Aguhont Story Record 15th Episode

『作戦コード:あぁ、いとしのマリシ』 

作:よぉげるとサマー 

(3:1:3) ⏱60分 

 

■登場人物

ギャギャギャリアン・ヴェルナヴァンド:タングリスニ軍部所属の、何を考えてるのか分からない快楽主義マッドサイエンティスト。人間でありながら、人間離れした生体改造を行っている。元はマリシ軍部所属だったが、今はいろいろあってタングリスニに従属している。ギャギャギャリアンが名前だが、響きがキモすぎて呼んでもらえず、ヴェルや博士などと呼ばれることが多い。

479(シャナク):名前は製造番号であり、機体の型番は『戦略兵装-多脚六型:七星』(せんりゃくへいそう たきゃく ろくがた ななほし)である。アンドロイドの義体としても用いらことが出来る。積める機構は多くはないが、コンパクトで操作しやすい為、背中やお腹にくっつけて外出できる。両手を塞がず、独立して動いてくれるので、重宝される。最大80キロまで背中に載せることも可能なので、疲れたら腰掛けにしても良い。

アイシャ:マリシ軍部所属の肉弾戦担当カンフーエルフ。強い奴と闘いたいと、誰から構わず突っ込んでしまうので、焚き火に吸い込まれる虫かよ、と悪口を言われることもある。※悪口が聞こえた際には、素早く▫️▫️▫️▫️ので、非常時マニュアル148P記載のケース4に従い、対処を行う必要がある。生まれた土地由来の訛りか、謎の語尾を使用しているが、たまに使用を忘れることもある。

ハルト・フェルト:マリシ軍部所属の情報戦担当でツッコミ係の苦労人(人間)。実は怪盗であり、機械と人の心や記憶を読むことが出来るが、秘密にしている。最近は、疲れから癒しを求め、ペットでも飼おうかと考えているが、手がかかるだけで癒されないペットのような奴らが近くに複数いる為、断念している。

ネコ:マリシ軍部所属の暗殺・諜報担当のアンドロイド。義体を複数乗り換えて行動する。基本的に無口だが、喋るのは嫌いじゃない。戦闘や任務はやり甲斐があればある程、テンションが上がる。猫耳はついてない。

ハンペン:小さな子供に見えるが、長寿のエルフ。卵が好きだが、そこにつけ込まれやすく、気付くと何かに巻き込まれている。割と色々諦めて、観光や趣味を各地で楽しんでいる。

マズダー:人間にみえるが、偽装した武装を幾つも内臓しているアンドロイドである。アグホント大陸にて起こるいざこざを観測している。見た目はオッサン。

自動車:(機械音声で喋るので、どなたか兼役)『機械式四輪駆動自動走行車:G-PU』。機械音声案内搭載。トランクに薬品などを収納出来るように、クーラー機能が付いている。可変して人型となり、空を飛ぶことも可能。※何故単純に飛行機形態にしなかったのか、と質疑を受けた際の博士の回答記録。「愚者のように疑問を待つことは簡単ですけど、疑問を持たないようにすることは努力と知識が必要不可欠です。聡明な皆々様方におかれましては、何故人型を選択したのか……などと言う私からの説明はぁ……不要ですよねぇ?」

クロナ:今回は名前のみ出てくる。タングリスニ軍部所属の、クール系メガネっ子アンドロイド。規律や規則にきちっと従う、縦社会方式のプログラムで動いている。メガネを取ると、あわあわする。博士と同じく。元マリシ軍部所属だったが、今はタングリスニに従属している。

ライゼ・サンダース:今回は名前のみ出てくる。マリシ軍部所属の改造マニア。見た目や態度に反して、あれ? こいつ意外と考えてるのか? となる性格をしている。訳あって、マリシを離れ、何かを調査している。博士とは文通する仲。

テルエス:今回は名前のみ出てくる。タングリスニの皇族。博士の苦手なタイプ。怒ると怖い。

ロイ:今回は名前のみ出てくる。マリシの軍部所属。

サリュー:今回は名前のみ出てくる。マリシの軍部所属。



■本編『作戦コード:あぁ、いとしのマリシ』


〜〜〜〜〜〜

在りし日のマリシにて


ヴェル:

 はぁい……お集まり頂き、どぉもありがとうございますぅ。はぁ……。

ハルト:

 ……いきなり溜息はやめろ、士気が下がるだろう。

アイシャ:

 そうアル! 博士の数少ない幸せが、逃げてしまうアル!

ヴェル:

 えぇ……そぉんなに、幸薄そうに見えてるんですかぁ……? 嫌ですねぇ……人並みの幸せくらい、定期的に製造してますよぉ……。

アイシャ:

 おぉっ! さすが博士アル! 幸せも量産できるアルか!

ハルト:

 どういう……いや、良い。お前の話を、いちいち真に受けてたら、時間の無駄か。

ヴェル:

 うわぁ、酷い言い草ですよぉ……。どうしてハルト君は、私に冷たいんですかねぇ……。無理矢理、脳にチップ埋め込んだのを、まだ気にしてるんですかぁ?

ハルト:

 えぇっ!? なんだそれ! そんな事いつの間に……!

ヴェル:

 あぁれぇー? 私の話は真に受けないのではぁー?

ハルト:

 ぐっ……! お前……それは、悪趣味だろうが!

ヴェル:

 いやぁ……本当に信用無いですねぇ、私。いったい、何だと思われてるんでしょうか……。

アイシャ:

 すっごい天才アルが、メチャクチャ碌でもない奴とは思ってるアル。

ヴェル:

 きゃー……正直ぃ……。

ハルト:

 もう無駄話はこのくらいで良いだろ……そろそろ、本題に入ってくれないか?

ヴェル:

 えぇー……ハルト君って、そんなワーカーホリックでしたっけぇ?

ハルト:

 お前と長々、不毛なやり取りをしていたく無いだけだ。

ヴェル:

 酷い……ネコ君、慰めてくれません?

ネコ:

 ……突然、話を振らないで欲しい。あと、普通に、嫌だ。

ヴェル:

 ……クロナ君にすれば良かった。

アイシャ:

 博士……クロナが何でも肯定してくれると思わない方が良いアルヨ?

ヴェル:

 わかってますよぉー! はぁ……せめて、ライゼ君は入れるべきでしたかねぇ……。

アイシャ:

 嫌アル。

ハルト:

 またお前たち喧嘩中なのか……。

アイシャ:

 違うアル。喧嘩は同レベル同士でしか、起こらないアル。

ハルト:

 いや、だから起こってるんだろ……まあ、良いか。

ヴェル:

 いつものことですからねぇ……消去法と、向き不向きで、このメンバーが、今回の軍事作戦班となりましたぁ。はいっ、仲良くして下さいねぇー。

アイシャ:

 はーい!

ハルト:

 ……まあ、喧嘩はしない。

ネコ:

 いつも通り、上手くやるだけ。

ヴェル:

 結構ですぅ。その調子で行きましょう。じゃあ、今回のなんちゃらかんちゃら、説明して行きますよぉ。よいしょ……。さて……まぁ……べつに、どぉでも良いんですけどね、国の発展なんて物は。焦らずじっくりとぉ……煮詰めていく物じゃないですかぁ……本来、ねぇ? ですからぁ……本当は、気乗りしないんですよぉ……私としては。だけどぉ……うるさいんですよねぇ、上が。はぁ……嫌ですねぇ、中途半端に権力とかぁ、地位とかぁ……なんか、そういう立場や肩書を持ってしまうと……しがらみばかり積もってしまう……はぁ……可哀想な私。

ハルト:

 おい……何も、本題にはいっちゃいないぞ?

ネコ:

 愚痴なのか可哀想アピールなのか、ハッキリして欲しい。というか、無駄口を叩かないで。

アイシャ:

 …………はっ、ね、寝てないっ、寝てないアルよっ!

ハルト:

 いや、寝てたろ。ただ、残念ながら、とても有意義な時間の使い方ではあったな。

ネコ:

 スリープ機能を起動するという判断を行えなかった……論理回路の敗北。

ヴェル:

 あっはっはーっ、良いチームですねぇー、むっかつくぅー。

ハルト:

 お前の自業自得だよ。早く作戦について話せ。

ヴェル:

 ……今やろうとしてたのにぃ。

アイシャ:

 あぁー! わかるっ! やろうとしてた時に、言われると、やる気無くなるの、わっかるアルー!

ネコ:

 アイシャ。寝てて。

アイシャ:

 えっ……?

ハルト:

 早くしてくれぇ……。

ヴェル:

 あぁ、もー、やる気ないなら先生帰っちゃいますよぉっ! 良いんですかぁ!?

ネコ:

 帰れ。

アイシャ:

 帰れーっ!

ハルト:

 いや、早く説明しろって……。

ヴェル:

 なぁんでそんな酷いこと言うんですかぁ! もう良いですよぉ! 今日は、もうやりたくなくなっちゃったぁ! 皆のせいですからねぇ! さよーならー、また会う日までぇー! ふーんだっ! ばーかばーか!

アイシャ:

 バカ呼ばわりした方が、バカアルよーだ!

ネコ:

 ばーかばーか。

ハルト:

 ……お願いだから……早く説明しろぉ!


〜〜〜〜〜〜

荒野を自動車にて移動中


マズダー:

 ……おい、そろそろ着くぞ。

シャナク:

 はい、ありがとうございます。

ヴェル:

 ……んぁ?

シャナク:

 おはようございます、博士。

ヴェル:

 ……んぅー、クロナ君?

シャナク:

 いえ。シャナクです、博士。

ヴェル:

 あぁ……なるほどぉ。眠ってしまってましたかぁ……いやぁ、家具職人を自動車の設計に参加させたのは、正解でしたねぇ……こうして、眠れるくらいには快適になるなんて、思いませんでしたよぉ。

シャナク:

 博士。先程のは睡眠と言うより、気絶に近いです。体調管理には、お気を付け下されば、と。

ヴェル:

 はぁい……各種栄養剤じゃ、賄いきれない要素も多いですからねぇ……まったく、面倒ですよ、人体って奴はぁ。

シャナク:

 では、博士もアンドロイドになられますか?

ヴェル:

 そっちの方が嫌ですよぉ……あ、君たちを下に見ているとかじゃあ無く、ね?

シャナク:

 お気遣いありがとうございます。ですが、承知してますよ。博士が、欠点の多い物を嫌うことは。

ヴェル:

 いやぁ、その認識は正確じゃあ無いですよぉ。私は、ただ……全部を自分でコントロールしたいだけです。

シャナク:

 ……失礼ですが。その点においては、人体の方が、困難では?

ヴェル:

 人体の方が、諦めのつくことが多いんですよぉ……機械化してしまえば、してしまう程。私の場合、こだわりが止まらなくて、妥協出来ないでしょうからねぇ。

シャナク:

 なるほど……博士らしい悩みですね。

ヴェル:

 そうなんですよねぇ……。だからこそ……自分の生体は……大事に、使わなくては、ねぇ。

シャナク:

 ……博士、もう着きますよ。

ヴェル:

 あ……あぁ……それじゃあ、だいぶ寝てたんですねぇ……私。

シャナク:

 えぇ。ですが、作戦行動に支障はありませんので。

ヴェル:

 ありがとうございます。……あぁ、窓を開けても?

マズダー:

 どうぞ。

ヴェル:

 すみませんねぇ。では、失礼……おぉ……ふふっ。

シャナク:

 ……見えますか?

ヴェル:

 えぇ……懐かしの、我らがマリシの街が……ねぇ。


〜〜〜〜〜〜

マリシ軍本部基地内にて


アイシャ:

 ……。

ハルト:

 ……アイシャ。

アイシャ:

 ……。

ハルト:

 はぁ……おーい、脳筋バカエルフ。

アイシャ:

 なっ、脳筋じゃないネ! バカライ……あ。

ハルト:

 残念だが、バカハルトの方だ。いや……バカじゃ無いけどな。

アイシャ:

 ……人をバカ呼ばわりした方が、バカになるアル。だから、バカハルト、であってるアル。

ハルト:

 あー、そうかい。……アイシャ、最近、職務中にボーッとし過ぎだぞ。

アイシャ:

 そ、そんなこと……ないアル。

ハルト:

 仕事に支障が出てるんだ、隠せてる訳あるか。

アイシャ:

 アイヤァ……。

ハルト:

 ……まあ、気持ちは分からんでも無いけどな。

アイシャ:

 ……なにがヨ。

ハルト:

 いや……親しい奴がいなくなると、寂しいんだろうな、ってな。

アイシャ:

 ……べ、別に、そんなヤワじゃ無いアルっ!

ハルト:

 へぇ……じゃあ、腹でも減ってたのか?

アイシャ:

 ……お腹空(す)いたアル。

ハルト:

 え、本当にそうだった?

アイシャ:

 い、いや……そう言われたから、空(す)いてきたのヨ。

ハルト:

 はぁ……落ち込んでんだか、呑気なんだか……。ともかく、そろそろ気持ちを切り替えろ。お前がずっとそんなんだと、周りも気を使うだろ?

アイシャ:

 うぅ……分かってるアル。

ハルト:

 新しく来た奴だっている。そいつらとも、上手くやって行かないといけないんだ。過去に囚われてばかりじゃ……碌なことにならないぞ。

アイシャ:

 ……あーもー、うるさいアルー!

ハルト:

 うぉっ!

アイシャ:

 なんなんアルか! 勝手にアルことナイこと好き勝手言って来てー! 余計なお世話ばっかアルヨー!

ハルト:

 い、いや、突然元気だなっ。

アイシャ:

 「俺、全部分かってっから……」みたいな、彼氏気取りしてんじゃねーアル!

ハルト:

 んなっ!? してないだろ! なんだその恥ずかしいの! どこら辺がそう聞こえたんだ! え、マジでそんな風に聞こえた!? すごく嫌だ!

アイシャ:

 もうっ、こっちはお腹空いてて早く休憩入りたいってだけアルのにー!

ハルト:

 え、いや……う、嘘つけっ!

アイシャ:

 本当アル! どうして嘘つく必要があるアルかー!

ハルト:

 じゃあなんだ! お前はここ最近、ずーっと空腹で過ごしてるって言うのか! 絶食でもしてるのか! してる訳無いなぁ、普通に食堂で、バカみたいな大盛り食ってたもんなぁ!

アイシャ:

 ぎゃー! ハルトに私生活を盗撮されてるアルー!

ハルト:

 んなことするかー! そんなの食堂で他の連中も見とるわ!

アイシャ:

 もういいアル! こんな変態とは一緒にいられないネ! 休憩に行くアル!

ハルト:

 おい、人聞きの悪いこと言うな! 休憩もお前、早過ぎるだろう! ちょっ、待て! おいっ! アイシャー!

アイシャ:

 うるさいアル、変態ハルトー!

ハルト:

 俺様は変態じゃねぇー! ……くぅぅ……バカエルフめ……! はぁ……心が読める相手に、嘘なんてつける訳無いだろ……。

ーー少し距離とった後。

アイシャ:

 ……うぅ、グチグチ、ガタガタ、ウラウラぁ……! 小煩い(こうるさい)アルよ、ハルトはぁ! むぐぐぐ…………そんな簡単に、切り替えられないアルヨ……。


〜〜〜〜〜〜

マリシ近郊にて


マズダー:

 なぁ、本当に良いのか?

ヴェル:

 なぁに言ってるんですかぁ……最初からそう言う話で、ノッてくれたんでしょうに。

マズダー:

 それは、そうだけどよ……。

ヴェル:

 じゃあ、遠慮は無しでしょうに。ねぇ?

シャナク:

 はい。妥当な報酬です。過不足無いかと。

マズダー:

 ……じゃあ、まあ……貰ってくけどよ。

ヴェル:

 どうぞどうぞぉ。いやぁ、ここまでの運転ありがとうございます。

シャナク:

 途中で自動運転システムが故障した時は、どうなるかと思いましたから……大変助かりました。

ヴェル:

 運転に明るい方が、「たまたま」近くにいらして、良かったですよぉ……本当に。

マズダー:

 あ、あぁ……お役に立てて、何よりだ……。

シャナク:

 その車については、扱いに困るようでしたら、どこかへお売り頂いて構いませんので。

ヴェル:

 そこら辺に放置して下さっても大丈夫ですよぉ。約8年で、土に還ります。埋めればもう少し早いですねぇ。

マズダー:

 ……いったい何で出来てるんだ。

ヴェル:

 それでは、私たちは用があるので、これで。

マズダー:

 あ、あぁ……達者でな。

ヴェル:

 では、また。

シャナク:

 ありがとうございました。失礼します。

マズダー:

 おう……変な奴……ん? また? 何か引っかかるな……まあ、良いか。アイツらがここで何か起こしそうなのは、確かだしな。にしても、よりによってマリシかぁ……まぁ、気にしたってしょうがないか。宿でも取って、成り行きを見守るか。


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にて


シャナク:

 博士。探知機によると、兵士らしき熱源は……ここ、から……ここ。それと、この付近を……こう。計4人で巡回してるようです。

ヴェル:

 ふむ……私たちがいた頃から、大きくは変わってないみたいですけどぉ……やはり少々、人員配置が薄い箇所がありますねぇ。

シャナク:

 近年だけでも、様々なことがありましたから……何にせよ、今の我々には好都合でしょう。

ヴェル:

 ふふっ……ドライですねぇ。

シャナク:

 ……そうですか?

ヴェル:

 えいっ。

シャナク:

 あっ!

ヴェル:

 んー、この眼鏡(がんきょう)型のARビジョン。旧型の実体モデルじゃ無くてぇ、私みたいに、ホログラム化したのを使えば良いのにぃ。以外と便利ですし、総重量も軽減されますよぉ?

シャナク:

 あっ、ヴ、ヴェルさん……それっ、あっ、あのっ、返っ、返して下さいぃ!

ヴェル:

 あっはっはーっ、面白ーい。人格形成プログラムでも切り替わるんですかねー。そうだとしたら、意図がまったく不明ですがぁ……この反応を見て楽しむ、ということなら、百点満点ですねぇ。

シャナク:

 ヴェルさんっ! お、お願いですからぁ! 私は、み、味方には、乱暴出来ないのでぇ……は、はやくっ、返して下さいぃっ!

ヴェル:

 別に必要無いはずなのに、不思議ですねぇ……ふふふっ。はい、お返しします。

シャナク:

 うぅっ……はぁ……はぁ……や、やめて下さいよ、もう。

ヴェル:

 あっはっはーっ。すみませんねぇ。あまりこういうことも、最近じゃ出来ませんでしたからぁ……つい、懐かしくなってしまったんですかねぇ。

シャナク:

 ……それでも、メガネだけは、やめて下さい。

ヴェル:

 ふふっ……そんなこと言わず、またお願いしますよ。

シャナク:

 ……テルエス様に、セクハラとして報告します。

ヴェル:

 ちょおっ! すみません、勘弁して下さいよぉ! もうしばらくしませんからぁ!

シャナク:

 二度と、しないで下さい。

ヴェル:

 はぁい……。

シャナク:

 ふぅ……無駄話も終わったところで、任務へ戻りましょう。

ヴェル:

 そうですねぇ……と、その前に。

シャナク:

 その前に?

ヴェル:

 久しぶりですから、ご挨拶しなくては……ねぇ?

シャナク:

 ……っ!

ネコ:

 そうだね……久しぶり。……ヴェル。

シャナク:

 ネコ、さん……。

ネコ:

 珍しく自分で出て来るなんて……タングリスニは人材不足なの? そうは思えないけど。

ヴェル:

 もちろん人材は足りてますよぉ。今回については、効率的……かつ、罰ゲーム……みたいな物ですよぉ……はぁ……可哀想な私。

シャナク:

 ……博士が悪いんですよ。魔晶石を研究したくて、暴走したんですから。

ヴェル:

 いいえ、私は悪くありません。研究や発明には、いつだって犠牲や失敗は付きものですからねぇ! あの爆発も、この爆発もっ! 例の暴発も、件(くだん)の臨界もっ! 広く深い視野と懐(ふところ)で考えればっ、タングリスニの……いえっ、アグホント、引いては人類史をも、大ーきく進歩させる結果となった事でしょう! たぶん、おそらく、きっと、確約は出来ないけれどっ!

シャナク:

 反省して下さい。反省を。

ネコ:

 碌でもないのは、変わらないみたいだな。

ヴェル:

 へーんっ! どーせ、誰にも分かんないですよぉ! 天才は孤独だなぁ! ふーんだっ!

シャナク:

 はぁ……この人が、たまに有能じゃ無ければなぁ……。

ネコ:

 やれやれ……タングリスニから追放されるのも、遠からずのようだ。

ヴェル:

 うるさいですねぇっ! そんな事されませんよーだっ! 天才だもーんっ!

シャナク:

 一応、一意見として、議事に提出してみます。

ヴェル:

 ちょおっ! 酷すぎますよぉ! タングリスニから追い出されたら、ネコ君のせいですからねぇ!

ネコ:

 他人のせいにしないで。あと……無駄口も、もう叩かないで。

ヴェル:

 ……あっはっはーっ……いやぁ、それにしても、お早いお着きでしたねぇ……相変わらず、素晴らしい感知機構だぁ……わりと綿密に計画してきた隠密作戦なんですけどぉ、これ。

ネコ:

 愚策。マリシに……いや、私に隠密なんて、そんな計画をすること自体が間違い。

ヴェル:

 あっはっはーっ、確かにぃ。

ネコ:

 ちょっと見ない内に……随分とバカになったな……ヴェル。

ヴェル:

 おやおやぁ……これは手厳しい……たまには優しくして下さいよぉ、ネコ君。

ネコ:

 ははっ……嫌だ。

ヴェル:

 ……でしょうねぇ。

ネコ:

 うん……会えて嬉しかったよ。それじゃあ……。

シャナク:

 博士、来ます。

ネコ:

 さよなら。


〜〜〜〜〜〜

マリシ市街地沿岸エリアにて


マズダー:

 さて、良い感じの宿を探す秘訣は……現地民っぽいのに聞くこと……おっ、すまない坊主、ちょっと良いかい?

ハンペン:

 あん? なんだよ、兄ちゃん。

マズダー:

 兄ちゃん……この頃、おっちゃんやら、おっさんやら……そんな呼ばれ方ばかりされてた俺を……兄ちゃん……って。

ハンペン:

 あー? いやあ……俺にとっちゃあ、別にそんな……うん、兄ちゃんって感じだろ、どう見てもー。

マズダー:

 兄ちゃん……くっ、良い子だっ!

ハンペン:

 なんだー? 変な奴だな……何の用?

マズダー:

 あ、あぁ……この辺で、おすすめの宿とか、無いかい? 兄ちゃん、に教えて欲しいんだ。

ハンペン:

 あ、あぁ……宿かぁ。海沿いには、リゾート感出してるとこが幾つかあるけど……別に、泊まるくらいなら、どこでも良いんじゃないかー?

マズダー:

 海沿いの方か……折角だし、そん中から、ひとつ選んでくれよ。金額は気にせずに。なんか、店主の人柄が良いとか、浴室がでかいとか、飯が美味いとか、そんなんで大丈夫だからさ。

ハンペン:

 飯っ!? 卵料理が美味い所なら、8軒あるぞ!

マズダー:

 え、卵?

ハンペン:

 この観光マップを見てくれ! ええっと……まず、おすすめは、ここの宿だな! ここの調理マシンが作るオムレツが、綺麗で美味いんだよー!

マズダー:

 へぇー……なんか、突然、勢いがすごいな……。

ハンペン:

 この宿は、ちょっとこっからだと遠いんだけど、デカい走る鳥の卵を、まるまる使った燻製料理が、めちゃくちゃ濃厚な味でさ! 絶対食べるべきだ!

マズダー:

 う、うぅん。なるほど……好きなんだな、卵。

ハンペン:

 あとあと、ここの養鶏場がさ、全自動で育ててるらしいんだけど、びっちり機械管理されてるからか、栄養価の効率が高いし、鮮度も凄くてさ! なんと、生で食べれるんだぜ!

マズダー:

 そ、そっかぁ……あの、宿……だけで、良いんだけどなぁ……ん?

ハンペン:

 そうだ! この前、リーベルで仕入れたっていう、あんまり出回ってない、縞々(しましま)のデカ卵を、バルナから来た行商人から買えてさぁ! ちょっと待ってな……よいしょっ。

マズダー:

 何だ……? 熱源感知レーダーに、異常反応が……って、おい……マジかよ……!

ハンペン:

 ほらっ! すげえだろ! この模様の繊細さ! ここなんか、縞模様が猫みたいで……!

マズダー:

 あぶねぇ坊主っ!

ハンペン:

 え? どわぁーっ!

マズダーM:

 遠方で突如発生した、熱源。それは眩く(まばゆく)光を放ったのと同時に、飛び避けた俺ら二人の背後を焼き焦がし、ついでのように吹き飛ばした。


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にて戦闘後


ネコ:

 まさかこうなるとは……予想外、楽しいよ。ヴェル。

ヴェル:

 そうですかぁ……それは良かった。こっちは、防御にリソースを割きすぎて、最悪ですけどねぇ。

シャナクM:

 ……お互い。無傷。

ヴェル:

 こぉんなに壊しちゃってまぁ……はしゃぎ過ぎじゃないですかぁ、ネコ君。

シャナクM:

 2分29秒。その間。弾丸が、仕込み刃(やいば)が、鋼鉄の手足が。博士を殺す、という一点に集約された。

ネコ:

 その、クソみたいなアホ面をマシに出来るって考えただけで、興奮が止まらなくてね……。

シャナクM:

 だが、博士はすべて、いなした。自在に動く、しなやかな硬い髪で。右腕に取り付けた、小型の自動迎撃ガトリングで。左腕から伸びた磁場形成機構で。両足の脚力補助ブーツで。

ヴェル:

 おやおやぁ、本当ですねぇ。君にしては、饒舌じゃないですかぁ。

ネコ:

 ふはっ……ムカつくっ!

ヴェル:

 おわっとぉ……! こんな針じゃあ、私の白髪は抜けませんよぉ?

ネコ:

 知ってるよ。

ヴェル:

 えぇ……?

シャナクM:

 ネコさんの突き出した左腕が、瞬間。急速に熱を帯びていく。

ネコ:

 焼け落ちろ、ヴェルナヴァンドォ!

ヴェル:

 レーザー……あっはっ、そんな物までぇ……!

シャナクM:

 放たれた眩い光は、博士の体を貫通し、マリシの街まで伸びていき……少しの後、激しい爆発音が辺りに轟いた。


〜〜〜〜〜〜

マリシ市街地沿岸エリアにて爆発後


マズダーM:

 爆発音が鳴り止み、とっさにかばった少年から体をどけた。

ハンペン:

 あ、あぁ……あぁ……。

マズダー:

 何だってんだ……うおっ……おいおい、酷いな、こりゃ……瓦礫の片付けとか、建物と道路の補修も、機械がやってくれるからってよぉ……。

ハンペン:

 ……そ、そんなぁ……。

マズダー:

 ……坊主、ショックだろうが。こういう事も、いまのアグホントじゃ……残念ながら、珍しいことじゃ無くなってくのかもしれねぇ。

ハンペン:

 な、なに……。

マズダー:

 慣れろとは、言えねぇけどよ……それでも、覚悟はしておいた方が良い。少なくとも……生きていられれば、儲けもん……。

ハンペン:

 何してくれてんだよー! てめぇー!

マズダー:

 ……え?

ハンペン:

 俺の、お、俺のたぁまぁごぉ……があー! うわぁー!

マズダー:

 あ……かばった時に、割れちゃったのか……。い、いや、でもよぉ……仕方ないじゃん?

ハンペン:

 器物破損だぁ、名誉毀損だぁ、自己破産だぁー!

マズダー:

 い、いや、音が似てるだけで、意味が通らないぞ、それら。

ハンペン:

 なぁんでも良いんだよぉー! 弁償しろ弁償しろ弁償ぉしぃろぉー! クソガキぃー!

マズダー:

 クソガキィ!? ガキって言われるくらい若がえっちゃったの俺!?

ハンペン:

 ひっく……うっく……こっけぇ……こっこっこっ……うぐっ……。

マズダー:

 な、泣くなよぉ……あと、ちょっとニワトリの真似するな……あー、どうすっかなぁ……金も、手持ちそんなにねーんだよなぁ……。

ハンペン:

 ひどいよぉ……くさいよぉ……ハゲだよぉ……。

マズダー:

 ひどくない、くさくない、ハゲてないっ! くっそぉ……どうすれば……あ、あぁっ! そうだ、これやるよ!

ハンペン:

 うえーん……これ?

マズダー:

 おう、この、自動車。

ハンペン:

 え、いや……え? 兄ちゃん、それは……貰いづらい。

マズダー:

 気にすんな、俺もこれは貰いもんだし、要らないから売ろうとしてたんだよ。

ハンペン:

 にしてもさぁ……えぇ……車なんてこんな……さすがに。

マズダー:

 遠慮しなくて良いよ。運転できねぇなら、売りに行って金にしちまっても良い! 大事な卵には、吊り合わねぇかもしれないけど。

ハンペン:

 俺の心情としては吊り合わないけど……価値観的には、揺らぐなぁ、さすがに……。

マズダー:

 というか、あのレーザーに巻き込まれなかったのか……奇跡だな。

ハンペン:

 レーザー?

マズダー:

 あー……こっちの話だ。まあ、とにかく! 貰ってくれよ、俺の罪滅ぼしだと思ってさ。

ハンペン:

 ……うーん。

マズダー:

 そう言えば、何故かトランクが保冷庫になってて、卵の保存にも最適らしい。

ハンペン:

 ありがとう。あの卵とは、さすがに吊り合わないけれど。いつまでもクヨクヨ言ってても仕方ないからさ、貰うよ。

マズダー:

 わぁ……価値基準が卵に全振りだなぁ……。

ハンペン:

 ただなぁ……俺、運転っての、ちょっとあんまり……。

マズダー:

 あ、自動運転機能があるらしいんだ、それ使えば良いんじゃないか?

ハンペン:

 おぉ! そんな便利な機能があるのかー!

マズダー:

 あぁ……でも、それが故障してるらしいんだよ。

ハンペン:

 じゃ、ダメじゃんか!

マズダー:

 慌てるな慌てるな。ここは、マリシだろ?

ハンペン:

 あー? そうだけど、それが何なんだよー。

マズダー:

 分かんないか。じゃあ、兄ちゃんが教えてやろう。

ハンペン:

 ……なんか、ちょっとキモい。

マズダー:

 機械のトラブルなら、マリシにお任せ、ってな。


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にてレーザー爆発後


ネコ:

 ……ははっ。

シャナクM:

 焼けた臭いと放熱の余波が、風に流れて行く。土煙の晴れた視界には、壊れたネコさんの左腕と……頭から肩の付け根までが焼失した、博士の体があった。

ネコ:

 楽しい時間は、あっという間だな……ヴェル。

シャナク:

 ……博士。

ネコ:

 ……そこのお前。えっと……カニ? クモ?

シャナク:

 ……どちらも、モチーフとしてはハズレです。本機は、『戦略兵装-多脚六型:七星』(せんりゃくへいそう たきゃく ろくがた ななほし)です。

ネコ:

 あぁ……ナナホシ、ね。……というか、その音声波形……あんた……。

シャナク:

 ネコさん。破損されているのですね。

ネコ:

 は?

シャナク:

 振動感知機構を。

ネコ:

 な、にっうぐギぁッ!

シャナクM:

 刹那、無数の針が、ネコさんの機体(からだ)を貫いた。それは、博士の壊れた体から放たれた、伸縮された細長の錐(きり)だった。

ネコ:

 ギ、ぐ……な、ナに、が……!

ヴェル:

 あぁ……本当に。一瞬で、何もかも終わってしまいますよねぇ……ネコ、君。

シャナクM:

ザラついた通信音声が、剥き出しになった博士の首底(くびぞこ)から、辛うじて流れた。

ネコ:

 ……っ、き、サマ。

シャナク:

 あ、博士……。

ヴェル(inシャナク):

 ……あー、あー……ハァイ、聞こえますかねぇ、ネコ君。

ネコ:

 グ……。

ヴェル(inシャナク):

 すみませぇん、さすがに音声通信機が逝ってしまったみたいでぇ……いやぁ、凄まじぃ……時々、無茶苦茶しますよねぇ、君はぁ。

ネコ:

 ……お、カシぃ、と……オモ、った……お、マエ、が……クル、な、ん……て。

ヴェル(inシャナク):

 そぉですよぉ……私が自分でぇ、タングリスニからマリシくんだりまでなんて……行くわけ無いですってぇ……。変わりませんよ、そうそう人は……ねぇ?

ネコ:

 はッ……ハ……クソ、ヤロゥ……。

ヴェル(inシャナク):

 機能停止(おやすみなさい)……と。いや、しかし……思いの外(ほか)、上手く行きましたねぇ。ニードルを受けた時に、クラッキング出来て良かったぁ……レーザー撃たれるとは思いませんでしたけどぉ。

シャナク:

 いや、あんな結果論みたいなこと、もうしないで下さいよ。どうするんですか、義体の回収。

ヴェル(inシャナク):

 あぁ……仕方ない。出来るだけ、勿体ない所だけ回収して、残りは処理液(しょりえき)ぶっかけて、生分解(せいぶんかい)させて、土に還しましょう。

シャナク:

 承知しました……本当に、何で出来てるんですか……。


〜〜〜〜〜〜

マリシ軍本部基地内にてレーザー攻撃検知後


アイシャM:

 轟音が響き渡ったのを聞き、城内に厳戒態勢が敷かれた。軍部の実働班には、現場の確認と原因の特定が命じられる。

ハルト:

 アイシャ!

アイシャ:

 ハルト! 何事アルか!

ハルト:

 詳しくは分からん。ただ、D-8区で、レーザー兵器が使用されたようだ。

アイシャ:

 レーザー? そこって、半分市街地じゃないアルか……いったい、どこの誰が……!

ハルト:

 ……使用者は、特定出来ている。

アイシャ:

 おぉ、さすがハルト! どこの国のクズアル!?

ハルト:

 ……ネコだ。

アイシャ:

 ……ネコって……動物の、では、無いネ?

ハルト:

 あぁ……マリシ軍部所属の、ネコだ。

アイシャ:

 ……それは、なんでアル?

ハルト:

 知らんっ!

アイシャ:

 アイヤァ……。で、でも、接敵して……ってことアルよね?

ハルト:

 だから、知らん! それを確認しに、今向かっているんだろうが!

アイシャ:

 そうアルね……。ピリピリしてるヨー。(小声)

ハルト:

 ……アイシャ。

アイシャ:

 は、はい! なんアルか!?

ハルト:

 ……もしも。

アイシャ:

 ……うん。

ハルト:

 もし、ネコが裏切った……としたら、お前は……。

アイシャ:

 えっ……。

ハルト:

 ……ネコを、殺せるか?


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にてネコ機能停止後


ヴェル(inシャナク):

 ……あれぇ?

シャナク:

 どうしました、博士。

ヴェル(inシャナク):

 いえ……なぁんか、来る時に使った自動車と、接続が出来るようになってぇ……何ででしょう?

シャナク:

 一時不良だったとか、ですかね。若しくは、あの方が修理して下さった、とか。

ヴェル(inシャナク):

 んー、そんなこと出来ますかぁ?

シャナク:

 出来ますよ。ここは、マリシですから。

ヴェル(inシャナク):

 あぁ……なるほど。じゃあ……もしかすると、好都合かもしれませんねぇ。

シャナク:

 と、言うと?

ヴェル(inシャナク):

 いえ、別に。ポチッと。

シャナク:

 ……博士、だから、碌でもないって言われるんですよ。

ヴェル(inシャナク):

 ちょおっ! 何がですかぁ! まだ何も言ってないでしょお!

シャナク:

 はぁ……。……っ! 博士、オートジャミング機能が、高レベルにて展開しました。

ヴェル(inシャナク):

 おや、本当だぁ……ということはぁ……。

ハルト:

 ……その機械、タングリスニの間者(かんじゃ)か?

アイシャ:

 ネコ……! そんな……大丈夫アルか!?

ヴェル(inシャナク):

 おやおやぁ……長居し過ぎましたかぁ……。

ハルト:

 その口調……ヴェルナヴァンドか?

ヴェル(inシャナク):

 えぇーっ、ダレですかぁーソレー? 知りませーん、そんな天才ー。

ハルト:

 その言い方は知ってるだろうが!

ヴェル(inシャナク):

 いやぁー、通信音声でも隠しきれないなんてぇ……天才すぎるのも、考えものですねぇっ! ねえっ!?

シャナク:

 うるさいです、博士。

アイシャ:

 博士……本当に、博士アルか?

ヴェル(inシャナク):

 ……お久しぶりですねぇ。アイシャ君。それと、ハルト君も。

アイシャ:

 そんな……どうしてマリシを……ネコをこんなっ!

ヴェル(inシャナク):

 いや……問答無用で襲いかかってきたのも、レーザー撃ってマリシの街に被害出したのも、ネコ君なんですけどねぇ……。

ハルト:

 結果、そうだったのかもしれないが。原因を作ったのは間違いなく、お前だろう。何をしに来た……タングリスニの軍人が。

ヴェル(inシャナク):

 ……なぁんですかぁ? たまの里帰りも許されてないんですか、私ぃ。

アイシャ:

 ……他国に所属する軍人は、厳しい手続きが必要アル。そんなの、博士なら知ってるはずヨ。

ヴェル(inシャナク):

 ふふっ……あっはっはーっ! ……あの、そぅなんですかぁ?(小声)

シャナク:

 ……そうですよ。

ハルト:

 白々しい奴だ……どうせ、分かっててやっている癖に。

ヴェル(inシャナク):

 え、あ……いやぁ、バレてしまってはー、仕方ないー!

ハルト:

 あれ? 本当に知らなかったなんてことあるか?

アイシャ:

 そんな事、どうでもいいネ。問題は……あの、クモみたいなのが、ネコに張り付きながら、何をしてるのかアル。

ヴェル(inシャナク):

 あ、えっとぉ……あっはっはーっ、お気になさらずぅ。

ハルト:

 んな訳に行くか! あーもう……調子が狂う奴だ、相変わらず。

アイシャ:

 博士、女の子にくっつきすぎネ! セクハラアルヨ!

ヴェル(inシャナク):

 あらぁ、そっちかぁ……。アイシャ君、この機体は虫型なんですからぁ、そこは、ご容赦して下さいよぉ。

アイシャ:

 私の言う事を聞かない虫は、虫じゃないアル!

ヴェル(inシャナク):

 そりゃあ、虫の形なだけで、機械ですからねぇ、これ……。

アイシャ:

 妥協なんて、博士らしくないアルよ! マリシから出て行って、軟弱になったんじゃないアルか?

ヴェル(inシャナク):

 ぐぬぅー、そぉかぁ……虫をモチーフにする以上、アイシャ君の能力にも対応させないといけなかったかぁ……って、どぉ考えても、そんなん必要なぁいっ!

アイシャ:

 とにかく……っ!

シャナク:

 博士、完了しました。

アイシャ:

 ネコから、離れるネっ!

ヴェル(inシャナク):

 ち、ちょおっ! 衝撃対処ぉ!

アイシャ:

 右柱、折脚っ(うちゅう、せっきゃく)!

ヴェル(inシャナク):

 ギャアァ! グワっ! おぅっ! ぶわっ! うぁあぁ……ぐへぇ、すっごい回転したぁ……あぁぁ……酔いそうですぅ……。

シャナク:

 変わりましょうか?

ヴェル(inシャナク):

 いえ、大丈夫ぅ……ふぅ……折れなくて良かったぁ……アイシャ君、酷いじゃないですかぁ……。

アイシャ:

 ……酷いのは、そっちアル。タングリスニに行って……こんなにすぐ、マリシへ乗り込んで来るなんて……どういうつもりアルか。

ヴェル(inシャナク):

 んぅ……簡単に言えばぁ、一番知ってるからですかねぇ。

ハルト:

 なるほど……研究費を出して貰う為に、分かりやすい成果を見せる必要があったと……勝手知ったるマリシでなら、鹵獲(ろかく)を成功させやすいと踏んだのか。

ヴェル(inシャナク):

 ちょおっ! どぉしてそれを!? ってぇ、それっ! これの脚じゃないですかぁ! ギャア! 一本、折れてるぅ!

アイシャ:

 ふっふっふっ、私の技を受けて、無傷で済むわけないアル。この調子で、全て蹴り飛ばしてやるヨロシ!

ヴェル(inシャナク):

 わぁ、困るぅ……なんなんですかぁ、この科学技術に逆行している筋肉バカエルフはぁ……。

アイシャ:

 バカは余計、ネっ!

シャナク:

 避けて下さいっ。

ヴェル(inシャナク):

 うぉっとぉ!? ちょおっ! 話ながら、蹴りでソニックブーム起こさないで下さいよぉ! めちゃくちゃだなぁ!

アイシャ:

 ちっ。話の腰も折るつもりだったのに。

ハルト:

 無理に上手いこと言おうとするな。……ヴェル。その様子じゃ、お前を拘束は出来ないだろうが……その機械、壊させて貰うぞ。

ヴェル(inシャナク):

 えぇー、嫌ですよぉ。これ高いんですよぉ、部品。

ハルト:

 知るかっ! せいぜい任務失敗の言い訳でも、用意しておくんだな。

アイシャ:

 博士……戻って来る気は、ないアルか?

ハルト:

 なっ、アイシャ!

アイシャ:

 私はっ! ……マリシには、博士が……皆が必要だって、思ってるアル。

シャナク:

 ……アイシャさん。

アイシャ:

 どんどんマリシから、仲間が居なくなって行く……クロナも、博士も……ライゼの奴だって、どこにいるか、分からないアル。

ヴェル(inシャナク):

 ……いまのアグホントは、どうやってケーキを切り分けるか……ということしか、頭にない連中ばかりですからねぇ。

アイシャ:

 そんなの、知ったこっちゃないアル……! 私はただ……強い奴と闘いたいだけネ! だから……そういう事は、皆に任せたいアル……。

ヴェル(inシャナク):

 ……ハルト君がいるじゃないですかぁ。

アイシャ:

 こいつはダメネ。

ハルト:

 ……なんでだっ! 確かに得意とは言えないけどもっ!

シャナク:

 ハルトさん、可哀想に……。

アイシャ:

 とにかく……私は、もう誰にも行って欲しくないアル……。楽しくて、騒がしかった、あの頃に……もう一度、戻りたいアル。

ハルト:

 アイシャ……。

ヴェル(inシャナク):

 ……ハルト君。今のマリシは、そんなに寂しい所なんですか?

ハルト:

 ……確かに、お前たちが抜けてから、人手は減る一方だよ。

ヴェル(inシャナク):

 そうですか……アイシャ君、寂しいんですねぇ。

アイシャ:

 ……寂しい? ……そうか……そうネ、寂しいアルよ。……楽しかった分だけ……ずっと、そう思うヨ。

ヴェル(inシャナク):

 確かに、楽しかったですねぇ……馬鹿みたいに騒いで、からかって……本当に、ハルト君はからかうと面白い。

ハルト:

 ……は?

ヴェル(inシャナク):

 射出。ぽちっ。

ハルト:

 んなぁっ! でぇぇ! くっ、こ、のぉ……!

アイシャ:

 ハルト!? いきなり倒れてどおしたアル!

ヴェル(inシャナク):

 あっはっはーっ、ハルト君、安心して下さい。ちょっとした神経毒です。即効性が高く、体がしばらく麻痺して動かせないですけどぉ……20分くらいで自然に解毒されますからぁ。

アイシャ:

 博士っ! なんでアル! 良い雰囲気だったじゃないアルか!

ヴェル(inシャナク):

 うんうん、そうでしたよねぇ。照準合わせる時間稼ぎに、ちょうど良かったですよぉ。さっきの蹴りで、自動補正機能が壊れたから、手動設定するしか出来なかったのでぇ……いやぁ、助かりましたぁ。

アイシャ:

 こ、このぉ……左柱(さちゅう)……!

シャナク:

 発射。

アイシャ:

 うなぁっ!? なに!? なにアルかっ! ってぇ、うわわわぁぁぁ! へぶっ!

ヴェル(inシャナク):

 わぁー、痛そう……アイシャ君、大丈夫ですかぁ? 顔からいきましたねぇ……。

アイシャ:

 うぐぅ……は、鼻がぁ……痛いアルぅ……!

ヴェル(inシャナク):

 やっぱりぃ……鼻血でてますもんねぇ……。

アイシャ:

 それより……いったい、なんアル、この……手と足に巻きついたのはぁ! うぅ……両手両足ぴったりくっついて……取れない、アルぅ……! どっから飛んできたネ!

ヴェル(inシャナク):

 後ろの、ぶっ壊れた私型の義体からですよぉ。まだ遠隔操作出来たのでぇ……えーと、助手君に操作して貰いましたぁ。ねー?

シャナク:

 ……カメラが壊れて、この機体からの映像しか見れないので、苦労しましたけど……上手くいったみたいですね。

ヴェル(inシャナク):

 えぇ、バッチリですよぉ。ほらぁ、見て下さい。君の戦果ですよぉ、ほらほらぁ。鼻血出した、脳筋バカエルフですよぉ。あっはっはーっ、ズームしちゃお。

アイシャ:

 やめるアルぅ! くぅぅう!

シャナク:

 可哀想に……。

アイシャ:

 博士……お前、絶っっっ対にぃ、殴るアル! 直に、殴る、アル!

ヴェル(inシャナク):

 わぁー、こわぁい。芋虫エルフがなんか言ってるよぉー。

アイシャ:

 ふぬぅぅぅぅう! 外れろぉぉぉお! アルぅぅ!

シャナク:

 巻きついているのは、砂鉄入りの超強靭(ちょう きょうじん)コードです。後ろの義体に装備されている、磁場形成機構を使い、磁石化させて拘束しています。幾らアイシャさんと言えど、人力では外せないかと。

アイシャ:

 難しい言葉を使うなぁあ! アルぅぅ!

シャナク:

 え? えぇっと……アイシャさんにでも、分かるように……少々、難しいですね。

ヴェル(inシャナク):

 別に教えなくて良いですってぇ。どうせ理解出来ないですからぁ。頭悪いのでぇ。

アイシャ:

 分かるように説明出来ない方が、頭悪いアルぅ!

ヴェル(inシャナク):

 ぐぬぅ、そうかもぉ……たまに真理めいた事を言うんですよねぇ、アイシャ君は。

シャナク:

 博士……何か、向かって来ています。

ヴェル(inシャナク):

 ん? ……あぁ、大丈夫。あれは、お迎えですよぉ。

シャナク:

 お迎え? ……あぁ、博士……碌でもない。

アイシャ:

 な、なにアルか、この音?

ヴェル(inシャナク):

 ただの……自動車ですよぉ……ん?

ハンペン:

 ……たーすーけーてぇー!

シャナク:

 誰?


〜〜〜〜〜〜

マリシ市街地沿岸エリアにて自動車修理後


マズダー:

 いやぁ、直って良かったなぁ。

ハンペン:

 そーだなー、って、良くねーよっ! なんで俺が金払わされるんだよ!

マズダー:

 すまん……兄ちゃん、金あんまり持ってなくて。

ハンペン:

 よくそんなんで、宿探してたなぁ! 金額は気にしない、って何だったんだよ!

マズダー:

 気にしたってしょうがない、ってことだ。

ハンペン:

 一番気にしないといけないとこだよ!

マズダー:

 まぁまぁ、次会った時に返すって。

ハンペン:

 次ぃ?

マズダー:

 あぁ。忘れた頃にでも、また会えるさ。

ハンペン:

 自然消滅させようとしてんなぁ!? このガキ、どこまで面の皮厚いんだー!

マズダー:

 ガキって……せめて、良いとこ兄ちゃんだろ。

ハンペン:

 うるせー! クソガキだろーがー!

マズダー:

 うーん、でも、若いってことだよなぁ……。(小声) いや、ははっ、そんなに若く見えちゃうかなぁ?

ハンペン:

 なんで喜ぶんだよ……気持ち悪いな。

マズダー:

 あ、それより、運転試してみろよ。

ハンペン:

 うー……まぁ、そうだな。とりあえず、金については、後でだ。

マズダー:

 よし……別のことに興味持てば忘れんだろ。子供はちょろいからな。(小声)

ハンペン:

 なぁ、座ったけど、こっからどーすんだー?

マズダー:

 あ、あぁ、まず安全帯をつけるんだ。そしたら座席の横にあるギアを、ADって書いてるところに合わせて、目的地を入力すればOKらしいぞ。

ハンペン:

 えっと、これか……よし。それで、目的地かぁ……どーしよう。

マズダー:

 とりあえず、試しだし、すぐそこら辺で良いんじゃないか?

ハンペン:

 そうだなー。じゃあ、そこの角にある商店にでも……。

自動車:

 ビー、ビー、緊急のリクエストを、受信しました。目的地を、上書きします。

ハンペン:

 え?

マズダー:

 どうした、変なとこ触ったのか?

ハンペン:

 いや、俺は何も……うわっ!

自動車:

 緊急レベル、5(ファイブ)。ルート検索にて到着時間を最優先。……検索完了。陸上および空中ルートにて、最短距離を選択。機体を変形させます。振動にご注意下さい。

マズダー:

 な、なんだぁ?

ハンペン:

 う、うわぁぁあ! 揺れるぅぅう!

自動車:

 変形完了。

マズダー:

 に、二足歩行に、なった……?

ハンペン:

 な、なん、なん、なんなんだよー!

自動車:

 移動を開始します、衝撃にご注意下さい。

マズダー:

 なっ! やべぇな……坊主、達者でな!

ハンペン:

 いや、助けろよー!

自動車:

 スラスター起動。テイクオフ。

ハンペン:

 ぎゅうわぁぁぁー……!(遠くなっていく)

マズダー:

 ぶ、ゲホッ、ゲホッ! ……あー……すげえ土煙……だ、ゲホッ。……大丈夫かな、あいつ……まあ、良いか。それこそ……忘れた頃にでも、また会えるだろ。


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にて自動車合流後


ハルトM:

 なんか人型のロボットが、空から降って来た。(麻痺にて喋れない為、心の声)

ハンペン:

 ぎゅうわぁっ! うぐぅ……。

シャナク:

 博士、知らない人が乗ってますけど?

ヴェル(inシャナク):

 そんなん知らないですよぉ……あぁ、この子かぁ、気絶してますねぇ。

アイシャ:

 こ、これは……マリシの6台合体ロボ……!?

ハルトM:

 知らんぞ、そんなの……。

ヴェル(inシャナク):

 残念ながらぁ、それは構想で止まったままですよぉ。これは、単体変形ロボ、とでも言いましょうかねぇ。

シャナク:

 正しくは、非常に無意味な変形を行う、自動車です。

ヴェル(inシャナク):

 無意味じゃないですぅ! 芸術性と機能性を兼ね備えた、ハイテクマシンですぅ!

ハルトM:

 カッコいいけど……絶対無駄にコストがかかってるな、あれ……。

アイシャ:

 くっ! 博士っ! それと闘わせるアル! 絶対に強いヨ!

シャナク:

 いえ、戦闘用では無いので……こちらが瞬殺されてしまいますよ。

アイシャ:

 そんなの、やってみないと分からないアル!

シャナク:

 はぁ……アイシャさんも、こういうロボが、お好きなんですねぇ……。

ヴェル(inシャナク):

 私も、芋虫エルフ君をボコボコにしたいのは山々なんですけどぉ……もうそろそろ、お暇させて頂きますよぉ。……サリュー君とロイ君まで来たら、形成逆転どころじゃ済みませんでしょうしぃ。

アイシャ:

 くっ……せめて、ネコを直していくネ!

ヴェル(inシャナク):

 あぁ……ネコ君なら、大丈夫ですよぉ。一番大事な部分は、綺麗に抜き出せましたからねぇ。

ハルトM:

 っ! まさかっ……!

アイシャ:

 それは、どういう意味アル……?

ヴェル(inシャナク):

 電脳……あぁ、えっと……ネコ君の人格および記憶データを、まるっと抜き取れたんでねぇ。ちゃあんと、タングリスニで復元させますからぁ……安心して下さい。

アイシャ:

 そんなっ……! ネコまでっ……また、いなくなるアルか……。

ヴェル(inシャナク):

 よいしょ、よいしょ……ふぅ、先客が邪魔くさいですが、なんとか乗れましたねぇ。

アイシャ:

 博士っ! 逃げるなっ!

ヴェル(inシャナク):

 おやおやぁ、人聞きの悪いことを……逃げるんじゃありません。帰るんですよぉ、堂々とねぇ。

アイシャ:

 っ……もう、博士の帰るところは……マリシじゃ、ないアルね……。

ヴェル(inシャナク):

 ……アイシャ君。私はねぇ、住処(すみか)に固執なんてしません。どこでも良いんですよぉ、好きなことが出来ればねぇ。

アイシャ:

 ……ならっ……マリシに……ずっといればいいアル!

ヴェル(inシャナク):

 ……いまのマリシに。私が好きなことを出来る程の力は、ありませんよ。君が一番、良く分かっているでしょう? 国としての機能を、機械が担保しているだけで……中身はスカスカになっていることを。

アイシャ:

 ……うるさいアル。

ヴェル(inシャナク):

 アイシャ君。見て見ぬ振りは、誰もが出来ることです。けれどね……目を逸らさず、向き合うことは……案外、君みたいな人にしか、出来ないことかもしれませんよ?

アイシャ:

 え……?

シャナク:

 博士、そろそろ……。

ヴェル(inシャナク):

 そうですねぇ……。アイシャ君、ハルト君。マリシは……いや、アグホントは……君たちが気付いている以上に、複雑で厳しい状況にあるのかもしれません。私は、この通り……どこでだって、やることは変わりません。良くも悪くも……人は、簡単には変わらないですからねぇ。

ハルト:

 ……うぅ……くそっ……ヴェル……。

ヴェル(inシャナク):

 あらら、喋れるくらいに回復して来ましたか……本当に、楽しい時間は、あっという間ですねぇ。

アイシャ:

 博士……私。

ヴェル(inシャナク):

 はい?

アイシャ:

 絶対に、ぶん殴りに、行くアル。

ヴェル(inシャナク):

 ……ふっ。

アイシャ:

 顔を洗って……待ってるヨロシ!

ヴェル(inシャナク):

 ……えぇ、楽しみにしておきますよ。……それでは、皆さん。

自動車:

 自動運転開始。スラスター起動。テイクオフ。

ヴェル(inシャナク):

 さようなら、また会う日まで。


〜〜〜〜〜〜

マリシ某所(軍部規定により詳細は伏す)にてシャナク離脱後


アイシャ:

 ……ハルト、動けるアルか?

ハルト:

 あ……あぁ……まだ、少し……いや、かなり、痺れてるけどな。

アイシャ:

 見て欲しいアル……博士が置いていった、この機械……ちょっと見ない間に、ボロボロになってるアル。

ハルト:

 なんだ、これ……うわっ、崩れる……土みたいになっている……これじゃあ、何も分からなそうだな……。

アイシャ:

 本当……用意周到な奴アル……。

ハルト:

 あぁ……敵に回すと、厄介すぎる……クソうざいし。

アイシャ:

 ……あぁー! くっそぉおー!

ハルト:

 うおっ! 突然叫ぶなっ! うるっさい!

アイシャ:

 はぁ……ハルト。

ハルト:

 なんだ?

アイシャ:

 私。決めたアル。

ハルト:

 なにを?

アイシャ:

 ……強くなるネ。今よりも、もっと……もっと、もっと、もっとぉー! 好きな時に、博士のバカ面に連続パンチお見舞い出来るくらいに!

ハルト:

 ……はっ、そりゃあ良い。是非、強くなってくれ。

アイシャ:

 うん……任せておくヨロシ!

〜〜〜〜〜〜

少し後。タングリスニ某施設内にて

ハンペン:

 ……はっ!

シャナク:

 お目覚めですか?

ハンペン:

 えっ、あ、ここは? うおっ、てか、なんだお前! カニ!?

シャナク:

 モチーフとしては、違います。本機は、『戦略兵装-多脚六型:七星』(せんりゃくへいそう たきゃく ろくがた ななほし)です。よって、モチーフはナナホシです。

ハンペン:

 ナナホシ……てんとう虫?

シャナク:

 はい。それで、ええと……あなたのお名前は?

ハンペン:

 え、あぁ……俺は、ハンペン。ハンペンって言うんだ。

シャナク:

 ハンペンさん。大変申し訳ないのですが。先ほど、マリシからタングリスニへの移住登録が完了しました。

ハンペン:

 えっ? 名前も知らなかったのに?

シャナク:

 細かいところは、この後に登録修正します。

ハンペン:

 あぁ、そうなの……なんか……ここのところ、国を移動してばっかだな……。

シャナク:

 身元保証人は、あなたを連れて来たギャギャギャリアン・ヴェルナヴァンドとなりますので、何かあればその方をお頼り下さい。

ハンペン:

 ぎゃぎゃ……なんて?

シャナク:

 それでは、私はこれで失礼します。あぁ、こちらのお部屋は、お好きにお使い下さい。

ハンペン:

 え? ちょ、ちょっと! 待ってくれよ!

シャナク:

 ご機嫌よう。

ハンペン:

 おーい! ……な、なんで……こんなことに……うぅ……意味わかんねーよー!


〜〜〜〜〜〜

数日後、タングリスニ某ラボ内にて


ヴェル:

 ……ふぅ。お疲れ様ですぅ。いやぁ……疲れましたねぇ、今日もぉ。……ん? おぉ、インストール終わってるじゃないですかぁ。素晴らしい速度だぁ。それではぁ……起動。ポチッと。

ネコ:

 ……こ、こは?

ヴェル:

 Bonum diem(ボヌム、ディエム)。ネコぉ君。ようこそ……タングリスニへ。



〜END〜


Bonum diem(ボヌム、ディエム):おはようございます(ラテン語)


ー*ー*ー*ー*ー*ー


自作の声劇台本まとめ

https://note.com/gestalt_summer/n/n258ee3e888bb

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