Aguhont Story Record 19th Episode

『白夜に染まる雪とそり』 

作:天びん。 

(1:3:4) ⏱40分 

 

【登場人物】

アリーンシャ:リーベルに住んでいる獣人(クォーター)の女の子、元気で活発。無謀で図太く振る舞うが、少々臆病な一面も。戦闘ではバルナで購入した両手剣・グランルナを扱う。今回は国別対抗戦に参加するフーリの護衛としてついてきた。

フーリ:性別不問、リーベルに住んでいる狐の獣人で両膝がオートマテリアによる義足の薬師。昔は放浪の薬売りとして薬を売り歩いたり治療したりしていた。ご飯が好きでメッチャ食べる。

イディア:性別不問、銀髪ストレートロングにメイド服を着用しているアンドロイド。バルナでパン屋を営んでいたが、現在はタングリスニに住んでいる。国別対抗戦の解説者。

リシェラ:人間の女性でバルナのケーキ屋「リシェラーゼ」店主。明るく人見知りなどもない。お菓子作りと読書が趣味。今はタングリスニに住んでいる。

マズダー:男性、人間のおっさんに見えるが実はアンドロイド。何処の国にも属さない戦いの見届け役。(司会と兼役)

ミケ:性別不問、ぼさぼさ猫耳少年。放浪癖と収集癖がひどく、ねこの姿ででよく他国に不法侵入してはレアなものをコレクションしていたが、バルナで捕まった。現在はバルナでのびのび暮らしている。

アイシャ:マリシに住んでいるカンフーエルフ。10代半ばの少女のように見えて、その実100歳を超えているおばあちゃん。エルフなのに力が全ての脳筋で、柱でも木でも折って武器にする。(受付と兼役)

テルエス:性別不問、タングリスニの皇族、耳が半ばから切り落とされており、右手が義手で執事服を身に纏っているハーフエルフ。軽薄で人懐っこい印象を受けるが、人間不信で冷徹な一面も。エミールという偽名を使い、リーベル国民2名を拉致した過去がある。

受付:国別対抗戦の受付担当者。

司会:国別対抗戦の司会兼実況。

※受付はアイシャ役、司会はマズダー役の人が兼役してください。

※兼役でやる場合は、イディア&ミケ、リシェラ&アイシャ、とすると丁度いいと思います。



【本編】

フーリ:いやぁ、悪いねぇ。ついてきてもらっちゃって。

アリーンシャ:ううん、気にしないで!私も久々に皆の顔見たかったし!

アリーンシャ:それに、フーリさんってこの前タングリスニとの勝負に勝ったからリーベルに引き抜かれたんでしょ?

フーリ:そうさ!リーベルの皆が頑張ってくれたんだよぉ!

アリーンシャ:だったら、まだタングリスニはフーリさんの事を狙ってるかもしれないんだよね?私も護衛頑張るから!!

フーリ:…頼もしいねぇ。


―フーリとアリーンシャはタングリスニで行われる白夜祭の国別対抗戦に参加するために、レイプトハマー山脈を訪れていた。


アリーンシャ:そういえば気になってたんだけど、白夜…?ってなぁに?

フーリ:アリーンシャはバルナ出身だったっけ?そうかい、タングリスニにいる間に白夜を見たことがなかったんだねぇ。

フーリ:白夜とは、太陽が沈まない夜の事だよ。タングリスニでは何年かに1度このくらいの時期になると、レイプトハマー山脈山頂付近で白夜を鑑賞することが出来るのさ。

アリーンシャ:太陽が沈まない夜…?!明るいの?!

フーリ:そうさ。だから真夜中でも人がいっぱい出歩くんだよ。

アリーンシャ:それで到着を夜に合わせてたんだね?一体どんな感じなんだろ!!

フーリ:私もエリスに国別対抗戦のリーベル代表を務めてほしいって頼まれてるからね。私の底力、たっぷりと見せてあげるよ!

アリーンシャ:うん、楽しみにしてるね!応援も頑張っちゃお!!

アリーンシャ:あ!あれ白夜祭のチラシかな?


―アリーンシャが建物の壁面に貼られた白夜祭のチラシを見つける。


フーリ:んー…?そのようだね。

アリーンシャ:えっと…なになに?

アリーンシャ:『再び白夜祭の季節がやってきた!各国の屋台もたっぷり出店予定!!更に…今年は国別対抗戦も開催が決定!!優勝者には皇族のテルエス様が何でも1つ願い事を叶えてくれるぞ!!』だって。

フーリ:…え。

アリーンシャ:うわぁ、勝ったら願い事叶えてもらえるんだ!楽しみだね!!フーリさん!!

フーリ:あ…あぁ、そうだねぇ。

フーリ:(…面倒なことにならなきゃ良いけど…。)


―路地裏ではマズダーが情報紙を読みながらその様子を伺っていた。


マズダー:白夜祭の国別対抗戦ねぇ…。

マズダー:(白夜祭なんてホント何年振りだぁ?俺が覚えてる限りでも10数年は前の話だぞ。)

マズダー:(しかも国別対抗戦なんて今まで聞いたこともねぇし、優勝者には皇族が願いを叶えるというオマケ付き…)

マズダー:テルエス…一体何を考えてやがる。


―白夜祭会場となるレイプトハマー山脈の頂上付近では各国の出店が並んでおり、非常に活気のある声が飛び交っている。


アリーンシャ:わー!スッゴーい!!お祭りだぁ~!!

フーリ:はしゃぎすぎて転ぶんじゃないよー?

アリーンシャ:はーい!

アリーンシャ:あぁ!!イディアさんのパン屋さんだぁ!!久しぶり〜!!

イディア:バルナ1と評判のパン屋「イディアのお店」の特製サンドイッチはコチラでーす!

イディア:…あれ?アリーンシャさん?お久しぶりです。

アリーンシャ:久しぶり!!元気にしてましたか?!

イディア:はい。こうして商売もさせていただいてるくらいには。

イディア:アリーンシャさんも相変わらずお元気そうで。

アリーンシャ:えへへ!

アリーンシャ:あ、フーリさん、紹介するね!バルナでパン屋さんを経営してるイディアさんだよ。

フーリ:おや、このメイドさんがかい?

イディア:私はメイド服を着ていますが、メイドではありません!…イディアです、どうぞ宜しく。

フーリ:そうかい、宜しくねぇ。

アリーンシャ:フーリさん、イディアさんの作る特製サンドイッチはホントに美味しいんだよ!!私タングリスニ出てから、それが食べられなくて時々後悔するもん。

フーリ:ほぉ…そんなにかい。

フーリ:なら…幾つか頂こうかねぇ。

イディア:お買い上げありがとうございます。

イディア:幾つになさいますか?

フーリ:んー…アリーンシャも食べるだろうから…7つ貰おうかな?

イディア:7つ?!

アリーンシャ:あ…フーリさん、私1つでお腹いっぱいだよ?

フーリ:そのつもりだよ?あとは私の分さ。

アリーンシャ:フーリさん、見かけに依らずメッチャ食べるよね…

イディア:あ、ありがとうございます…(苦笑)

リシェラ:あの、私にもソレひとつ下さい。


―黒いフードを被ったリシェラがフーリの横から顔を出して特製サンドイッチを注文した。


イディア:すみません、今ので作り置いてた分も売れてしまって…

イディア:って、あれ?リシェラさんじゃないですか。

リシェラ:―ハッ!バレてしまった!!

リシェラ:完璧な変装だと思ったのに…

フーリ:いや…バレバレだと思うよ?

アリーンシャ:バレバレだね。

イディア:バレバレでしたね。

リシェラ:そんな!!敵情視察のつもりだったのに…

アリーンシャ:…全部筒抜けなんだよなぁ。

フーリ:あー…いや、それよりアンタも欲しいなら私のを1つあげるよ。

リシェラ:え!?いや、でも悪いですし…。

フーリ:いーんだよ、美味しいものは皆で食べるとより美味しくなるんだから!遠慮は要らないよ。

リシェラ:…分かりました、ありがとうございます。

リシェラ:でも貰ってばかりでは悪いので、私のお店にも来てください。

フーリ:お店…?!

アリーンシャ:あ、リシェラさんはケーキ屋さんをやってるんだよ。バルナの「リシェラーゼ」ってケーキ屋さん、聞いたことない?

フーリ:な、何だって?!?!ティーナが教えてくれたあの店じゃあないか!!

リシェラ:爽やかな甘さのチーズケーキとかオススメですよ!

リシェラ:今回のお祭りでは食べ歩きを考慮してプチケーキをたくさん用意してるんです!

フーリ:こうしちゃいられない!アリーンシャ、さっさとお店に伺うよ!!

アリーンシャ:え?だってこれから国別対抗戦の申し込みに行くんじゃ…

アリーンシャ:フーリさん、食べ物に目が眩んでちょっとおかしくなってない…?

イディア:まさか人気の「ひとくちベリーレアチーズケーキセット」?!

フーリ:レアチーズケーキ!!それは是非とも食したいねぇ!!

イディア:何だかんだでまだ買えてなかったんですよね…。私も伺います!

アリーンシャ:ちょっと、フーリさん?!


―アリーンシャはフーリがリシェラ、イディアと共に人並みに飲まれていくのを眺めていた。


アリーンシャ:行っちゃった…。

アリーンシャ:…あれ、絶対忘れてるよね。エリス様に頼まれたのに…。

受付:国別対抗戦の受付はこちらです~!各国代表者の方はこちらで受付をお願いしま~す!

アリーンシャ:あ、いけない!

アリーンシャ:えーっと、んーと…(しばらくオロオロする)―あぁ、もう!

アリーンシャ:…はい!私がリーベル代表です!



司会:…さーて、始まりましたぁ!白夜祭記念国別対抗戦!!

司会:では早速出場者の紹介からいきましょう!

司会:まずは…バルナ代表、ミケ君です!!

ミケ:うぇーい。

司会:続いてぇ!マリシ代表、アイシャさんd―あべっ、ぶほっ、がふっ!!


―司会に石柱がクリティカルヒットし、司会は3回転くらいしながらステージに突っ伏す。そして石柱からヒラリと舞い降りたアイシャがその上に着地した。


アイシャ:アイシャアル!宜しくお願いするネ!!

司会:あの…取り合えず退いていただいても宜しいでしょうか…

アイシャ:?そんなところで寝て何してるアルか?睡眠不足アルか?とっとと家帰って寝るヨロシ。

司会:貴女にやられたんですよ、あ・な・たに!!

アイシャ:…そうだったアルか?途中で何か当たった気はしたけど、蹴散らしたから問題ないヨ!

司会:それが私なんです!!いい加減怒りますよ?!

アイシャ:カルシウム不足も良くないネ。煮干し食うか?

司会:だぁー!話が通じない!!

司会:…もう!ちゃんと話聞かないと反則負けにしますよ!!

アイシャ:わぁぁぁ!それは困るアル。ちゃんと聞くヨ。

司会:…ゴホン。お次はリーベル代表、アリーンシャさんだぁ!

アリーンシャ:はーい!頑張りまーす!!

司会:では最後に開催国タングリスニ代表、エミールさんです!!

テルエス:よ、よろしくお願いします…。

フーリ:もごっ!?


―観客席とは知らずイディアとリシェラに挟まれながら食事をしていたフーリが、聞き覚えのある名前を耳にしてむせる。


リシェラ:あらあら、フーリさん大丈夫ですか?

フーリ:大丈夫、大丈夫…ちょっと詰まっただけ…

フーリ:―でも、聞き間違いではなかったようだね。

イディア:…?お知り合いですか?

フーリ:あぁ、認めたくはないけどね。―って、アリーンシャ?!何であんなところに…??

リシェラ:アリーンシャちゃん、国別対抗戦のリーベル代表だったのね。スゴいわ!

イディア:なるほど…だから途中でいなくなったんですね。

フーリ:…あ。

フーリ:(あぁぁぁぁ!!忘れてたぁぁぁぁぁ!!!!)

フーリ:(本来なら私が出るはずだったのに…もしかしてアリーンシャ、私の代わりに間違えられて連れていかれた?!)

フーリ:(小声)…どどどどどどどうしよう…

リシェラ:アリーンシャちゃん、頑張れー!

イディア:私も解説しながら応援しますよー!!

リシェラ:え?解説?

イディア:実は私…パン屋の出店とは別に、国別対抗戦の解説者としても呼ばれてるんです。

リシェラ:そうだったの?!イディアさん、すごーい!!

イディア:ありがとうございます。アリーンシャさんも参加されるようですし、気合い入れて解説しますよ!

フーリ:ふぇ…?

リシェラ:何してるんですか、フーリさん。ここは味方として応援してあげなきゃ!

イディア:そうですよ、アリーンシャさんが頑張れるように。

フーリ:…そうだねぇ。

フーリ:アリーンシャ、頑張れー!!応援してるよぉ!!



アリーンシャ:―!フーリさん…。

アリーンシャ:もう…やっと気付いたんですか?

司会:参加者の紹介が終わりましたので、ルールを説明します!

司会:本競技は各国の代表1名がこちらの木製のそりを引き摺って進み、少し離れた山小屋でチェックポイントのコインを受け取ったら、指定されたルートの斜面を滑ってゴールである麓のロッジまで滑り降りていく、というものです。

司会:指定されたルート以外での滑走や、指定の雪ぞり以外での滑走、他国のコインの奪取、は認められておりませんので、それらが露見した場合は失格とさせていただきます。

テルエス:あの…質問です。

司会:何でしょう、エミールさん。

テルエス:今貴方が口にしたルール以外は何しても良いんでしょうか?

司会:えっと…具体的にはどういった内容を想定されてますか?

テルエス:例えば―

アイシャ:勿論、代表者への攻撃ヨ!…良いアルか?良いアルか?

司会:目をキラキラさせながら寄ってこないで下さい!

司会:えー、攻撃自体は可能です。ただ、本競技はあくまで国際親善行事であるため、人体への直接攻撃は不可とします。

アイシャ:相手蹴り飛ばすのは駄目か?

司会:話聞いてましたか?駄目ですよ。

司会:アイシャさんはまず辞書で「国際親善行事」の意味を調べてきてくださいね。

アイシャ:わかた!おい、誰か辞書寄越すネ!投擲武器にするアル。

司会:分かってないですね?!直接攻撃は不可って言ったでしょ!ふーか!!

アイシャ:このガキ、耳元でギャーギャーうるさいアルなぁ。とっとと始めるネ。

司会:…もうやだ。

司会:頼むから話聞いてくれよ、じゃないと話進まないよ…。

司会:…すみません、エミールさん。質問の途中で遮られてしまって。

テルエス:大丈夫ですよ。

テルエス:僕は妨害等について聞きたかったのですが、今の質問で理解できましたので。

司会:左様ですか…

司会:では他に質問がないようであれば始めさせていただきます!

ミケ:いえー!バルナのミケをよろしくぅー!

アイシャ:絶対マリシが勝つアル!!皆のもの刮目するネ!!


―木陰でマズダーがイディアの特製サンドイッチを片手にステージを見ている。


マズダー:おー。始まった、始まった。

マズダー:あれじゃ、司会進行も大変だろうな…まさか皇族本人が参加するたぁ、誰も思わねぇよ。

マズダー:っと…あぁ?リーベルの代表はアリーンシャ…?下調べではフーリだったはず…何があったんだ?



フーリ:アリーンシャ!

アリーンシャ:フーリさん…気付くの遅すぎですよ。

フーリ:すまないねぇ…つい目の前の食べ物に夢中になっちまって…

アリーンシャ:もう…こうなってしまっては仕方ないです。私がリーベル代表として優勝しますよ!!

フーリ:助かるよ。応援は任せておくれ!

ミケ:んー?あれ、やっぱりフーリじゃん。久しぶり~!

フーリ:おんや、ミケじゃないか!あんた少し前にバルナで捕まったって聞いて心配してたんだよ?元気にしてたかい?

ミケ:ちょー元気!今はバルナの…ばろうず?って子供のところで情報収集の手伝いしてるよ。俺の力が必要なんだって!

フーリ:そうかい…辛い状況でないなら安心したよ…。

アリーンシャ:フーリさん、知り合い?

フーリ:この子はミケ。昔リーベルに住んでた猫の獣人だよ。私もこの子とは結構気があってね、薬を売ってリーベルに戻ってきた時にはよくバルナやマリシの話をしてやったもんさ。

フーリ:今はバルナにいるってことは、ミケはバルナの代表かい?

ミケ:そだよー。バロウズに頼まれて、出ることになったんだ。タングリスニなら少しくらい暴れてきても良いよって。

フーリ:それは…国際問題になりかねないから、ほどほどにね…。また捕まっちまったら洒落にならないよ。

ミケ:ま、俺は楽しむだけだしー。フーリはリーベルだけど、俺の事も応援しろよなー!!勝ったらフーリをバルナに連れていけないか頼んでみる!!

フーリ:はぁ?そんなの無理に決まってるだろう?

テルエス:無理じゃないよ。


―そこにテルエスがゆっくりと歩いてくる。


アリーンシャ:あ、エミールさん。

フーリ:…!お前…。

テルエス:テルエス様が「何でも1つ願いを叶える」と約束したからには、叶うんだ。

フーリ:そんなの無茶苦茶だよ!第一、私の意思はどうなる。

テルエス:意思…ね。

テルエス:(小声で)捕虜に意思なんて認められると思ってんの?

フーリ:―!

テルエス:まぁ…それがミケ君の願いならテルエス様は叶えるしかないからね、それも仕方ないことだと思うよ。

ミケ:だよな!よーし!頑張るぞー!!


―テルエスはピョンピョン跳び跳ねながらスタート地点の方へと向かっていくミケを見やると、こちらに少し微笑んでから後を追っていった。


フーリ:…けっ。相変わらずアイツが何考えてるか全く分かりゃしない…アリーンシャ。

アリーンシャ:はい、何ですか?

フーリ:悪いが絶対に勝っとくれよ…、特にあのエミールには…。

アリーンシャ:…?はい…。

マズダー:…なるほど?それが狙いかぁ…。

マズダー:そういうことなら、引き続き観測させていただきますかね。


―参加者全員がスタートに立った時点で、司会がピストルを持って現れる。


ミケ:あ、やっと司会の人来たぁ!

アイシャ:遅いアル!さっさと始めるネ!!

司会:えー…では、皆さん準備が出来ているようなので始めますよ…。

司会:国別対抗戦…位置について、ヨーイ…パーン!

司会:今スタートがきられました!実況は私、解説にはイディアさんをお迎えしてお送りいたします。

イディア:宜しくお願いします。

司会:では早速順位を見ていきましょう。

司会:現時点で先頭をいくのはエミール、続いて差がなくアリーンシャ、少し離れてミケ、アイシャの順番で進んでいきます。

イディア:山頂付近の雪は柔らかいパウダースノーなので、雪に慣れない他国の参加者はもたついているようです!

アイシャ:アイヤー!足が埋まって…うまく、進めないヨ…!

ミケ:くそっ、俺よりそりの方が重いとかどういうことだぁ…!

イディア:ちなみに全員の雪ぞりは公平を期して老若男女関係なく引けるよう、全て同じ重さとしておりますので悪しからず。

ミケ:にゃあぁぁぁ!そんなの分かってるよ!!

司会:先頭付近に視点を移してみましょう。

イディア:―!どうやらエミールさんとアリーンシャさんは足にスノーシューを装備しているようです!

司会:流石タングリスニ代表エミール!!リーベル代表のアリーンシャも少し前までタングリスニで過ごしていたようなので、生活の知恵が活きていますねぇ!

テルエス:ほぼ1年中雪におおわれているタングリスニでは、これはごく当たり前の事だからね。

アリーンシャ:念のためにと持ってきておいて正解だったわ!

テルエス:なるほど…意外に侮れない相手だ。

アイシャ:こうなったら、何とか足場を確保するしかないネ!!

司会:おーっと、アイシャが急に進路を変えてコースの端に…一体何をしでかすつもりだー?!

アイシャ:これ、貰うヨ!

司会:え…?スタッフの1人が持っていたプローブを引ったくって…?うわぁ…半分に折ったかと思いきや、アイシャ持ち前の力でねじ曲げ始めたー!!

イディア:プローブは本来雪に埋まってしまった遭難者を見つけるための救助器具でもあります。後で弁償は避けられないでしょう…。

アイシャ:これでヨシ!!あとは―

司会:プローブ…もはや針金のようにねじ曲げられたそれらは湾曲して…あれは楕円形でしょうか…?おやぁ?アイシャ急に髪をほどき始めた!!そして髪紐を…それぞれ楕円形の枠に縛り付けて…

イディア:―!あれはワカン!!砂地など足場の不安定な場所で用いられるワカンを手作りししました!!

アイシャ:これでもう沈まないネ!一気に行くアルよぉ…―破ァ!!

司会:スゴい…!スゴい加速だ!!一気に追い上げていくぅ!!流石の脚力です!!

イディア:スゴい勢いですね!その勢いに雪が煙のように舞い上がり、ホワイトバーンが発生しております!!

司会:…と、あれは…?ミケ、ミケです!!彼がアイシャの服の裾に掴まって一緒に引っ張られていく!素晴らしくズル賢い!!

ミケ:わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ゆぅぅぅれぇぇぇるぅぅぅぅぅぅぅ!!

イディア:しかしアイシャさん、追い付くことに夢中でミケ君に気付いておりませんね。彼の重量が軽いこともあってか、彼女には全く苦ではないようです。

司会:素晴らしい!マリシはこんな隠し球を持っていたのかぁ!!

アリーンシャ:わあぁぁぁぁ…ちょっ雪が…っわぷ…?!

フーリ:―!アリーンシャ!!

リシェラ:大変!!アリーンシャちゃんがリアル雪だるまに…!!

リシェラ:早く救助してあげないと窒息しちゃうわ!!

イディア:リーベル代表のアリーンシャさんが完全に雪に埋もれてしまいましたね。大丈夫でしょうか…。あの勢いではかなりの重量の雪に押し潰されたものと思われます。

司会:アイシャの雪に巻き込まれてしまったアリーンシャを救助するべく、プローブを装備したスタッフ達が慌てて駆け寄ります!その間にもアイシャの目はエミールを捉えて離さない!!

テルエス:くっそ、バケモンかよ…!

アイシャ:レディーに向かってバケモンとは聞き捨てならないネ!!お前も雪に埋もれるヨロシ!!

テルエス:―!?うわぁぁぁ!!

司会:おーっと、エミールも巻き込んでいく…!まさに悪魔的!!

イディア:アイシャストームとでも言うべきでしょうか…巻き込まれたらとんでもないですよ!!

司会:現在先頭は怒涛の勢いを見せるアイシャ、差がなくミケ、そして自力で這い出したエミール、現在最後尾は救助中のアリーンシャとなっております…!!

テルエス:よくもやってくれたな…僕を舐めるなよ…!

イディア:えー…こちらは中継地点、山頂に位置する山小屋の前となっております。そろそろ先頭の姿が見えてくる頃ですが…

司会:見えたー!雪煙をあげながらアイシャが満面の笑みで走ってくる!!…怖い!怖いです!!

司会:今日1日でどれ程の方が彼女に恐怖を与えられたのか計り知れませんが、滅茶苦茶怖いです!!山小屋のオーナーの顔も若干ひきつっております!

アイシャ:チェックポイント!着いたアル!!

イディア:は、はい!ではここでアイシャさんにはマリシ代表に用意されたコインを取ってゴールに向かっていただきま…あれ?


―見ると、アイシャの勢いに飲まれたコインが雪の中に埋もれてしまっていた。


司会:なんということでしょう!!アイシャが巻き起こした雪煙で4枚のコインが全て埋もれてしまった!!これは痛い!!

アイシャ:アイヤー!やってしまったアル!!

司会:さぁ、こうなってしまえば仕方ない。アイシャ、雪を掻き分けて探す、探す、探すー!!

ミケ:うぷ…スッゲェ気持ち悪ぅ…

司会:ようやく地に足をつけられたミケですが、何だか気持ち悪そうです!それもそうでしょう、あの勢いでは酔わない方が奇跡。少しばかり彼に同情します…!!

ミケ:…あ、ねぇねぇ…。

イディア:あ、はい…何でしょうか?

ミケ:コインって何で出来てるの?スズとかニッケル?

イディア:少々お待ち下さい…えー、今回本競技で用意したコインは白夜祭記念に作られた特注品で、表面には各国の紋章が施されており、全て純金で作られています。

ミケ:なるほどぉ。ってことは…


―ミケはフンフンと鼻を動かし、ある地点に目を付けるとザカザカと雪を掘り始めた。


ミケ:―!コインってこれ?

司会:おお!紛れもなく競技用に用意されたコインです!しかもバルナの紋章が書かれている!!

アイシャ:そんな…!マジかヨ!!

ミケ:俺は猫の獣人だからねぇ、他の参加者よりは鼻が利くのさ。バルナのコインだったのは予想外だったけど、俺ツイてるぅ!

アイシャ:そこを退くネ!!きっとその周辺に他のコインも埋まって…!

ミケ:おねーちゃん、良いこと教えてあげる。コインはこの辺にバラバラに散ってるよ。流石に俺もどれが何処のコインかまでは分からないけど、そろそろ後ろの人達も追い付いてくるだろうし、急いだ方がいいよ~?

アイシャ:―!

ミケ:じゃあ、お先ぃ!

司会:ミケ、アイシャを煽ると雪ぞりで滑り始めたぁ!!あとは麓まで決められたコースを滑っていくだけ!!

司会:ここでエミールもアイシャに追い付いた!また、救助隊からアリーン

シャを無事救出したと連絡も入りました!!



フーリ:あぁ、良かった…!あとは凍傷とかになってないと良いんだけど…

イディア:報告によるとアリーンシャさんには大きな怪我などもなく、ホットミルクを飲むと急いで山小屋に向かったとの事です!無事で本当に良かったですねぇ!!

リシェラ:怪我もないみたいですね、安心しました…。

リシェラ:でもこれだけ差が開いてしまって、アリーンシャちゃん勝てるでしょうか…

フーリ:どうかねぇ…。私としてはエミールの動きも気になるところだが…。



テルエス:え?コインが雪に埋もれた?!…面倒臭いなぁ。

アイシャ:お前もさっさと探すネ!このままじゃあの猫が優勝してしまうヨ!

テルエス:うーん…そうだなぁ。

アリーンシャ:はひ…はひぃ…!やっと着いたぁ…!

テルエス:じゃあ、これ…使ってみようか。

司会:?エミールが懐から何か取り出した!あれは何だぁ…ライター?

イディア:―!炎です!!突如エミールさんを中心に炎の渦が展開されましたー!

アリーンシャ:あっつ!!何これ!!

テルエス:炎の魔導具さ。この前バルナで買い付けたんだ、君の両手剣のようにね。

アリーンシャ:―!

アリーンシャ:(この人、グランルナのことを知ってる…?)

テルエス:大丈夫、それだけ離れてれば害はないはずだよ。

テルエス:それに…ほら、出てきてくれた。

司会:なんと!エミールの魔導具の熱により、雪が溶けてコインが顔を覗かせているー!!

テルエス:では、レディ達。お先に失礼。



フーリ:なぁにが、「レディ達」だ!!キザぶりやがって!!

リシェラ:でもこれでコインはゲット出来ますし、後は滑走するだけですよ!

リシェラ:心配なのは体格差ですね…。そりとかスキーだと使用者の体重によって速度が変わります。体格的に見てもアリーンシャちゃんはミケ君の次に軽いはず…。

フーリ:アリーンシャ、頑張るんだよぉ!他国のやつらなんか蹴散らしてやんな!!



司会:さて、颯爽と雪ぞりに跨がるエミール!

アリーンシャ:わわっ!急がないと…!!

司会:続いてアリーンシャが雪ぞりに乗って出発したぁ!!

司会:これで3国が滑走を始めたことになります!残るマリシのアイシャさんはというと―

アイシャ:―『右柱、折脚っ(うちゅう、せっきゃく)!』

司会:…え。


―アイシャ、山小屋の柱を折ってそれに飛び乗った。


アイシャ:やっぱ柱がないと調子狂うアル。

イディア:これがないと力が出ない的なこと言ってますけど、それ柱ですからね?!オーナーさん泣いてますよ?!

アイシャ:このままじゃ負けてしまうヨ!なら一発逆転、得意のコイツで飛んでいくネ!!

イディア:アイシャさん?!

イディア:…えー、チェックポイントからは以上です。

司会:…ハッ!それでは先頭の様子を見てみましょう。

ミケ:ふんふんふーん♪

司会:先頭を進むのはバルナ代表のミケ、既に山の中腹まで滑っております。鼻歌交じりでご機嫌ですね!

ミケ:1位は貰ったぜ!!

司会:少し遅れて2番手はタングリスニ代表エミール。這うように背を低くして空気抵抗を減らし、加速度を上げようとしているようです。じわじわと1位との差を詰めております!!

ミケ:なんだよぉ、ルンルンで滑ってたのにぃ!邪魔すんなおっさん!!

テルエス:おっさん…?

司会:ミケ煽る、煽る!!エミールも流石にこれは癇(かん)に障(さわ)ったか…?

テルエス:そんなことでは怒らないよ、―僕は優しいからね。

司会:怖いです!その笑顔が逆にこわーい!!観客席からも恐怖の悲鳴が所々上がっております!

テルエス:でもまぁ…教育的指導は必要かな?

司会:エミール、無駄のない動きで華麗にミケを抜き去った!!そこで…おや?何かバラ撒いたぞ?

ミケ:うわぁぁぁぁ!!何これ眩しい!!

イディア:閃光弾ですね!獣人の鋭敏な視覚、聴覚に大ダメージを与えております!

司会:これは痛い!!ミケ、ここで大分失速しました!!

テルエス:小型のスタングレネードだ、これで獣人自慢の目も耳もまともに使えないよ。

ミケ:みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

アリーンシャ:うわぁ?!何??あれは…ミケ君?!

司会:ここでリーベル代表アリーンシャが追い上げてくる!!

テルエス:チッ、もう追い付いてきたか…まだゴールまで距離があるのに…。

アリーンシャ:エミールさん、ダメじゃない!そんな危ないもの使っちゃ!!

テルエス:人体に直接攻撃したわけじゃないから大丈夫だよ、危なくない目眩ましの爆弾なんだから。

アリーンシャ:とは言っても、ミケ君あのままじゃ木とかに衝突しちゃうよ!!

テルエス:なら君が助けてあげると良い。そりから降りて乗せてやるとかさ。

司会:アリーンシャ、バルナ代表のミケを気にしているようです!

イディア:どうやら閃光弾を放ったエミールさんに説教してるようですよ!

テルエス:君も見たところ獣人だろう?―なら君も食らうと良い!

司会:おーっと、エミール再び閃光弾を後ろに向かってバラ撒いた!!アリーンシャ、ピンチです!!


―アリーンシャ、腰に差していたグランルナを抜き、構える。


アリーンシャ:一か八か…

アリーンシャ:―『疾風一閃』!!

司会:アリーンシャ、剣を抜いて横に凪ぐ!!―なんと!風圧で全て後ろに吹き飛ばしました!!

アリーンシャ:ぐうぅっ!!

イディア:しかし聴覚には少なからず影響があったようです!大丈夫でしょうか?!



フーリ:アリーンシャ!!

リシェラ:頑張って…!

リシェラ:アリーンシャちゃん、負けないでー!!



テルエス:…厄介だな…あの風属性武器…。

テルエス:足掻かれる前に…さっさと終わらせてあげるよ!

司会:まただ!また閃光弾が撒かれていくー!!アリーンシャ、今度は防げるかー?!

アリーンシャ:…くぅっ…なんの、これしきぃ…!!


マズダー:アリーンシャが力を振り絞り、グランルナを前方に突き出すと、刀身が淡く光り出した。

マズダー:その光はアリーンシャが乗っている雪ぞりを包んでいき、1本の鋭い矢のようになる。


アリーンシャ:ちょ?!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁ!!!!

テルエス:何っ?!

司会:なんということでしょう!!アリーンシャ、スゴい勢いで滑っていきます!1位のエミールを楽々追い抜いてしまった!!

アリーンシャ:わわわわわわわわ…!!何、何、何?!何が起こってんの?!速すぎて何がなんだか…?!?!

イディア:アリーンシャさん自身も訳が分からないといった表情です!!雪ぞりにしがみつくのがやっとといったところでしょうか?そのくらいスピードが出ております!!



フーリ:アリーンシャ…まさか属性技が発動しちまったんじゃないだろうね…!

リシェラ:え?本人の意思とは裏腹に、ですか?

フーリ:アリーンシャの両手剣は風の属性武器だ。じゃなきゃこんな異常な加速…説明できない。

フーリ:いくら周りが雪で覆われているとはいえ、ルートの周囲には観客も大勢いる。一歩まちがえば大事故だ。

リシェラ:そんなの危なすぎます!早く止めてあげないと…!!



司会:さぁゴール目前、最後の斜面にやって参りました!先頭はリーベル代表アリーンシャ!!勢いは衰えることなく、まっすぐゴール目指して滑ってきます!!

アリーンシャ:あわわわわわわわ!!速すぎて目が…目が回…るぅ…!!

司会:大分離されて2番手はタングリスニ代表エミール!ここから追い上げるのは少しキツいか…おや?

司会:なんと!なんということだ!!驚異のスピードで滑走してくるのはアイシャだぁ!!マリシ代表アイシャ、太い柱に跨がって飛ぶように滑ってくる!!怖い!!エミールとは異なりますが、満面の笑みが非常に怖いです!!

アイシャ:ヒャッハー!!やっぱり柱で飛んでいくのは気持ちがいいネ!!先頭も捉えたヨ!!

テルエス:やっぱりアイツ、バケモンじゃないか?絶対普通じゃない。

司会:エミールさんの言葉に完全同意です!絶対にマトモじゃありません!!

アイシャ:ごちゃごちゃウルサイネ!これ以上つべこべ言うならお前らに突っ込むアル。

司会:(咳払い)…さてアイシャ、アリーンシャを捉え…並んだー!!互角!ほぼ互角です!!

司会:どっちが先にゴールしてもおかしくない!!

アイシャ:絶対に勝つネ…!!

アリーンシャ:誰か…止め、止めてぇぇぇぇぇ!!

司会:両者ほぼ横並びで…ゴォォォォォル!!

司会:目視での判断が難しいため、写真判定を行います。いやぁ…これは接戦でした!!

アリーンシャ:わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ぼふっ?!


マズダー:アリーンシャがゴールの勢いそのままに、先に積まれていた雪に突っ込み、その振動で木から更に雪が落ちる。



フーリ:アリーンシャ…!!

イディア:すみません、すぐに毛布と医療班を呼んで下さい!

リシェラ:私、暖かい飲み物貰ってきますね!

フーリ:アリーンシャ!何処だい、アリーンシャ!!

アリーンシャ:フーリ…さん?

イディア:アリーンシャさん!!

フーリ:良かった…!怪我は?痛いところはないかい?

アリーンシャ:イディアさんも…。

アリーンシャ:だいじょうぶ…少し寒いだけ…

フーリ:…っ!

フーリ:よく…よく頑張ってくれたねぇ…!

アリーンシャ:だって、フーリさんのため、だから…

フーリ:え?

アリーンシャ:ミケくんが…勝ったらフーリさん、つれていくって…

フーリ:アリーンシャ、まさか私が連れていかれると思って…?

アリーンシャ:えへへ…すこし、がんばりすぎちゃった…かも。

フーリ:…馬鹿だねぇ、そんないきなりサヨナラするわけないじゃないか。

フーリ:ミケのところにはバルナに旅行した時にでも顔を出すさ。

アリーンシャ:なーんだ、わたしの、気にしすぎかぁ…

フーリ:…さぁ、暖かいところに行こ!

イディア:そうですね、きっとリシェラさんが暖かい飲み物も用意してくれますよ。

アリーンシャ:ココアが良いなぁ…甘くてマシュマロ乗っけてるやつ…

フーリ:そうだね。じゃあうんと美味しいの、頼みにいこうか!



司会:皆様、大変長らくお待たせしました!!

司会:これより国別対抗戦の結果発表を行います!!

司会:まず、第4位!バルナ代表ミケ君!!終盤の失速が仇となりました。

ミケ:むぅ…あのまま行けたら勝ててたのにぃ。

司会:第3位!タングリスニ代表エミールさん!!素晴らしい攻防を見せていただきました!

テルエス:…。

司会:そして1位と2位はほぼ同着でしたので、写真判定を行いました。その結果…第1位!マリシ代表アイシャさん!!

アイシャ:やったアル!!

司会:第2位、リーベル代表アリーンシャさんでした!!

アリーンシャ:…。

フーリ:ありゃりゃ…負けちゃったかぁ。

アリーンシャ:悔しいなぁ…。

フーリ:大丈夫、アリーンシャは本当に頑張ってくれたよ。

イディア:本当に惜しかったですもんね。

リシェラ:ええ、どっちが1位でもおかしくなかったもの。

司会:えー…着順はこのようになりましたが、ここで順位の入れ換えがございます。

アリーンシャ:え…?

アイシャ:…アル?

司会:アイシャさん、私最初に説明しましたよね?「指定の雪ぞり以外での滑走は認められません」と。

アイシャ:ギクッ。

アイシャ:(焦りながら)あ、アハハハァ…そんな話されてたアルか…?

司会:ええ、しっかりと説明させていただきましたよ?アイシャさんは山小屋の柱をへし折って滑っていきましたね?よってルール違反で失格です!!

アイシャ:アイヤー!!

司会:また、プローブや山小屋の破壊についても後程請求させていただきますので、そのつもりで。

アイシャ:…ぁぁ…オワタアル…。

司会:よって、最終的な順位は…

司会:第3位、バルナ代表ミケ君!第2位、タングリスニ代表エミールさん!第1位、リーベル代表アリーンシャさんです!!


アリーンシャ:え…。

フーリ:…アリーンシャ、1位だって…。

アリーンシャ:私が…1位?

イディア:おめでとうございます!

リシェラ:すごーい!!アリーンシャちゃん、良かったね!!

アリーンシャ:あ…あぁ…っ!

アリーンシャ:やったぁーっ!!!!

司会:優勝者のアリーンシャさんは壇上に上がってきて下さい。皇族のテルエス様に願いを叶えて貰いましょう。

アリーンシャ:願い…!

司会:誰か、テルエス様を呼んできてくれ!

テルエス:その必要はないよ、僕がテルエスだからね。

ミケ:げー!アイツなの…!

アイシャ:な…どういう事ネ!主催者が参加者に紛れ込んでいるなんて、どう考えてもおかしいヨ!!

司会:貴女は反則負けでしょう?どうあっても勝ちは勝ち。少なくともルール破った人には言われたくないと思いますよ。

アイシャ:な、何を―!

テルエス:アリーンシャ。君は紛れもなく国別対抗戦で優勝した、そして図らずも主催者までも下した。君には願いを叶えて貰える資格がある。

アリーンシャ:…。

テルエス:さぁ、君の願いはなんだい?豪華な食事?お金?権力?

アリーンシャ:私の、願いは…。

テルエス:…願いは?

アリーンシャ:リーベルにイディアさんとリシェラさんのお店が欲しい!!

テルエス:…え?

司会:は…?

イディア:私達の…。

リシェラ:お店…?

アリーンシャ:そーだよ!私リーベルに移動してから2人の作るパンとスイーツ食べられなくなったの本当に後悔してて…!どうせなら2人にはリーベルに来て貰って支店作ってもらえばいーじゃん!!って思ったの!!

アリーンシャ:―どう?天才じゃない?!

テルエス:…ぁ。(開いた口が塞がらない…)

フーリ:ふふっ…くくく…

フーリ:アリーンシャ、天才だねぇ!!私はリーベルに帰ってからもこんなに美味しいものを食べられるのか。…最高だよ!!

アリーンシャ:でしょ~!?

テルエス:…あ、あのねぇ、アリーンシャ。流石に人を持っていくのはその人の都合もあるし―

イディア:私は構いませんよ。リーベルは気候も暖かいし、様々な木の実が手に入りますから。

リシェラ:うんうん、私も新作スイーツはリーベル特有のナッツとか使ってみようと思ってたし、悪くないかも!

テルエス:…!

フーリ:おや?どうやら問題はないみたいだねぇ。

司会:そのようですな。

司会:では、テルエス様。イディア嬢とリシェラ嬢の支店をリーベルに建設するということで。

テルエス:おい、勝手に…っ!


―盛り上がるステージを横目にマズダーが木陰で笑っている。


マズダー:ハハハハハ!傑作だぜぇ!!

マズダー:捕虜として奪うつもりが、まんまとかっさらわれてやがる!

マズダー:恐らくあのお嬢ちゃんなら捕虜として連れていくってところまで頭が回らないだろうと、高を括ってたんだろうが…

マズダー:―何にせよお前が明言したんだ、負けは負けであると。

マズダー:素直に援助しような、テルエス様。


テルエス:…分かったよ。2人がリーベルに支店を出すための援助を約束する。

アリーンシャ:こうして、リーベルにはタングリスニのテルエスのお陰でイディアとリシェラのお店が出店したのでした!

アリーンシャ:はぁ~…メッチャ幸せぇ♡



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