてください!」

ティーナ:「……本当に私がマリシへ行けばコハクちゃんだけは……」

ラポム:「テルエスさま、ティーナさんは一般人です!」

ラポム:「護衛を増やすことは……ラッポム! ボク一人でも行きます!」


◯タングリスニ・テルエスの屋敷付近

────ティーナに変化して部屋から出たコハク

コハク:M(フーリおねえちゃんどこだろ……あれ? あれは、ティーナおねぇちゃん)

ティーナ:「ラポムさんを巻き込んでしまってすみません……」

ラポム:「もともとボクは別の任務でマリシに行く予定だったんだ。だから頼ってよ!」

ティーナ:「成功したらコハクちゃんはリーベルに帰れるんだもの、私、頑張るわ!」

ラポム:「キミのハープの力は頼もしいよ! にしても、敵情を探るなんて危険だよ。姿を変えられるって噂の、コハクの力を借りれたらいいんだけど……」

ティーナ:「そんなこと! コハクちゃんにさせられません……」

コハク:「……ねぇ、どういうこと?」

ラポム:「えっ?」

ティーナ:「うそっ! 私がいる!」

コハク:「ティーナおねぇちゃんっ! 何か危険なことをしに行くの⁉︎ ……ねぇ、それって……」

ティーナ:「もしかして……コハクちゃん? まさか私になってあの部屋から出たの?」

────ポムンと元の姿に戻るコハク

ラポム:「うわぁっ‼︎ 狐の子になった、すっげぇー! もしかしてキミがコハクっ⁉ わー! ちっちゃいなーー‼」

コハク:「……ボクの方が大きいもん。それと……ボクも行く!」

ティーナ:「コハクちゃん!」

ラポム:「わかったわかった! コハクがタングリスニから逃げないと約束してくれたら連れて行く。テルエスさまには上手く言っといてやるよ」

コハク:「……逃げない。ティーナおねぇちゃんもだけど、フーリおねぇちゃんも心配だから」

ティーナ:「だめ──」

ラポム:「──わかった、それじゃ行こう! 説明は馬車の中でするからさっ」

ティーナ:「……」


◯タングリスニ・城門前

ティアン:「あっ! あの子ぢゃない⁉︎ ちょっ! 馬車に乗って出発しちゃうぢゃんっ!」

ティアン:「あーもぉ間に合わないっ‼ 馬車の上に飛び乗るしかないっ! んんっ、よっっと! ……ふぅーっ」

ティアン:M(とりあえず飛び乗っちゃったけど、どーやって接触する? 馬車が止まったらそれとなく偶然を装う? うーん、それにしても南へ向かってるよーだけど、何しに行くんだろ?)


◯タングリスニ・南へ向かう馬車の中

ティーナ:「あら? 何か屋根にぶつかったような音が……」

ティアン:「((ヤバッ‼︎))ニャ、ニャ〜ン?」

ラポム:「屋根に……猫ぉ??」

ティアン:M(さすがに気付くか?)

ティーナ:「屋根でお昼寝でもしていたのかな? 急に馬車が動き出したから、驚いて飛び跳ねたのかも?」

コハク:「にゃんこちゃん大丈夫かな?」

ティアン:M(はあぁーっ! 単純で助かったぁ〜!)

ラポム:「あ! そういえば自己紹介まだだっけ? ボクの名前はラポム! よろしくっ!」

コハク:「ボクの名前は……」

ラポム:「コハクだろ? さっきの姿が変わるの凄かったな!」

ティーナ:「目の前に私がいるんだもの、びっくりしたわ」

コハク:「あっ……うん、あのねっ! 『変化』っていうんだよ? ボクが持っている本に書いてあったの!」

コハク:「タングリスニに連れて行かれる時、フーリおねぇちゃんを守りたくて、気づいたらボク、変化してたんだ!」

ラポム:「すっげぇーー‼」

コハク:「あ……でも、すぐに気を失っちゃって。えへへ……ボク、やっぱり、だめだな……」

ティーナ:「……コハクちゃん……」

ラポム:「まぁ、元気出せよコハク! その力、今度こそ役に立つ時だぜっ!」


◯マリシ・研究所エリア入口

クロナ:「不審者がいると通報がありました。入口を塞がないでください」

リシェラ:「っ……! お……お願いします! 両親に会わせてください!」

クロナ:「研究所に入りたいのでしたら、特別 入館許可証をこちらの機械で読み取ってください」

リシェラ:「それが…… 以前こちらの職員の方が確認すると持って行ったきり、返してくださらないのです!」

クロナ:「許可証が無ければ入れません」

リシェラ:「……父と母は科学者で、マリシの研究所で働いておりますが、もう何年も帰ってこないので心配なんです! 二人を呼んでくださいませんかっ⁉︎ せめて一目だけでも……」

クロナ:「身分証を……」

リシェラ:「どうぞ」

クロナ:「……確認したところ、そのような者は研究所に在籍しておりませ──」

リシェラ:「──そんなはずありませんっ! パパの入館証にはちゃんと! ……そっ! そうよ! 私、父の入館証を見たことがあります! そこには遺伝子学研究所って書いてありました。マリシの国章も入っていたので間違いないはずです!」

クロナ:小声「遺伝子学……国章……」

リシェラ:「あと……あとは……、仕事のことは極秘だからって何も教えてもらえなくて……。えっと……。あっ、そうよ! 母は植物、父は動物の研究をしているって聞いたことが」

クロナ:小声「植物、動物……生態遺伝……」

クロナ:「[アクセス不可――閲覧権限のないユーザーです――機密情報ファイルへのアクセスが拒否されました]」

リシェラ:「あの……」

クロナ:「そのような研究所はございません」

リシェラ:「そんな……嘘よ……。じゃ、じゃぁ、ヴェルナヴァンドという方とお話させてください! その方が父を知っていると聞いたんです!」

クロナ:「……お約束はいただいておりますか?」

リシェラ:「それが……なかなかお会いできない方のようで、連絡手段がなくて……」

クロナ:「お引き取り──」

リシェラ:「──ですがっ! 最近、面白い話を耳にしたんです。タングリスニに連れ去られた獣人のことなんですが、何やら特別な力を持っているとか……」

リシェラ:「その話と引き換えに私の両親の話を聞かせていただきたいのです。取り次いでいただけませんか?」

クロナ:通信「……お会いしたいという方が。……はい、記録を転送します……はい、……はい、了解しました」

クロナ:「ヴェルナヴァンドはその話に興味がないそうです」

リシェラ:「そう……ですか。……今日も帰るしか──」

クロナ:「──ですが、父親のことで思い出したことがあるそうです」

リシェラ:「お会いしてくださるのですかっ!」

クロナ:「こちらではなく、研究所一般エリアの応接室に案内します。どうぞ」


◯バルナ・リーベル付近に差し掛かる馬車

ティーナ:「やっぱりだめです! そんな危険なこと、コハクちゃんにさせられません!」

ラポム:「変化したら大丈夫だよ、バレないって! コハクにしか出来ないことだ。情報を少しでも多く手に入れるために助けてほしいんだ」

コハク:「ボクがマリシの人に変化して、悪い人たちが何をしようとしてるのか調べるの?」

ラポム:「(悪い人かは置いといて)まぁ、そんなとこ! 怪しまれた時は二人とも無理せず引き返すんだ。いいね?」

コハク:「ボクにできるかな。はぁ……」

コハク:「──ッ!? 何かきこえる……」

ティーナ:「どうしたのコハクちゃん?」

コハク:「……リーベルの森の詩、陽光の樹が……ボクを呼んでる……」

ラポム: & ティーナ:「「……?」」

────『郷愁の詩』※二人のパートはティーナのみに変更可。歌、または朗読してください。

コハク:『♫ハイナーイ リーベルグラッド/アイビゲスタ オールデスト ニムロッディナイ グラッズポォク』

コハク: & ティーナ:『♫グラドゥリィマ ビィストゥメン/ヴェドゥーイナァィ フーオーハイグラッド/バーズォルソーグリン メルハイグラッド/ドンフォーゲッ ニアハイグラッド』

コハク:「……ティーナおねぇちゃん、この詩、知ってるの?」

ティーナ:「うん、昔からリーベルの森に伝わるエルフ語の詩よね? 何度かシャトンちゃんが口ずさんでいるのを聴いたことがあったの。切ない詩だね……『この森を愛して……忘れないで』」

ラポム:「ぐすっ……なんかわかんないけど涙が出てきた」

コハク:「う……うえーーん!」

ラポム:「泣くなよー! うわあーーん‼︎」

────二人の頭を撫でるティーナ

ティーナ:「よしよし、……エルフ語は使われなくなって久しいから、長く生きたエルフの私でさえも詩の内容は所々しかわからないけれど、この詩を書いた人はリーベルの森をとても愛していたのね」

コハク:「この詩は、ボクの持ってる古い本にかいてる言葉なんだよ? えっとカバンの中にあるはずなんだけど……あ、あれ? ない……」

ティーナ:「どこかに落としたの?」

コハク:「ん……そうみたい。大事な本なのにどうしよう……。あっ! チッチ? 外にでちゃだめだよ!」

ティアン:「いたっ! イタイイタイ! 何この小鳥‼」

ティーナ:「えっ⁉︎ 屋根に誰かいるっ!」

ティアン:「よっ! 窓から失礼するよ! 怪しい者じゃないから安心してっ?」

ラポム:「あれれー? もしかして屋根の上で鳴いてた猫ちゃーん?」《ニヤリ》

ティアン:「あー、そのことは忘れてっ!」

ティーナ:「走行している馬車の窓から入ってくるなんて、怪しいです!」

ティアン:「イテテテ! その子が落とした本を返しに来たんだけど、すぐに馬車に乗って行っちゃうから慌てて屋根に……って痛いっ! ちょっと、この小鳥、何とかしてっ‼」

コハク:「チッチ! 大丈夫だから、おいで。うん、いいこ」

ティアン:「ふぅ……地味に痛かった。あ、ほいっ! もう落とさないよーにね!」

コハク:「おね、おにぃ……」

ティアン:「ティアンだよっ」

コハク:「ティアンさん ありがとう!」


◯マリシ・研究所一般エリア ロビー

クロナ:「では、私はこれで……」

リシェラ:「あのっ、ありがとうございました!」

リシェラ:M(はぁ……手紙を受け取ったら、あまり話を聞けないまま追い返されてしまった……ヴェルナヴァンドさんへ宛てた手紙、パパはいったい何を書いたんだろう……)

リシェラ:M(……)

リシェラ:M(……そんな……嘘でしょ、どうしてママが……。えっ?……私が手に入れた情報の獣人と、父が探していた獣人は同じなの? 姿を変えられる獣人なんて、今まで見たことも聞いたこともなかったのに……)


◯マリシ・国境沿い南ゲート前 

クロナ:通信「……そうですね。念の為、北側の入り口は封鎖してください。マリシ全域の警戒を強化する手配も任せます……」

クロナ:M(姿を変えられるという獣人……タングリスニが使わない手はないでしょう……いつ動くかはわかりませんが、私も定期的に見回ることにしましょう)


◯バルナ・マリシとの国境沿い付近の森

ティーナ:「馬車が止まったけれど、マリシに着いたのかしら?」

ラポム:「いや、ここはバルナだ」

────チラッとティアンを見るラポム

ティアン:「そんぢゃ、まぁー、オレは用も済んだことだし、ここで降りるよ。じゃあね〜」

コハク:「ティアンさんありがとう」

ティーナ:「さようなら」

ラポム:「バイバーイ」

────馬車を降りたティアンは、少し離れた樹上からコハクたちの様子を伺う

ティアン:M(ひとまず、オレがいたら動けないだろうから離れてみたけど、狐の子のこと、なんかほっとけないってゆーか……もうちょっとだけ様子見よっかな?)

────作戦会議をするラポムたち

ラポム:「でね? 北側からマリシに入るには砦が厄介でさ、何かあった時リスクが大きすぎるんだ。……で、馬車はここに停めてバルナ側から行こう」

ティーナ:「これがマリシの研究所に入る許可証ですか? 二人分しかありません……」

ラポム:「うん、それでコハク、キミはこの女性に変化してほしい。現地に住む『一部の軍人』は、許可証が無くても入れるらしいんだ。詳しい情報はコレをみてね?」

コハク:「あいしゃ……えるふ、かんふー、ばかぢから。んーと……んん、読めない」

ティーナ:「あっ、手書きなんですね。えっと……ごびにあるをつける。おどろいたり、こまったときはあいやーという、いみはふめい……情報は以上かな? ちょっと読みにくいですね」

ラポム:「べっ、別にいいだろっ! 字を書くの苦手なんだ! これは前にボクが書いた『調査書』だぞ、バカにすんなよなっ!」

ティーナ:「バカになんてしてませんよ? ラポムさんが書いたんですね! 子供が書いたみたいな文字で可愛い!」

ラポム:「こほんっ! アイシャは今朝から出かけてて、夜になるまで帰らないという情報があった。彼女が帰るまでにこの男の情報をつかみたい」


◯マリシ・国境沿い南ゲート

────アイシャの姿になり南ゲートにやって来たコハクと薄汚れたローブを着たラポムとティーナ

クロナ:「こんにちは、アイシャさん。本日はビスケ砦に篭って、夜まで武術稽古と伺っておりましたが、どうしてこちらにおられるのですか?」

コハク:「あわわわっ! えっと……こんにちはアル! それが、お、おかしなヤツがいたから追いかけてたら……」

ラポム:M(あれは……クロナ!)

コハク:「アァーー、コンナトコマデ、キチャッタアルー」

クロナ:「それはアイシャさん、アナタのことですか? 先程から挙動がおかしいようですが」

コハク:「ち、違うアル! なーんか今日は調子がよくないアルー……」

クロナ:「体温が上昇しているようです……額には汗、目には……涙ですか?」

コハク:「あ、アイヤー、い、いい運動になったアルー。汗が目に染みるアル……」

クロナ:「後ろにいるローブを着た二人は何者ですか? 顔を見せなさい」

ラポム:M(ボクたちの許可証が本人じゃないとバレるのは面倒だし……)

コハク:「あっ、と、え……と──」

ラポム:小声「──プランBに変更!」

ティーナ:小声「──はい!」

クロナ:「──ッ⁉︎ 待ちなさいっ!」

コハク:M(行っちゃった、二人とも大丈夫かな……プランB、ボク一人で行くしかない……)

────一足先に潜入していたチッチがコハクの元に帰ってくる

コハク:「あ! チッチ、研究所の場所はわかった? それじゃぁ案内して?」


◯マリシ・住宅街

クロナ:通信「侵入者が住宅街へ逃走しました……はい……了解しました。こちらは任せます」

ティーナ:「ここは……住宅街に入ってしまったみたいですね」

ラポム:M(おかしい、コハクの変化が怪しまれていた? いや、まだコハクの情報は知られてないはず……)

ティーナ:「はぁ……はぁ……、あれ? 追っ手の姿が見えなくなりました! はっ! これはっ……やられました、囲まれてしまったようです」

ラポム:「まさか……」


◯マリシ・研究所付近

クロナ:「どちらへ行かれるのですか? アイシャさん」

コハク:「えっ……あっ! ……あの、博士のところに、ちょっと用事があったのを思い出したアル……」

クロナ:「そうですか。そういえばアイシャさん、先程リシェラーゼのオーナーにお会いしたんです。その時、とても甘いクッキーをいただいたんですが、おひとついかがですか?」

────クッキーと聞いて目を輝かせるコハク(変化中)

コハク:「ふあぁー! クッキー、食べた──」

クロナ:「──あっ! すみません。そういえばアイシャさんは、甘いものが苦手でしたね」

コハク:「へ? あっ、そうアルー。クッキーなんて甘いもの食べた……くないアル。ふぅ……」

クロナ:「あら? 本当は大の甘い物好きのアイシャさんが、クッキーを食べないと……食べ物の趣向が変わったのですか?」

コハク:「へっ? えっ……どっち?」

クロナ:「そういえば最近、姿を変える獣人が見つかったそうですよ?」

コハク:「((ドキッ!)) そ、そうなんだぁ……へーぇ……」

────銃を構えるクロナ

クロナ:「姿を変えられる獣人がいるとは信じ難いですが、アイシャさん、あなたは本当にアイシャさんですか? 念のため、身分証を確認します」

コハク:「にっ……逃げなきゃ!」

────チッチがクロナの顔をめがけて攻撃する

クロナ:「ッっ! 鳥が視界を狙ってッ! 攻撃を! クッ! じゃっ……邪魔ですっ!」

────払いのけられて地面に落ちるチッチ

コハク:「──あっ! チッチ!」

ティアン:「──行って!」

クロナ:「──させないっ!」

コハク:「──うぁッ……! いっ、っ……」

ティアン:M(足を撃たれた?……いや、掠めただけか)

ティアン:「チッチはオレが連れていく! 早く行って!」


◯マリシ・住宅街

ティーナ:「どうしましょう……えっと、あのー。すみませーんっ! 誤解なんです! 私たち道に迷ってしまっただけなんです、どうか助けてくださーいっ!……はぁ、ダメみたいです。相手にしてもらえません」

ラポム:「んー……ダメだ。銃を下ろしてくれそうにない……仕方がない、ドングリ爆弾を──」

リシェラ:「──フッ!」

────ラポムがリュックに手を入れたと同時に、突如近くにあった家の扉が開き、追っ手たちの顔をナイフが掠めていく

リシェラ:「今のうちに中へ! 早く!」

────二人を引き入れると鍵を掛けるリシェラ

ティーナ:「ありがとうございます、助かりました。」

ラポム:「うわぁ、急に扉があいたと思ったら、投擲? カッコいいー!……って……ん? キミは! リシェ──」

リシェラ:「──シッ! 挨拶はなしで! 何かあったんですよね? 急いで裏口から出ましょう! こっちです!」

ティーナ:「先に行ってください! このままではすぐに追いつかれますから、私は追っ手を、このハープで眠らせます!」

ラポム:「わかった! 後で合流しよう!」

ティーナ:《頷く》

────頷くティーナ、ハープを手にしてポロンと響かせると、優しい音色の子守唄を奏で始める

ティーナ:「さぁ、この音色を聴くと眠くなってきたでしょ? ぐっすり休んでいいんですよ?」

────暫くすると、扉を無理やり開けようとする音や人の声は徐々に静かになり、ドタリ、バタリと倒れる音がしたかと思うと、イビキが聞こえてくる

ティーナ:M(……外が静かになってきました。そろそろでしょうか……)

ティーナ:「ふふっ、イビキが聞こえてきましたね。お疲れのようです。ちゃんと眠ったのか確認しておきましょう……」

────外に出るティーナ

ティーナ:「……うん。眠っているようですね。それでは……おやすみなさい」《にこっ》

ティーナ:「さてと……ん? あそこに見えるのは……コハクちゃんっ!」

コハク:「あっ、ティーナおねぇちゃん……」

ティーナ:「コハクちゃん、えっ、足に怪我を!」

コハク:「ちょっと痛いけど、かすり傷だから大丈夫──」

ティーナ:「駄目よ! ちゃんと治さないと! じっとしてて、これくらいなら私のハープですぐに治るわ」

────癒しのハープを奏でるティーナ

コハク:「……ティーナおねぇちゃん、もしボクのために危険なことをしてるなら、心配しないで? ボクはまだフーリおねぇちゃんを置いたまま、一人でリーベルに帰れないよ」

ティーナ:「でも……」

コハク:「だから、もう帰ろうよ。ティーナおねぇちゃんに何かあったら、ボク嫌だ」

ティーナ:「そっ、か……うん、わかった。それじゃ帰ろっ。ラポムさんに伝えなくちゃね」


◯マリシ・研究所付近

クロナ:「どうしてお前が邪魔をするのですか? 傍観者ではないのですか?」

ティアン:「あー……ごめんごめん。ちょっと見てらんなくってさぁ。あんなちっちゃいコロコロした狐の子が、そんな物騒なモンで蜂の巣にされちゃったりしたらさぁ、いやぢゃ〜ん?」

クロナ:「傍観者は傍観者らしくしてください」

ティアン:「わかったってぇー、今度は手ぇ出さないからさぁ」

────チッチをそっと手のひらに乗せ、優しく両手に包みティアンがダルそうに言う(本心ではない)

ティアン:「あ〜……また落とし物拾っちゃったよぉー。今度は小鳥かぁ、はぁ……。んーじゃ、オレは行くよ?」

────後ろ向きのまま尻尾で挨拶をして立ち去るティアン

クロナ:「……」


◯マリシ・住宅

リシェラ:「あそこにも追っ手が……しばらくここに隠れていたほうがいいみたい」

ラポム:「……ここは?」

リシェラ:「詳しい事情は話せないけど、家主は家を空けていて、私が鍵を預かっているの。さっきの家も同じよ。それより、何で軍部の人たちに追われてるんですか?」

ラポム:「ちょっと誤解があってさ、リシェラちゃんは何しにマリシへ?」

リシェラ:「うーん……私のパパとママ、マリシで働いてるはずが、もう何年も家に帰ってないの……それで、パパとママの行方を探しているの」

ラポム:「そっか、両親の手がかりは見つかった?」

リシェラ:「それが……。今ある手がかりはこれだけしかなくて……」

ラポム:「……手紙?」

リシェラ:「ねぇ! 姿を変えられる獣人のことを知らない⁉︎ その手紙はパパが書いたものなんだけど……姿を変えられる獣人に襲われる! 殺されるって、ママが理性を失って叫んだり、怯えるようになったことが書かれていたの……」

ラポム:M(もうコハクの情報が?……)

────手に力が入り、手紙を握りしめるリシェラ

リシェラ:「他にも、パパがその獣人を探していることや、協力してほしいといった内容が書かれてたけど……手紙を受け取った人は断ったらしいわ。パパの様子が普通じゃなかった……って。その後のことはわからないと……」

ラポム:「……よし! 取引しよう。ボクはキミにその獣人を紹介してあげられるかもっ」

リシェラ:「──! やっぱり知ってるのね! 取引の条件を言って!︎」

ラポム:「キミがタングリスニに来てくれること」

リシェラ:「……本当に……会わせてくれるの?」

ラポム:「その獣人に、根拠もなく危害を加えないならね?」

リシェラ:「理由もなくそんなことしないわ! 私はただ、知りたいの。パパとママの行方を……その獣人なら何か知っているかもしれない!」

リシェラ:「何年も探してきたけど、ずっと手がかりがなかった。今はもうそれに賭けるしかない……わかったわ。タングリスニへ行きます。バルナに帰れないと決まったわけじゃないもの……」

ラポム:「それじゃ、決まり! 追っ手もいなくなったみたいだ、みんなと合流しよう!」


◯マリシ・南ゲート

ラポム:「コハクたち見当たらないな……」

ティアン:「あれぇ? また会ったねぇ、2人とも知り合いだったの? あっ、コハクとティーナを探してるなら馬車の方へ行ったよ?」

ラポム:「あぁ、無事だったんだ、よかったあぁ!」

リシェラ:「あっ、クロナさんがキョロキョロしながらゲートの方に近づいて行きました……誰かを探してるみたい」

ラポム:「うーん……二人に頼みが──」

────ゲート前で同僚と話をするクロナ

クロナ:「あの後、アイシャはここを通りましたか? ん? いえ、私はマリシから出ておりませんが……。え? 私がローブを着た者を連れて、バルナの方へ向かった? ……まさか……特徴は?」

リシェラ:「あっ、クロナさん」

クロナ:「今から帰られるのですか?」

リシェラ:「はい、それでは失礼します」

クロナ:M(不審者はもう一人残っている。そのバスケットなら隠れられるかも……念のため、確認するべきでしょうか?)

クロナ:「来た時はそのような大きなバスケットをお持ちではなかったかと……」

リシェラ:「マリシのお客様にお貸ししていたバスケットを返していただいたんです。お礼と言って料理の材料をたくさん頂いて……ではこれでっ」

クロナ:「待ちなさい。そのバスケットに被せた布をとって、中身を見せてください」

リシェラ:「あの……急いで帰らないといけないので、失礼します!」

クロナ:「待てっ!」

リシェラ:「きゃっ!」

────クロナがリシェラの腕を強引に掴んだため、リシェラはバスケットを落とし、中に入っていたものが散乱してしまう

クロナ:「木の実と……小麦粉?」

ティアン:「うわぁー! 善良な市民に向かって、ちょっと乱暴じゃないですかー? ひどーーい! ありゃ、人がたくさん集まってきちゃったよ」

────近くにいた通行人が群がり野次馬となる

クロナ:「お前たち、何をみている! 見せ物ではありませんよ!」

クロナ:「……腕を強く引いてしまい、申し訳ありません。不審者を探しに行くところでしたので、失礼します……」

ティアン:「ありゃ、走って行っちゃったよ。……さてと、コハクを逃すまでの時間稼ぎだっけ? 今回だけ、特別だよぉ? んぢゃ、おさきっ!」

────ケープに隠れていたラポムがリシェラの背中から飛び降りる

ラポム:「うんしょっとぉ! それにしてもクロナって、ちょっと詰めが甘いとこあんのなー」

リシェラ:「ケープに隠れて苦しくなかったですか?」

ラポム:「うん、リシェラちゃんの背中に張り付くの、ちょっと面白かった! それより急いで追いかけないとだな……」

ラポム:「リシェラちゃん。用事を済ませたらすぐに迎えに行くから、キミはリシェラーゼで待ってて?」

リシェラ:「わかりました。美味しいケーキを用意して、お待ちしております!」


◯バルナ・森の付近に停めている馬車の中

ラポム:「コハク!」

コハク:「ラポム!」

ティーナ:「ラポムさん、ご無事で!」

ラポム:「急いでるから手短に話すよ。今ティアンさんが引き留めてくれているけど、クロナがこっちに向かってる」

コハク:  & ティーナ:「「えっ」」

ラポム:「ボクはクロナに話があるんだ。二人はバルナにあるリシェラーゼというお店で待ってて欲しい」

ティーナ:「わかったわ、行きましょうコハクちゃん」

コハク:「う、うん……気を付けてね?」

────二人を見送るラポム

ラポム:「行ったか……お? ちょうどいいタイミングでティアンさんがクロナを連れてきた!」

ティアン:「あ! そうそう、あそこの小さい獣人に似てる!((......かも?))」

クロナ:「姿を変える獣人の顔を見たというから案内させましたが、随分と遠回りしてくれましたね」

クロナ:「……ふん、お前が『姿を変えられる』という獣人ですか?」

ラポム:「そうだって言ったら?」

────銃を構えるクロナ

クロナ:「その力はとても危険です。排除しなければなりません。もう一度確認します、お前が姿を変えられるという獣人ですか?」

ラポム:「排除はイヤだなぁ……はぁ、そうだよ。ボクがその獣人だ」

ラポム:M(コハクが狙われたら嫌だもんなぁ)

クロナ:「お前に聞いておくことがあります。何を探っているんですか?」

ラポム:「その質問に答える前に取引しない? ボクはキミのマスターに相応しい人を知っている」

クロナ:「は?」

ラポム:「そいつはタングリスニにいる。……ってことだからさっ、タングリスニに来てよぉ。ね?」

クロナ:「私は現在、マスターがおりませんが、マリシに忠誠を誓う身ですので。そのような馬鹿げたことを仰るなら……容赦しません」

ラポム:「ありゃ、交渉失敗かぁー。ざーんねんっ! んじゃやるしかないか! こっちだ!」

クロナ:「待て! どこへ行く!」

ティアン:「おー? 面白くなってきたぢゃん! 追いかけよっと!」


◯バルナ・街の入り口付近

ティーナ:「えっと、こっちだったかな? 昔バルナにいた頃は、リシェラさんのお店に行ってたのにな。あれ、迷っちゃった。あの人に聞いてみましょう。すみませーん。リシェラーゼというお店は……」

コハク:「……ティーナおねぇちゃん。ボク、行ってくるっ!」

ティーナ:「え? ちょ、ちょっとコハクちゃんっ!」


◯バルナ・森の中

クロナ:「そこかっ!」

────銃声が響く

ラポム:「へへーん、当たるかよー! こっちからもいくよーっ! それっ!」

クロナ:「あれは……スリングショット⁉︎」

────パァーンっという爆発音

クロナ:「クッ!」

クロナ:M(……これはいったい? ただの小石ではなかったか、爆発するとは……)

────リュックいっぱいに詰まったドングリ爆弾を自慢げにみせるラポム

ラポム:「今日持ってきたドングリ爆弾は威力が小さいけど、いっぱいあるからね。耐えられる?」

クロナ:M(威力が小さいだと? 私のボディに傷をつけられるとは……あんなモノを何度も受け続けたら危険ですね……それにしても)

クロナ:「ちょこまかと……木々を飛び移って鬱陶しいっ!」

ティアン:M(ん? クロナがライフルからショットガンに持ち替えた。手際よくシェルを銃に押し込んで……)

ラポム:「あっヤバいっ!」

ティアン:「撃ったっ‼」

クロナ:「ふむ、茂みに隠れましたか……」

クロナ:「さっきからそこで観察してるお前も目障りです。撃ちますよ?」

ティアン:「おっと! ここは一旦引こうっとぉ」

ラポム:M(ぅぐッ……油断したぁーっ。あれじゃ近づけないよ……。直撃してたら、いや、ドングリ爆弾を狙われても危なかったか)

コハク:小声「ラポムっ!」

ラポム:小声「わっ! なんでコハクが来てるの⁉」

コハク:「うあっ! すごい血っ‼︎」

ラポム:小声「わっ! しぃーっ!」

クロナ:「そこかっ!」

ラポム:「危ない!」

────ラポムが咄嗟にコハクを突き飛ばした直後、ショットガンの銃声が響く

クロナ:「外しましたか……」

ラポム:小声「はぁ……はぁ……」

コハク:小声「ごめんなさい……」

ラポム:小声「コハク、ボクは軍人だ。ボクを心配して来てくれたんだろうけど、こんなのなれっこさ。キミはこんなところにいちゃいけない。これを持って早く帰るんだ」

コハク:小声「これは?」

ラポム:小声「ドングリ爆弾。何かあった時は投げつけて逃げるんだ。 ──あ! クロナがこっちに来るっ! 早く行って!」 

クロナ:「隠れていないで出てきなさい!」

────飛び出していくラポム

ラポム:「休憩は終わりっ! こっちこっち!」

コハク:「ラポム! ど、どうしよう……いっちゃった。ラポム大丈夫かな……」

ティアン:「ふむ、どうするぅー? リシェラの店までついて行こうか?」

コハク:「……ボク、結局、調査だって失敗して、また何もできなかった……ラポムが怪我をしているのに……。ボクは……何も……。……っ! そんなのいやだっ! こ、怖いけど、ボクだって、た、戦うんだ。……で、でも、どうしよう」

ティアン:「……ねぇ、さっきからなに! そうやってずっとウジウジしてさぁ、一生何もしないつもりっ⁉」

コハク:「う……うぅ……」

ティアン:「ごめん……言い過ぎた……」

コハク:「ううん、ありがとう、ティアンさん。ボク、ラポムのところに行ってくる!」

ティアン:「……」

コハク:「チッチ! ティーナおねぇちゃんを呼んできてっ! ラポムを回復してもらうんだっ」

コハク:「変化っ!」

────ポムンと煙が上がると同時に、コハクの姿が変わる。ラポムは木陰に隠れている

ラポム:M(はぁ……はぁ……、さっきの傷が思ったより深い……キツイなぁ。コハクにカッコつけちゃったけど、ボクはいつも後方部隊でみんなに助けられてばかりで……)

クロナ:「どうしました? またかくれんぼですか? その木陰にいるのはわかっているんですよ? 動きも鈍くなっていますね」

ラポム:M(はぁ……捕獲任務対象者、製造No.967『クロナ』、テルエス様から大きな破損はさせるなと忠告されている。アンドロイドには薬も治癒魔法も効かない。タングリスニにはまだ修理する技術が無いから……)

コハク:「今だっ! ドングリ爆弾をくらえーーっ! えいっ!」

クロナ:「ぐぁッ‼」

ラポム:M(えっ! コハクっ⁉ ボクに変化したのっ⁉)

クロナ:「ぐぅうっッ! ……なぜ背後に、どういうこと⁉ [ターゲットを捕捉、解析を開始……!]」

コハク:「わっ! 眼鏡が光った!」

クロナ:「[ERROR――異常を検知――解析に失敗しました……] ……まさか……そんな!」

コハク:「こ、こわくないぞっ! どんぐり爆弾、えいっ! ……あ、外しちゃったぁ」

クロナ:「そう何度も当たるわけには……くらいなさいっ!」

コハク:「わっ! 隠れろーーっ!」

ラポム:M(まだ、まだ動けるっ! コハクと連携だっ!)

ラポム:「こっちだよっ! これでもくらえーっ! 逃げろー!」

クロナ:「ぎゃぁッ!」

コハク:「鬼さんこ~ちらっ! わっ! 逃げろーっ!」

ラポム:「手のなるほーぅへっ! ポムポムぅーー!」

クロナ:「予測できないっ……」

────向こうからティーナがやって来てラポムの姿のコハクを見つける

ティーナ:「……っ! あっ! ラポムさーーーん! コハクちゃんを見ませんでしたかーー?」

クロナ:「──⁉」

コハク:「あっ! チッチとティーナおねぇちゃーん!」

ティアン:M(コハクが元の姿に戻った!)

ティーナ:「あ! コハクちゃんだったのね!」

クロナ:「これがっ……姿を変える力……」

ラポム:「隙あり! クロナ、取り押さえたゾ! 降参しろ!」

クロナ:「──ひっ、ひぃっ! あわわ。ま、まま、参りましたあぁっ! ご……ごめんなさいぃーっ」

ティアン:「オレは見ていた。ラポムがクロナを押さえようとした時、コハクと一緒にいた小鳥、チッチが、クロナの眼鏡を咥えて飛んでいくのを……」

クロナ:「めっ、眼鏡を返してくださぁ~~いっ。おねがいしますぅぅっ!」

ティアン:「眼鏡が本体なのか? と思うほどの変わりようだ」


◯バルナ・タングリスニに向かう馬車の中

ティーナ:「リシェラさんの作ったケーキ、美味しかったですね! フルーツタルト、また食べたいです」

ラポム:「いやぁ〜、美味しかったなぁー。木の実のタルト!」

コハク:「ボクはミルクレープとスフレと……あと、いちごのぉ……」

クロナ:「食いしん坊ですね、私はチーズケーキが……」

リシェラ:「ふふっ、皆さんに喜んでもらえてよかったです。ティアンさんも食べていかれたらよかったのに……」

コハク:「リシェラさん、ごめんね。お父さんとお母さんのこと、わからなくて……」

リシェラ:「ううん、コハクちゃんの他にも、変化という力がある獣人が、リーベルにいたことがわかりました。きっとパパはその獣人を探していたんです」

リシェラ:「それにタングリスニでも何か手掛かりがみつかるかもしれない!」

ラポム:「うん。何かあればボクも協力するよ」

ティーナ:「コハクちゃん、頑張ったね!」

コハク:「えへへへ」

ティーナ:「あっ、タングリスニが見えて来ましたよ?」

クロナ:「これからは、タングリスニに忠誠を誓います。グッドバイ、マリシ……」



────────────────

to be continued……



*使用した楽曲

リーベルの森のうたより『郷愁の詩』

作詞作曲:こんのすけ 編曲:意思恵 大護


※表記について⦅?と思ったらご覧ください⦆

◯ = 柱、シーンの場所

──── = ト書き、状況説明

『』前にN = ナレーション、語り

「」内の『』 = 何かを指したり、強調。読みづらさを緩和したくて入れた箇所もあるので気にせず

()前にM = モノローグ、呟き、または思考

「」前に小声 = ヒソヒソ声

「」前に通信 = 通信中

「」前にキャラ名&キャラ名 = 順番に話さず同時会話(タイミングは合わせなくていい)

「」内の(( )) = 心の声、声に出す

「」内の── = 相手の言葉を遮ったり、話を続けようとする言葉の勢い。感情的な表現など

「」内の[ ] = 紙面やデータなどを読み上げる台詞。アンドロイドの場合は機械的な音声表現もいい

『』内の♫ = 歌ってもいいし、朗読でもいい

「」後の《 》 = オノマトペ 、声に出さない

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