Aguhont Story Record 24th Episode

『風火の輪舞曲』 

作:天びん。

(0:1:2) ⏱40分 


【登場人物】

エリス=オーベル:リーベルの女性皇族、白銀の長髪を縛ってポニーテールにしているエルフ。常識的だがたまに何処か抜けている。

テルエス:性別不問、タングリスニの皇族、耳が半ばから切り落とされており、右手が義手で執事服を身に纏っているハーフエルフ。軽薄で人懐っこい印象を受けるが、人間不振で冷徹な一面も。

ティアン:性別不問、獣人、猫耳。何処の国にも属さない戦いの見届け役。


※こちらのエピソードの裏でタングリスニ、リーベルの国民達がどう動いていたのかを描いた、外伝『アイネ・クライネ』という物語があります。

途中に《外伝◯◯》と対応するシーンナンバーを記載しておりますので、外伝と併せて読んだり、組み合わせて演じることで、より世界観を楽しめます。


【用語紹介】

・バオジュンZ666

バルナで発生した奇病。感染初期は食中毒のように高熱を出し、肌が紫色に変色する。時間が経つとやがて理性を失い、肌は赤黒くただれ、毛が抜け落ちたり、眼球が飛び出してしまう症例もある。感染すると近くの人間を無作為に襲い、傷を負わせることで仲間を増やす。解毒剤を打つと抗体が出来るため、二度と感染することはない。

(詳細:13th Episode「バオジュンZ666」)

・ドライアド症候群

リーベル独自の病。初期症状は手にマメができるように皮膚の一部が厚く硬くなるが、病気が進行すると次第に皮膚が木の幹のようにゴツゴツとひび割れ、身体全体が樹木のように変わり果ててしまう。発症要因は現在調査中、治療には上級エリクサー3本を要する。

最近は徐々に発症率も落ち着いてきた。

(詳細:17th Episode「万能の霊薬」)

・サイラス=オーベル

リーベルの男性皇族でエリスの義兄。公式記録では15年程前に死亡扱いになっているが、実際は養父を殺した黒幕を突き止めるべく、タングリスニに残るとエリスに言い残し、生き別れてしまった。



【本編】


《外伝◯1》


エリス:…(溜め息)。

エリス:(ノック音)…どうぞ。

エリス:リア?それに、スイセイ殿…?!貴殿が何故ここに…?


―執務室を訪れたリアとスイセイは、エリスを前にして固まっていた。


エリス:ハハハハハハ!…そうか、私が恋煩いか…くっ。


ティアン:(N)盛大に笑うエリスにリアが首を傾げる。


エリス:生憎私は被虐的思考を持ち合わせてないのでね。奴は優秀な統治者ではあると思うが、恋愛対象としてはこちらから願い下げだよ。

エリス:まったく…スイセイ殿まで登城するとは思ってなかったから驚いたぞ。

エリス:それにしても、リア。なんでまたそんな風に思ったんだ?

エリス:…え?テルエスと令嬢が話すところを見て私が苦しそうな顔をしていた…?

エリス:あぁ…あの時か。あれは兄の事を思い出していたんだ。あの時テルエスと話していたのは、義妹のシーグリッド嬢だったからね。


ティアン:(N)エリスが口にした兄という言葉に、スイセイが反応する。エリスは腰に差していたクリスタルのダガーを引き抜くと、2人によく見えるよう手渡した。


エリス:あぁ、そうだ。

エリス:兄はこのダガーを私に託して、それからずっと会っていない。…もう、15年も前の話だ。

エリス:…クリスタルのダガーなんて珍しいだろ?

エリス:いくら魔法を通しやすい触媒とは言え、クリスタルそのものは鉄よりも脆い。

エリス:刀身に文字が刻まれているから、何か魔法がかけられているのは間違いないんだが…。

エリス:いかんせんリーベルの皇族に代々受け継がれているものだからか、文字が掠れて呪文が判然としなくてね。

エリス:ただ…硬度強化の呪文ではなさそうなんだ。

エリス:…兄は今も何処かで生きている、少なくとも私はそう信じている。

エリス:しかし…なかなか情報を得られなくてね…。そんな折に兄妹が仲睦まじく話す姿を見たものだから、少しだけ…羨ましくなってしまったんだよ。

エリス:…(溜め息)。


エリス:(M)兄さんは今、何処で何をしているのだろうか。…あれから15年。決して良いことばかりではなかったが、必死に走り続けてきた甲斐あって、今や贔屓目を抜きにしてもリーベルはかなり豊かな国になったと思う。

エリス:(M)兄さんにも私の頑張りは届いているだろうか…。出来ることなら、タングリスニで見た彼らのように側で、隣で…支え合えたら…!


ティアン:(N)エリスが在りし日の自身と兄へ思いを馳せるように目を細めたその時、突然エリスの執務室の扉が大きく開け放たれ、部下の一人が駆け込んできた。


エリス:…何かあったのか?


ティアン:(N)途端に表情を引き締めるエリスにもたらされたのは、タングリスニのテルエスから火急の書状が届いたという報せだった。


エリス:これからすぐにタングリスニに向かう。リアも着いてきてくれ。

エリス:テルエスめ…来月分以降の上級エリクサーは融通できないと言ってきた。

エリス:直接会って問いたださなくては…!


―エリスとリアが急いで馬車に乗り込む所を離れた場所からティアンが眺めている。


ティアン:(上級エリクサーの供給を打ち止めねぇ…。)

ティアン:これでタングリスニはリーベルを見限る方に舵を切ったことになるのか。

ティアン:(…まてよ。テルエスは調薬勝負をした時も、リーベルの勝敗に関わらず、上級エリクサーが供給出来る条件を提示していたはず。)

ティアン:何か別の人間の意図を感じるな…追っかけてみよっと。


―タングリスニ城内執務室では、テルエスがとある人物と対峙していた。


テルエス:やぁ、先日の対応以外に何か不都合でもあったかな?

テルエス:…そう、それなら良かったよ。

テルエス:それにしたって僕は一体皆からどう思われているんだい?僕だって国民のためなら身を粉にしてでも尽くす所存だよ、ビリオン。

テルエス:…え?普段からこのくらい早く処理してほしい?

テルエス:そんなことしたら他の者達は考えることをしなくなるじゃないか。僕はその機会を等しく与えているだけさ。決してサボってなんかないよ、ああ決して。

テルエス:まぁ、これで殿下の思惑通りタングリスニは安泰だよ。…一旦は、ね。


ティアン:(N)テルエスはそこで言葉を区切ると、纏う空気を変え、言葉を紡いでいく。


テルエス:他国で断続的に疫病が発生している。

テルエス:しかもバルナで発生したバオジュンZ666はタングリスニに連れてこられた捕虜が考案していて、そいつも既に他国に渡ったとなれば、流石に間諜の類いを疑うよね。

テルエス:タングリスニは年中雪にとざされていて、気候的にも乾燥している。

テルエス:疫病が発見されようものなら、瞬く間に感染していくだろう。

テルエス:…対策は早ければ早いほどいい。


ティアン:(N)意思を同じくした者同士、食事会でも開いてみては、というビリオンの提案に、テルエスは笑顔で返すも、目は全く笑っていない。


テルエス:え。皇族同士で食事会?…何だい、その笑えない冗談は。

テルエス:第一、僕以上にベリリ殿下が嫌がるに決まってる。

テルエス:ハハハ…ビリオンは冗談を言うのが本当に好きだねぇ。

テルエス:オードブル、スープ、メインを食べて打ち解けるどころか、どっちがデザートを独り占めするかで殺伐としているだろうさ。


―ビリオンが退室すると、入れ替わりにヴェルが執務室に入ってくる。


テルエス:んー?…何だ、博士かぁ。

テルエス:…そりゃあ僕だって受け入れたくはなかったよ。でも、受け入れざるを得なかったんだ。

テルエス:ビリオンも相当なクセ者だからね。あー、疲れたぁ。

テルエス:(M)ビリオンの話から察するに、ベリリは他国を滅ぼすためには、僕と協力するのも悪くないと思っているらしい。やだなぁ、殺気立っちゃって…。こういうのは頭を使って時間をかけてゆっくり進めるから面白いのに。

テルエス:(M)そういや、この前リーベルに喧嘩を売るように言われたから書状送ったけど、エリスはあの書状の真意に気付いたかな…いや、気付くわけ無いか。

テルエス:もう仕事やら何やらぜーんぶ放ったらかして、ラポム連れて静かな田舎に引っ込みたい…。

テルエス:そうだ!少し休憩しよう。

テルエス:ひどーい、つめたーい!博士のはくじょーものー!

テルエス:…でもまぁ、そろそろかな。

テルエス:そう遠くないうちに嵐がやってくるだろうし、おちおち休んでもいられないよ。


ティアン:(N)テルエスがそう言い終わるや否や、部下の1人が部屋にやって来て、エリス達の来訪を告げる。


テルエス:…分かった、すぐに支度するよ。


―テルエスが謁見の間に入ると、エリスは睨み付けんばかりの鋭い目でテルエスを見据えた。後ろではリアが少しばかり狼狽しているように見える。


テルエス:やぁ、遅くなってすまないね。

エリス:リーベルが皇族、エリス=オーベル。貴国にて仔細に確認したいことがあり、参上しました。

テルエス:構わないよ。君があの書状を見たら文字通り飛んでくる事は容易に想像できたからさ。

エリス:どういうつもりですか。

テルエス:…いきなりご挨拶だねぇ、エリス。前にも言ったけど、少しは雑談を交えようよ。

エリス:話をはぐらかさないでくれ!


ティアン:(N)今にもテルエスに食って掛からんとするエリスをリアが懸命に押さえる。テルエスはその光景を眉ひとつ動かさず眺めていた。


テルエス:…分かったよ。きちんと説明するから一旦落ち着いてくれない?

エリス:…ならば聞こうじゃないか。何故上級エリクサーを供給することが出来ない。

テルエス:そもそもリーベルが上級エリクサーを必要としていたのはドライアド症候群の特効薬だったからだよね?

テルエス:それって完治したらもう罹(かか)らないの?

エリス:…抗体は出来るが、人によっては何度も罹患(りかん)するケースもある。

エリス:最近は発症率もかなり落ち着いてはいるが、決して患者がゼロになった訳ではない。

テルエス:つまり、リーベルとしては継続的に供給して貰わないと治療が出来ないわけだ。

テルエス: …でもさぁ、実はリーベルだけじゃなくてバルナでも疫病のようなものが発生していたんだけど、それは知ってる?

エリス:イディアが言っていた…「生ける屍達」の事か?

テルエス:そう。バルナのとある村でバオジュンZ666という奇病が発生。

テルエス:感染力が強かったこともあり、病は一気に拡散、蔓延(まんえん)した。

テルエス:たまたまその場に居合わせた薬師が、持ち合わせていたワクチンを打って回ったことで一応終息したけど、被害は甚大だった。

エリス:ああ、死者も少なくなかったと聞いている。

テルエス:その通り。

テルエス:…さて、タングリスニの上層部はこれらの報告を受け、どのような決断をするに至ったか?

テルエス:―簡単な話さ、疫病が発生した時に備えて自国でも上級エリクサーをプールしよう。

テルエス:上級エリクサーはドライアド症候群の特効薬でもあるが、その本質は「万能薬」だ。

テルエス:どんな病にも効くかもしれない薬があるなら、プールするのは当然だろ?

エリス:理屈は分かった。

エリス:…分かったが、その決定には緊急度が全く考慮されていない。

エリス:万が一のために備えることは大切だ、国民のためだからな。

エリス:…かといって流通量を減らす事もせず、いきなり打ち切りというのは、あまりにも非情ではないのか!

エリス:リーベルには今も病に苦しんでいる国民がいるのだぞ!!

エリス:お前はその者達を見殺しにする気か!!


テルエス:(M)やっぱりね。案の定エリスは書状の意図に気付いていなかった…まぁ、当然と言えば当然なんだけど。


エリス:―止めるな、リア!その手を離してくれ!


ティアン:(N)リアはテルエスとエリスの間に入ると「不敬」という言葉を出し、ようやくエリスを押し留めることに成功した。エリスは多少理性を取り戻したのか、もう掴みかかろうとはしないものの、目には怒りの炎が揺らめいている。


エリス:…では、これならどうだ。

エリス:―テルエス、私はお前に一騎打ちを申し込む。


テルエス:(M)(溜め息)―馬鹿なのかな?僕だって出来る範囲で動いているのに…そこを全くといっていい程考慮しないお馬鹿さんは、ちょっとくらい痛い目に合わせても良いよね?


テルエス:正気かい?

テルエス:…にしてもまた古い制度を持ち出してきたねぇ。

テルエス:僕も半分はそうだけど、エルフって古きを重んじる傾向があるし、仕方ないのかな?

エリス:何とでも言うが良い。

エリス:私が勝ったら、お前には上級エリクサーを融通して貰うぞ。

テルエス:それ、リーベルにしかメリット無いじゃん。

テルエス:僕が勝ったところで何かメリットあるわけ?

エリス:ならば、私が負けた際はお前の指示に従おう。

テルエス:―いいよ、その勝負乗った。


ティアン:(N)テルエスが面白いと言わんばかりに微笑むと、謁見の間にビリオンが入ってきた。


テルエス:やぁ、ビリオン。

テルエス:ちょっと政策の件で議論が白熱してしまってね…騒がしかったかな?

エリス:ご無沙汰しております。リーベルが皇族、エリス=オーベルです。


ティアン:(N)ビリオンはエリスを見てニッコリと笑うと、一騎打ちを開催するのであれば、タングリスニの競技場を使い、大々的にやってはどうかと提案してきた。


テルエス:へぇ、悪くないね。

テルエス:準備の時間も考慮して…勝負は3日後の正午でどう?

エリス:…良いだろう。種目は剣術でどうだ?

テルエス:いいね。…といいたいところだけど、別に剣術に固執する必要はないよ。

テルエス:せっかく競技場を使うんだ、魔法使った方が遠くの席からでもよく見えて良いんじゃない?

エリス:ちょっと待て!お前、この一騎打ちをパフォーマンスとして捉えてるのではあるまいな?

エリス:それに魔法アリでは扱い慣れていないお前が不利になる。そんなのフェアじゃない。

テルエス:あれれー?エリスは僕が魔法アリにしたら負けると思ってるの?

テルエス:おっかしいなぁ、寧ろ魔法アリにしたら勝てる自信がないから、そんなこと言うんじゃない?

エリス:…ほーお?良いだろう、そういうことなら見せてもらおうではないか。お前の渾身の魔法とやらを…。

エリス:ビリオン殿、ご協力感謝します。

エリス:…私は、お前を優秀な統治者であると認めていたのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。

テルエス:それはどうかな?理想論者である君が統治者に向いてないだけじゃない?

エリス:3日後、覚悟しておけ。

テルエス:こっちの台詞だよ。


―そう言うとエリスは謁見の間を出ていき、リアが慌てて後を追う。一部始終を城の窓越しに見ていたティアンは口をあんぐりと空ける。


ティアン:マジ…?!一騎打ちとか実施されるのは初めてじゃない?

ティアン:まぁ…タングリスニとリーベルはいつか衝突すると思ってはいたけど、まさかこんなに早く、しかも一騎打ちという形で実現するなんてね。

ティアン:っと、こうしちゃいられない!制度としては昔からあったけど、実際に一騎打ちが行われるのは初めてなんだ。

ティアン:こんな面白いネタ、大々的に宣伝しないと勿体ないぢゃんね!

ティアン:今話してた一騎打ちの詳細をまとめて…っと。

ティアン:よっし、出来た!これをアグホント大陸中にばら蒔くぞ!!


―ティアンは見出しに大きく『一騎打ち開催決定!!』と書かれた大量の号外を手に、タングリスニ城を後にした。



《外伝◯2~外伝◯10》


―一騎打ち当日。タングリスニの競技場にはたくさんの観客が詰め掛けていた。


ティアン:スッゴい人!これ、満席だよね?

ティアン:さっすが、アタシ!号外配って回ったかいがあったわぁ…。

ティアン:―と、いうわけで始まりましたぁ!リーベル対タングリスニの一騎打ち!!司会、実況、解説はお馴染み私ティアンがお送りいたします!


―競技場の両サイドの入り口からそれぞれエリス、テルエスが歩いてきた。その傍らにはリアとヴェルが控えている。


ティアン:さてさて、両選手の入場です!一騎打ちは皇族同士の戦いですからね、非常に豪華な顔触れとなっておりますよ!リーベルからはエリス選手、そしてタングリスニからはテルエス選手が参戦します。

ティアン:試合内容は以下の通りです。種目は魔法アリの剣術戦、2人には結界魔法をかけた状態で戦っていただき、最終的に相手の結界を先に破った方が勝利となります。

ティアン:さて、2人に視点を戻しましょう。…どうやら今は一騎打ちに使用する武器を選んでいるようですね。

テルエス:これってナイフはアリなの?…え、ダメ?…なら、僕はこれで良いや。

エリス:…奇遇だな。私もレイピアを使わせて貰おう。

ティアン:なんたる偶然!2人とも同じレイピアを選択したようです!他の武器は全て外し、リアさんとヴェル博士に預けます。

エリス:…あぁ、絶対に勝ってくる。信じていてくれ、リア。

テルエス:んじゃ、これとこれとこれと…。え?普段どれだけ武器を隠し持ってるのかって?…この世には知らない方が良いこともあるんだよ。

ティアン:エリス選手はリアさんに他の武器を預け、激励の言葉を貰っているようですが…。テルエス選手、次から次へと爆弾が出てきます。ヴェル博士も呆れ顔です!

ティアン:魔導士が結界魔法をかけ終え、エリス選手とテルエス選手はレイピアを構えて向き合います。…準備が整ったようです。―では一騎打ち、始め!!


《外伝◯11》


エリス:―『靡(なび)け、靡(なび)け、―櫛(くしけず)り、順(したが)いて、我が身に速さを与え給え―疾風(はやて)』!

ティアン:エリス選手、速い!まるで白銀の光がテルエス選手目掛けて駆けていくようだ!!

エリス:はあぁぁぁ!!

ティアン:一気に距離を詰め、レイピアを針のように連続で突き出していく!!

テルエス:風魔法に乗じて力任せに打ってくる、相変わらず君は荒っぽいなぁ…

ティアン:そう言いつつも、テルエス選手は笑顔で受け流す!!余裕綽々(しゃくしゃく)といった所でしょうか!

エリス:全ていなすか…。

ティアン:エリス選手、攻め手を緩めようとはしません!後退するテルエス選手目掛けてガンガン打ち込んでいきます。

テルエス:僕だってやる時はやるよ。

ティアン:しかしテルエス選手、余裕の表情でフィールド上を動いていく!

エリス:まるで踊るように打ってくるのだな。食えない奴め…。

テルエス:策士って言ってくれる?…レイピアの基本だろ?刀身が細く、どこから攻撃が飛んでくるのか予想させない戦い方。

テルエス:…今度は僕の番だ!

ティアン:ここでテルエス選手、後退する方向を切り替えたー!

ティアン:そして体勢が整いきっていないエリス選手めがけて一突き!!

エリス:―!

ティアン:早速エリス選手にビンタのような打撃が入りました!!レイピアはフェンシングとは違い、鉄鞭(てつむち)のように扱うことも出来ます。レイピアの性質を上手く利用したテルエス選手、実に戦略的です。…これは結界に大ダメージを与えたか…?

テルエス:あら?結構固いんだね、これ。

エリス:…お前、レイピアをどこで習った。

テルエス:どこって、多少軍の訓練で習ったくらいで、あとは座学だよ。まともに習った覚えはないな。

テルエス:お喋りも良いけど、反撃しないならこっちから行くよ…!

ティアン:今度はテルエス選手が前に踏み込む!さぁ、仕掛けてきたぞ!エリス選手どうする!!

エリス:はぁっ!!

テルエス:ぐっ!

ティアン:レイピアでからめ捕り…テルエス選手の首元を捉えたー!!

ティアン:いやぁ、エリス選手も負けておりません!テルエス選手のバックハンドのような猛攻を躱しつつ、鋭い突きで首元を捉えました!!良いダメージが入りましたね!!

エリス:策士なのだろう?大振りの攻撃に伴うリスクは当然考慮すべきでは?

テルエス:…言ってくれるじゃん。

ティアン:テルエス選手、喉元を押さえながらエリス選手を見やる。その間もすぐ対応できるようレイピアを構えたままだ!

テルエス:これは怪我覚悟でやるしかないかな…。

エリス:手加減は無用だ。何のために一騎打ちにしたと思っている。

エリス:逃げられなくするためだ、お前も…私も。

テルエス:なるほど?

テルエス:皇族同士の戦いで、かつこれだけオーディエンスが居れば、結果を受け入れざるを得ないからか。

テルエス:でも何か勘違いしてない?怪我を覚悟するのは君の方だ。

エリス:何を―

テルエス:『見よ。名はテルエス。北方の守り手なりて、智力で戦わんと欲す者。そなたの怒りを以て、大地が焦土と化す程の爆炎を貸し与え給え。煌々(こうこう)と燃え盛り、その身を焦がす灼熱の焔を。爆ぜろ「爆焔(ばくえん) 焦土の星」』!

ティアン:これは、リーベル式の詠唱!?

エリス:―マズい!

ティアン:エリス選手も気付いて飛び退く!!

テルエス:…なんてね。

エリス:何?!

ティアン:テルエス選手、ここでニヤリと笑う!詠唱はフェイクだった!!

テルエス:吹っ飛べ!『機巧手砲(きこうしゅほう)』!!

ティアン:レイピアを握った義手がエリス選手目掛けて飛んでくる!!

エリス:―っ!

ティアン:間一髪…避けたぁ!

テルエス:チッ…外したか。

ティアン:うぉああああ!スゴい、義手が飛びました!!…ん?避けた?…そしてそのまま飛んで客席に…!!って、逃げろぉぉぉぉ!!

エリス:お前…!無関係な民をも巻き込むつもりか!!

テルエス:いやぁ?そんなつもりはなかったけど、ちょーっと出力誤ったかなぁ?

テルエス:でもまぁ…観客も観てるだけじゃなくて、一騎打ちを肌で感じられるし…スリリングで面白いでしょ、うん。

エリス:戯け!一騎打ちどころか命の危機を感じているの間違いだ!!

ティアン:はぁ…はぁ…、ふぅ。突然レイピアを握った義手が飛んできて客席は大混乱です!

エリス:しかし、レイピアは彼方に飛び去った!丸腰の今なら…!!

ティアン:エリス選手、周囲の状況に目もくれずテルエス選手に向かっていくー!

テルエス:世の中そんなに甘くないよ。―『爆炎術式・次式(じしき)』!

ティアン:今度こそ爆発魔法が炸裂!客席ではところどころ悲鳴があがっております!!

エリス:なんていい加減な…!

ティアン:エリス選手、直撃は避けられたようですが、視界を奪われ立ち往生してますね。

テルエス:よそ見するなんて余裕だねっ!

エリス:くっ!

ティアン:おおっと!テルエス選手、煙幕を利用して奇襲を仕掛けた!義手とレイピアもしれっと装備しております!!

テルエス:やっぱり攻撃への反応速度が早いね、よく訓練されている。

エリス:お前がそれを言うか…!まさかここまでレイピアを扱えるとは思わなかったぞ。

テルエス:あのねぇ。僕は戦闘に特化してないだけで得物は一通り扱えるの。剣よりも頭を使って勝つ方が楽しいってだけ。

エリス:なるほど…。ならば知っているだろうが、お前のその円を描くようなステップ…サークリングは地域特有の物だ。

テルエス:あー、レイピアもいくつか流派みたいなのがあったっけ?

エリス:かく言う私もそれを教わったことがある。

テルエス:…ん?ということはリーベル式ってこと?

エリス:あぁ…レイピアのタングリスニ剣術にあのようなステップは存在しない!

ティアン:エリス選手、力を込め…テルエス選手目掛けて拳を突き出した!

テルエス:!

エリス:―そこだ!!

ティアン:エリス選手、殴るかと思いきや手首を返して面打ち!続いて脇腹に一発お見舞いしたぁ!!

テルエス:…っぐ!

ティアン:エリス選手、二連撃です!彼女の性格上、型に嵌まったような剣術を披露してくるかと思っていましたが、なかなか意表を突いてきますねぇ!!

エリス:どうした?二連撃入ったぞ。

テルエス:こんな野蛮な手を使うなんて、らしくないんじゃない?…どういう心境の変化?

エリス:どっかの誰かさんに「せいぜい足元を掬われないように足掻け」と言われたのでね。

テルエス:狭い視野で理想しか見えていないと思っていたけど、認識を改めないといけないな。

ティアン:テルエス選手、ゆらりと立ち上がった!そしてエリス選手に素早く打ち込んでいく!!

エリス:『駆けろ、駆けろ―、明るく晴れやかに…ひとえに周囲を照らし給え…―閃光』!

ティアン:しかしエリス選手、魔法で迎え撃つ!放ったのは…閃光だ!!

テルエス:!?これは…幻覚?いや、目眩ましか…?

ティアン:おっと、あまりの眩しさに怯んだか?!

エリス:もらった!

テルエス:―っ、『解呪術式・初式(しょしき)』!

ティアン:テルエス選手、咄嗟の判断で解呪!閃光がかき消えたぞ!!

エリス:チッ…解呪か、なかなかに厄介だな。

テルエス:揺さぶりのつもりかい?じゃあ僕も攻めさせてもらおうかな。

ティアン:テルエス選手、何やらブツブツと呟いている!恐らく小声で詠唱しているのでしょう、徐々に霧が発生しております!!

エリス:(M)くそっ…何処に消えた…!

テルエス:―ここだよ。

ティアン:テルエス選手が霧に紛れて襲い掛かる!

エリス:くっ…!

ティアン:発生した霧のせいでテルエス選手の姿は見えません!

テルエス:…思った通りだ。

ティアン:エリス選手、攻撃をいなしながら、前へ前へと打っていきます!!

テルエス:習わなかったかい?重心は後ろにしないと…。

エリス:なっ!?…ぐうっ!

テルエス:自分から相手の切っ先に突っ込んでいくことになるよ!!

ティアン:なんとエリス選手自らレイピアに突っ込んでいったー!

エリス:くっ…!

ティアン:額を突かれたエリス選手も咄嗟に反撃!!

テルエス:甘いよ!

ティアン:しかし、テルエス選手これを予期していたのか鍔(つば)で弾いた!!そしてそのまま斬りかかる!!

エリス:―しまった!

ティアン:テルエス選手も二連撃!両者互角です!!…ただ、結界が破られていないとはいえ、ダメージは相当溜まってるはず…。次攻撃を貰えばどうなるか分かりませんよ…!

テルエス:―水鏡(みずかがみ)、幻影を見せる水魔法だ。

テルエス:…ね?勢いのままに突っ込むと、無駄に命を散らすことになる。

エリス:…人を猪みたいに言うんじゃない。

テルエス:間違っちゃいないだろう?君は感情的になりやすい。

エリス:そのようなことは分かっている!

ティアン:煽られたエリス選手、すごい勢いで向かっていきますが策はあるのか?!

テルエス:ほら、すぐに乗ってくる。こういうところだよ。

ティアン:テルエス選手、エリス選手の腕を掴むと、一気に引き寄せる!その先にはテルエス選手のレイピアだ!!

エリス:うぁっ!?

ティアン:入ったー!!テルエス選手の刺突(しと)が綺麗にエリス選手の顎に入りました!!…うわぁ、痛そう。ホント、女性相手に容赦ないな…テルエス。

テルエス:はい、同じ間違いの繰り返し~。重心を後ろにしてたら、ここまでダメージ負うこともなかったのにねぇ。

エリス:…くそっ…!

テルエス:ほら、あんまり情けない姿見せると、君の従者が可哀想だよ?

エリス:リア…。

テルエス:…何のために戦ってるのか。それすらも忘れてしまうなら、代表なんて名乗るなよ。

エリス:落ち着け、落ち着け…。私なら出来る。…出来る!

テルエス:そんなのって…君、やっぱり僕のこと嫌いだよね?

エリス:(深呼吸)…よし。

ティアン:エリス選手、深呼吸して気を引き締めます!この悪い流れを止めることは出来るのか!!

テルエス:深呼吸なんかで変わるのかい?

エリス:変わるさ…。私は自分のためでなく、国民のためにここにいる!!『響け、響け。九(く)の音から十五の音。四つ飛び、歩き、六で伸びる音。繰り返し、飛び越し、反芻する。軽やかに、楽しげに、育(はぐく)まれる其はそこにあり。故郷(ふるさと)を想い舞い上がれ。あなたの名を私が定義する。あなたの友はここにある。回れ。「層流 楽園の羽搏(はばた)き」』

ティアン:エリス選手、層流の魔法で水鏡の霧を消し飛ばした!

テルエス:やっぱり風魔法には負けるか…。

ティアン:そしてそのままテルエス選手目掛けて斬りかかる!!

エリス:はああぁぁぁ!!

ティアン:しかしテルエス選手も負けじとレイピアで応戦!両者一歩も譲りません…!!

テルエス:勢いだけは素晴らしいんだけどね!

ティアン:エリス選手が手首を返し、テルエス選手を狙う!狙っているのは右肩か?!

テルエス:させない!!

ティアン:すかさずテルエス選手がレイピアを振り下ろす!

エリス:ここだ!

ティアン:エリス選手、咄嗟に左に飛ぶ!そして脇腹目掛け、渾身の力でレイピアを突き出したぁぁ!!

テルエス:しまった!!

エリス:これで…終わりだぁぁぁ!!

ティアン:エリス選手の突きがテルエス選手の脇腹にクリーンヒットォ!更に返す一手でテルエス選手の頭を打ち据えました!!

テルエス:…驚いたなぁ。

エリス:結界は破った、そなたの負けだ。

ティアン:何ということでしょう…!エリス選手がテルエス選手の結界を破った!エリス選手の勝利です!!

テルエス:はあ?負けてねえし。結界が勝手に破れただけだし!

ティアン:これは文句無しですね、勝敗を決めたバックハンドの一撃は特に見事でした!

テルエス:…はぁ。

テルエス:おめでと。悔しいけど、僕の完敗だよ。

エリス:では、上級エリクサーの供給は全面停止ではなく、多少は融通して貰えるな?

テルエス:仕方ないね。

テルエス:面倒臭いけど、約束しちゃったからなぁ。

ティアン:やったね!エリス!!

ティアン:初回にしてはドキドキワクワクの一騎打ちだったよ。

ティアン:―良かったね、リアさん。

エリス:リア…!

エリス:ありがとう、大事なことを思い起こさせてくれて。

エリス:…いや、あのままでは恐らく…私はテルエスに負けていただろう。

エリス:何のために戦っているのか、自分を取り戻せたのはリアの声援のお陰だ。

テルエス:そうそう、途中のあれ何だったの?僕のレイピアがリーベル式だってやつ。

テルエス:何かの揺さぶり?

エリス:いや、そういうわけではないのだが…ちょっと思うことがあってな。

テルエス:…何?変に濁されると気になるんだけど。

エリス:すまない、実は…

ティアン:さぁ、一騎打ちの勝敗を受けベリリ殿下の従者ビリオン、そしてヴェル博士が拍手をしながら2人に歩み寄ります!

ティアン:パチンという音が聞こえましたから、恐らくエリス選手を守っていた結界魔法も解呪されたことでしょう。

エリス:あ、ビリオン殿。いや…素晴らしいだなんてそんな…ありがとうござい(ます…。)

テルエス:!危ない!!

ティアン:えっ…?テルエスがいきなりエリスを背後に庇った?!一体どうしたんだ?

ティアン:…!テルエスの左胸に矢が!!漆黒の矢が突き立てられています!!

テルエス:(小声で)無粋だなぁ…今日は正々堂々戦う日じゃなかったのかよ。

テルエス:…ぐっ!

エリス:お、おい…!

エリス:私は大丈夫だ。しかし…

テルエス:(M)…あーあ、しくったなぁ。せめてもう少しカッコよく助けたかった。…どうしてだろうな、何故か身体が勝手に動いたんだよ。…それに。

テルエス:可愛い妹は助けるだろ、普通。

エリス:え…。

テルエス:何でこんなに大切な事を、忘れ…

エリス:おい…しっかりしろ!おい!…っ!魔導士が来るまで私が回復魔法をかけます!!

エリス:『癒せ、癒せ―!優しく、健やかに…ひとえに身体を満たし給え―』


《外伝◯12》


ティアン:ダメだ、回復魔法が効いてない!テルエスの顔色もどんどん悪くなってる…。

エリス:くそっ、起きろ馬鹿者!生身で攻撃を受けるなんて…。癒せ!癒せ―!私はまだ何一つ、大事なことを伝えられていない!!…癒せ!癒してくれ―!お願いだ!私からもう家族を…兄さんを奪わないで!!

ティアン:え、兄さん?!

ティアン:うわっ?!何この光…エリスのダガーが光ってる?!

エリス:これは…!

ティアン:ダガーを引き抜いて…まさかエリス、テルエスを刺すつもり…?

エリス:…『メレス メルロン、ゲメリン リーベル アズ ラスタド セヴォイケ グラッズ。エンブラケ グワエウ グラッズ、フィスメ スプレメ ネスタ―』

ティアン:淡い緑色の光がテルエスに向かって吸い込まれていく…!

ティアン:テルエスは―?!傷が塞がって…顔色も良くなってるみたい。

エリス:!ダガーが…。

ティアン:刀身のクリスタルが砕け散った…!今の光は回復魔法だったのか。

ティアン:でも、さっきの…聞き間違いじゃないよね。

ティアン:確かエリスの兄ってサイラス=オーベルでしょ?公式記録では15年前に事故死してたはずなのに…テルエスがエリスの兄ってどういう事…?



《外伝◯13》


ティアン:ん…?え?!ちょっ…何?!

ティアン:あっ!エリス、リアさん!!テルエスまで拘束された…?

ティアン:しかもあれ、魔封じの手錠じゃん!3人とも罪人ってこと…?

ティアン:ちょっと、ちょっと…!まずくない?観客達は殺気立ってて、エリス達も連れていかれちゃったし…どぉすんのさ…!


《外伝◯14~外伝◯18》


エリス:(M)暗い…

エリス:(M)ただひたすらに暗い空間に私はポツンと立っていた。周りはよく見えなくとも、気配や私に向けられる視線で、同じ空間に何人か人がいることを自覚する。

エリス:(M)ああ、またこれか…と思い始める頃には、周囲の者達が口々に喋り始めた。

「お前は罪人だ」

「お荷物でしかない」

「気持ち悪い」

「無価値のくせに」

「偉そうに」

「お前なんか要らない」

「邪魔」

エリス:(M)…全部私に向けられた言葉だ。

エリス:(M)相変わらず暗い部屋の中で、繰り返される罵倒と刺すような視線。それらは殺意という名の刃物に姿を変え、ガリガリと『私』を削っていく。

エリス:(M)「お前なんか」…「お前なんか」、「お前なんか」「お前なんか」「お前なんか」―

エリス:―死んで償え、だろ。もう…聞き飽きた。

エリス:償いはしよう、しかし…今はその時ではない。

エリス:(M)私がそう口にした途端、周囲の人影は砂のように崩れ落ちた。そして徐々に覚醒していく。

エリス:リア…?

エリス:今は何時だ!あれからどのくらい経った?!…もう夕方か。

エリス:心配させてすまない。…情けないだろう?手錠をかけられたくらいで過呼吸になるなんて。前に話したことがあるかもしれないが、私は15年前に人攫いにあってな。この国で労役に服していた際、これをつけられたことがある。それ以来これを見るとどうしても、な…。

エリス:さて、状況を確認しなくては…どうなってる?


《外伝◯19》


エリス:!ヴェル殿…何故ここに?

エリス:…それよりも、テルエスの身柄が暴徒化した国民達に奪われただって?!


エリス:(M)ビリオン殿も動いているようだが、暴徒化した国民の中には軍の者もいるため手こずっており、この隙に活気づいた暴徒達がテルエスを処刑するかもしれないとのことだった。博士は牢の鍵を開けると、スイセイ殿と1人の男性を招き入れ、「後はご自由に」と言い、去っていった。男性はスイセイ殿が依頼したリーベルの傭兵で、名はナハトというらしい。


エリス:(深呼吸)…これより、テルエス奪還作戦を開始する!目指すは帝都中央広場!処刑場近くには市民達が大勢いるものと想定されるため、命を脅かすような過度な攻撃は厳禁とする!

エリス:では…作戦開始!!


―帝都中央広場には処刑台が設えられ、ディーゴ、ネコが立会人として控えている。そこに意識を取り戻したテルエスが役人に連行されてきた。


テルエス:…目覚めて早々処刑って、僕ってそんなに嫌われてるの?何かショックだなぁ…あぁ、僕って超可哀想!

テルエス:ねぇ、そもそも納得いってないんだけど、どうして僕が密偵で確定なのさ?

テルエス:それに、僕って割とリーベルに不利な条件の公務をしていたと思うんだけど。

テルエス:(M)聞く耳なしかぁ…どうしても僕とリーベルを悪者にしたいんだね。そういえば、コイツって確かベリリの直属の部下だったと思うけど、こんな勝手に行動して大丈夫なのかな?流石にお咎めなしとはいかないと思うんだけど。

テルエス:斬首刑ねぇ。

テルエス:人道的といえばそうなんだろうけど、首を落としたら城門の前で晒されるんだろうなぁ…やだなぁ。


テルエス:(M)口では嫌がる素振りを見せるけど、絶対怖がってなんかやらない。僕を殺したいと思っている奴の思い通りになんかなるもんか。あ!いっそ殺される前に自爆して、執行人もろとも吹き飛ばすのはどうだろう?…まぁ、手錠で魔法は封じられてるし、義手単体じゃそこまで威力も出ないか。


ティアン:テルエスが断頭台に固定された!このままじゃ本当に処刑されちゃう!!


《外伝◯20》


ティアン:うわっ、何?!あそこでタングリスニ兵を蹴散らしてるのは…ナハトとスイセイ!?

ティアン:ははーん、あの2人がリーベルからの援軍か。

ティアン:その隙にエリスとリアが断頭台のテルエスに駆け寄って…。

テルエス:(M)…え、何?何が起こってるわけ?凄い音が聞こえたかと思ったらいきなり戦闘音が聞こえ始めたんだけど。

エリス:―そこを、どけぇぇぇぇぇ!!

ティアン:エリス、すごい勢いで突っ込んでったけど…大丈夫?テルエス生きてる?…なんだ、生きてた。

ティアン:うわ…凄い!リアさんも初級魔法の水球で暴徒達を圧倒してる!銃弾みたい…。



《外伝◯21》


エリス:やっ!…はあっ!!

テルエス:うわぁ…あのネコを簡単に?

テルエス:リアって案外おっかないなぁ。

エリス:感心している場合か!リアが足止めしてるうちに退くぞ!!

テルエス:…。

エリス:…!どうした?

テルエス:僕は、行けない。

エリス:何故。

テルエス:僕は、まだ父さんを殺した黒幕を見つけられていない。それに…


―テルエスはいつもの軽薄な笑みを浮かべて嗤う。


テルエス:僕はタングリスニのヤバい皇族「テルエス」だ。タングリスニを敵に回すと後が怖いのは、誰もが知っているだろ?僕をリーベルに連れ帰ったところで、リーベルが抱えるのはデメリットしかない。それなら僕はいっそこの場所で、この国で最期を―

エリス:…。

テルエス:…ぇ。

エリス:馬鹿者。…お前は、こんな時まで国益を優先するのか!1人にしないと言ったのは誰だ!崩れゆく炭坑の中で私が…私があの時、どんな思いで、約束したと思っている!!生半可な気持ちではないぞ!それなのに、お前は…その約束をも破るつもりか。

テルエス:…。

エリス:私がここまで頑張ってこれたのは、兄さんが帰ってきた時に森を、素晴らしい景色を、リーベルという豊かで美しい国を見せるため!お前が戻ってこなければ意味がないんだ!!それでも1人でこの騒動を治めると言うのなら、私はぶん殴ってでもリーベルに連れて帰るぞ。

テルエス:…もう殴られてるけど。

エリス:!揚げ足を取るんじゃない!

テルエス:…まったく、昔は可愛かったのに。

エリス:んなっ、失礼な!今だってそれなりに気を使って…

テルエス:―今じゃすっかり頼もしくなっちゃって。

エリス:…そうだ、もう私でも兄さんを支えられる。もっと頼ってよ…兄さん。



《外伝◯22》


ティアン:ナハトもスイセイも強いねぇ。体術と剣術って違いはあれど、軽々兵達をぶっ飛ばして…。

ティアン:…あ、エリスがテルエスを連れて逃げようとしてる!アタシも急がなくちゃ!

エリス:―聞け!!今回の件、我らは青天白日である!貴殿らもよく調べてみると良い。非があるのはリーベルかそれとも貴国、タングリスニか…。

エリス:最後に1つだけ言っておこう。我々は逃げも隠れもせぬが、正当な理由もなく我らに牙を剥くというのなら…その時は容赦しない。



《外伝◯23》


ティアン:リアさん達!!早くこれに乗って!!

エリス:ティアン?何故ティアンが…

ティアン:説明はあと!いいから、早く!!


《外伝◯24》


―リーベルに向かう荷馬車の中。


ティアン:いやぁ…2人の一騎打ちを観に来たんだけどさ、まさかテルエスが処刑されそうになってたなんてビックリだよぉ。

ティアン:お礼なんかいーよ!私もある人に頼まれただけだからさ、この話はこれでおしまい!

テルエス:…ならちょっと良いかな?僕、君達に助けられたんだよね?処刑されそうになってるところを助け出されたって認識で合ってるよね??じゃあさ…何で今僕がこんな格好してるのか教えてくれない?


ティアン:(N)何故かテルエスは今ミントグリーンのチュールをふんだんに使用し、白いレースとパールをあしらったリボンで、グルグル巻きにされていた。


エリス:気になってはいたが…。(笑いをこらえながら)何故…何故そんなにも、か…可愛らしいことに…!

テルエス:笑いをこらえるか質問するかどっちかにしてくれない?

ティアン:それ触れて良かったの?てっきり趣味でそんな格好してるのかと…

テルエス:怒って良いかな?分かってて言ってるだろ。

ティアン:え…ヴェル博士からの依頼?

テルエス:やりやがったな、あのクソ博士め…!

エリス:しかしそれにしたって、ナハト殿が何故?

エリス:…なるほど、そういう理由か。

テルエス:最近妙に大人しいと思っていたら、こんなことに頭を使っていたなんて…。


テルエス:(M)僕は簀巻きにされたいんじゃなくて、簀巻きにされて悪戦苦闘している様を眺めたいんだよ!!


ティアン:こうしておけば可愛くない性格もちょっとは可愛くなるんじゃない、ねー?

エリス:ふふっ…確かに、よく似合っているぞ。

テルエス:そーかい。なら今すぐほどいてエリスをグルグル巻きにしてあげようか?

ティアン:えー!絶対このままの方がいいって!!

エリス:私は謹んで遠慮するよ。

テルエス:はぁ?契約上リーベルまではこのままで?そんなこと知るか!…ふぎぎぎぎ!…って全然ほどけない…!

ティアン:かなり念入りに縛られてるね。1人じゃほどけないと思うよ。

テルエス:…ふん!

ティアン:あ、拗ねた。

エリス:とりあえず…リーベルにおかえり、兄さん。

テルエス:…ただいま。



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