Aguhont Story Record 21st Episode

『ガチャガチャ・スクランブル』 

作:天びん。 

(2:0:3) ⏱30分 

 

【登場人物】

ナハト:面倒見が良く、飄々としてる人間の男性。苦労人。旅と酒、美味い飯が好き。普段は行商人や旅人の護衛をしており、色んな国に出没する。依頼があれば金額次第で荒事から暗殺もこなすクソツヨ「戦争屋」。現在はバルナに住んでいるがタングリスニのスラム育ち。

ヴェニン:性別不問、アグホント大陸1を自負する行商人。

ハンペン:性別不問、ハンペン色の髪色をしたちびっこエルフ。卵の殻を背負っている。単純で素直な性格。勘で動く。卵はロマンだとよく萌えており、大型鳥類の巣を見つけては、盗んで親鳥によく追いかけ回されている。戦闘時は棍(こん)を駆使して戦う。

イディア:性別不問、銀髪ストレートロングにメイド服(男性演者の場合は執事服)を着用しているアンドロイド。バルナでパン屋を営んでいたが、現在はリーベル支店が出店したことにより、リーベルに居を移しパン屋を営んでいる。

マズダー:男性、人間のおっさんに見えるが実はアンドロイド。過去マリシにいた際自動車の修理費をハンペンに払わせている。何処の国にも属さない戦いの見届け役。

ティーナ(声の出演はなし):バルナに住んでいるエルフの女性、戦闘にハープ(楽器)を用いる。性格は朗らかで爽やか、かなりの方向音痴。シャトンとは親友。


【用語紹介】

・キュヴェル

リーベルの中心部にある宿屋。食堂が併設されており、食事のみの利用も可能。イディアがリーベルに移動してからはイディアのパン屋からパンを仕入れているため、食事のクオリティが上がったらしい。

・ゴルド

アグホント大陸で流通してる通貨単位。1ゴルド=1円くらいの価値がある。

・ドライアド症候群

リーベル独自の病。初期症状は手にマメができるように皮膚の一部が厚く硬くなるが、病気が進行すると次第に皮膚が木の幹のようにゴツゴツとひび割れ、身体全体が樹木のように変わり果ててしまう。発症要因は不明、治療には上級エリクサー3本を要する。

(詳細:17th Episode「万能の霊薬」)



【本編】


ナハト:さて…リーベルの軍部はどっちだったか…

ナハト:(護衛対象の嬢ちゃんが性質(たち)の悪い風邪に罹(かか)った時は、依頼を取り消されるかと思ったもののの、「代理人として至急この書状をリーベルの軍部に届けてくれ」って言われるとは思ってなかったなぁ。)

ナハト:(まぁ宿屋で安静にしてるし、医者も大事はないだろうとは言ってたが…さっさと依頼済ませちまうか。お陰で今夜は旨い飯にありつけそうだ。)

ナハト:リーベルといやぁ、特産の木の実にハーブ。となると…ナッツとチーズのクリームパスタを出す宿が南の方にあったな…

ナハト:中心部にあるキュヴェルのパンも旨いんだよなぁ…宿屋なのにパン屋かと思うくらいクオリティが高いし、焼きたてはパン特有の小麦の甘い香りとクルミの香ばしい香りが…



ヴェニン:さぁさ、皆さんいらっしゃい!!ヴェニンの面白ガチャは今日までだよぉ!!

ナハト:…ん?何だ、あの人だかり。


―ナハトがリーベルの広場に足を踏み入れると、呼び子の後ろにはとてつもなく大きな透明の球体(ガチャマシン)が設置されていて、中には拳ほどの大きさのクルミがいくつも中に入っている。


ナハト:え、何あれ…

ヴェニン:アグホント大陸1を自負する行商人!ヴェニンのオススメを詰め合わせた面白ガチャ!本日最終日で~す!

ヴェニン:今回の特賞はラスト1個だよ~!皆さん是非チャレンジしてね!!特賞は何と…アローカナの高級卵1ダース!!

ナハト:アローカナだと?!(ヴェニンが「1ダース」まで言ったらすぐに続ける)

ハンペン:アローカナだってぇ?!(ヴェニンが「1ダース」まで言ったらすぐに続ける)

イディア:アローカナですって?!(ヴェニンが「1ダース」まで言ったらすぐに続ける)



ナハト:…うん?

ハンペン:あ、あああ…アローカナってぇ!!確か烏骨鶏とか魔鳥ロックバードにも引けを取らないブランド鶏で、飼育が難しいのに普通の鶏の3割程しか卵を産まないと言われてる超高級鶏ぃ…!!

イディア:その卵は通常の白とは異なる淡い水色でサイズも大きく、殻を割って姿を現した卵黄は超綺麗なオレンジで豊潤な味わいと言われているS級のレア食材…!

ナハト:…勢いがすげぇな。

ハンペン:あったり前だろぉ!!卵コレクターの俺ですら初めて見る卵だぜ?!

ナハト:卵コレクターって何だよ。無精卵だろ?食えよ、腐るぞ。

ハンペン:チッチッチィ…!兄ちゃん、青いなぁ…卵コレクターといっても大事に大事に温めるだけじゃないんだぜ。無精卵は命の恵みに感謝して美味しく食べる…くぁーっ!まさに世の摂理じゃねーか!

ナハト:何かコイツに青いって言われるの、スゴく腹立つなぁ。

ハンペン:コイツじゃないやい!!俺は卵コレクターのハンペン!リーベルの森に住んでる大型鳥類の卵をゲットしに来たぜ!!

ナハト:コレクターどころか泥棒じゃねぇか。

ナハト:俺はナハトだ。よろしくな、チビ助。

ハンペン:きぃーーー!!

イディア:私はイディア、パン屋を経営しております。

イディア:しかし、料理を生業とする者達は喉から手が出るほど欲しい1品を1ダースも…!

イディア:料理人としてはこの勝負…何人たりとも譲れませんね。

ナハト:こえぇよ!つっても所詮ガチャガチャだろ?特賞引くまでにあとどのくらい景品残ってるんだよ。

ヴェニン:ん?残りの景品数ですか?えっと、現時点で…267個ですね!!(超良い笑顔)

ナハト:提供割合0.5%切ってんじゃねーか!天井はどこ行ったコラァ!!

ヴェニン:天井…?はて、何のことですか?

ナハト:そらっとぼけてんじゃねぇぞ!!

ハンペン:…兄ちゃん、天井って何だ?

ナハト:通常ガチャってのは200連しても出てこなかったら、最低保証でお目当ての物と引き換え出来るように上限条件が設定されてるんだよ!それを俗に「天井」っていうんだ。

イディア:ヴェニンさん、このガチャを1回まわすには、いくら必要なんですか?

ヴェニン:ガチャは1回500ゴルドだよ。10回回すなら5000ゴルドね。

ナハト:ボッタクリじゃねーか!

ヴェニン:何言ってるんですか!通常1個でも見つけられたら御の字といわれてる高級卵を1ダース…12個も提供するんですよ?そこだけ見れば私の方が赤字なんですからね!

ハンペン:そうだ!そうだ!!アローカナの卵がどれだけ希少と言われてるか知ってんのか?!

ナハト:お前はそっちサイドなのかよ…。

イディア:多少割高ではありますが、アローカナの価値を考えると…まぁ妥当ですね。

ナハト:多少どころじゃないんだが?というか、お前もそっちサイドなんかい。

ヴェニン:それに今回は特賞を3本も用意してたんですから、文句は受け付けませんよ!

ハンペン:3本?!ってことは全部でアローカナの卵は3ダース…個数にして、36個…?!お前すげぇなぁ!!よくそんなにかき集められたもんだ!!

ヴェニン:アグホント大陸1を自負しておりますから。

イディア:じゃあもう特賞は既に2本出てしまったのですね。

ヴェニン:えぇ。1人はバルナで画商をやってる方で、「これでテンペラ画を書くぞ~!」とそれはもうご機嫌で帰られましたよ。

ハンペン:てんぺらが…?って何だ?

ナハト:おぅチビ助、何でも人に聞けば答えが返ってくると思うな?まず調べろ?

ヴェニン:顔料を卵などで溶いて描いた絵のことですよ。腐食しやすいのですが、顔料の色がそのまま発色するため、経年による劣化や変色がなく、その都度絵画修復士によって修復されるくらい価値の高い絵画が多いそうです。

ヴェニン:ちなみにもう1人は猫の獣人さんで、それはもうすごい闘志を背負ってガチャぶん回していかれましてねぇ…最終的には跳び跳ねて喜んでおりましたよ。

ナハト:まさに狂喜そのものだな…。

ハンペン:なぁ!なぁ!俺試しに1回引いてみたい!!

ヴェニン:ありがとうございます!では早速1回分500ゴルド頂きますね。

ハンペン:よーし!いっくぞぉ…おりゃあ!


マズダー:ハンペンが気合い充分にガチャマシンのハンドルを勢い良くひねると、『ガシャコン!』という音と共に景品が転がり出てくる。

マズダー:中には殻より一回り小さい水晶が入っていた。


ハンペン:おお!!新種の卵ぉ?!

ナハト:んなわけあるか、どう見ても水晶だろ。

イディア:そのようですね…水晶ってことは、予知とか占いができたりして!

ヴェニン:こちらは冒険者の為に作られた『光のオーブ』という光源アイテムです。洞窟等を探索する際には松明が必須だと思いますが、火起こしが苦手だという冒険者が近年増えておりまして。魔力を充填しておけば3時間は使える代物です。

ナハト:冒険者で火起こしが苦手とか致命的じゃね?

イディア:ま、まあまあ…火起こしにはコツがありますから…

ハンペン:なぁんだ…卵じゃねーのかぁ…

ヴェニン:でもこちらはレアアイテムですから、ある意味当たりですよ。

ハンペン:当たり…?

ハンペン:いえーい!やったぁ!!

ナハト:じゃ卵は俺が貰うな。

ハンペン:わー!!それはダメー!!

イディア:しかし…卵以外にもなかなか良さそうな品がちらほら見受けられる。これならガチャを回すのもやぶさかではないね。

ナハト:問題はハズレの本数が多すぎるって点だな。

ナハト:(…とはいえ、俺もアローカナの卵は欲しい。是非とも食してみたい。)

ナハト:(かなり割高ではあるが…これを逃したら次アローカナの卵にありつけるのは、いつになるか分からない…。)

ヴェニン:あぁ、そうだ!ガチャの容器はリーベルの森でとれる「こぶしクルミ」っていうクルミの殻を使ってるんですが、そのクルミの殻を1個持ってきてくれたらガチャを1回回しても良いですよ?

イディア:こぶしクルミ…ですか?

ヴェニン:あぁ、最近殻が劣化してきたから新調しようと思っていたんです。こぶしクルミはリーベルにしか植わってないし、害虫のコウモリモスがクルミを殻ごと食べてしまってなかなか集められないんですよね。

イディア:あぁ、コウモリモスは他の木の実も食い荒らしますからね…。

イディア:私もパン作りにこぶしクルミを使いますが、量が少なくてなかなか困ってるんですよ…。もしヴェニンさんが良ければ、中身は私が頂いても宜しいですか?

ヴェニン:構いませんよ、私は殻が貰えればそれで良いので。

イディア:わぁ!ありがとうございます!これでくるみパンが大量に作れる!!

ハンペン:じゃあじゃあ!こぶしクルミの殻を持ってきたら1個につき1回ガチャを回せる。お金で回すなら1回500ゴルド、10回回すなら5000ゴルドってことでいいんだな?

ヴェニン:その通りですよ。

ハンペン:ならサクーッとこぶしクルミ取りに行って、パパーッとコウモリモス蹴散らしてくるぜぇ!待ってろぉ…俺のアローカナぁ!!

イディア:私も、準備してきます。コウモリモスを討伐しながらとなると…あれとあれが必要か…。


―ハンペンがテコテコと小走りで森に向かって走っていき、イディアはブツブツと喋りながら繁華街の方に歩いていった。


ナハト:2人とも真反対に進んでいくんかい!

ヴェニン:お兄さんはどうされます?お金でも回せますよ?

ナハト:あー…どうすっかなぁ…。俺他にも依頼受けてるからさっさと済ませたいんだけど。

ヴェニン:それは構いませんが、ガチャはなくなり次第終了ですから。貴方達以外にもお客さんはいますし、よく考えて回して下さいね。

ナハト:…とりあえず、軍部に書類出してくるか。


―ナハトが軍部に向かって歩いていく。それを木陰からマズダーが覗いてる。


マズダー:…行ったか。

マズダー:(調査のついでにリーベルに寄ってみたらまぁ、なかなかに面白い催し物してるじゃねぇか!)

マズダー:(…にしてもアイツら、いくら高級食材とはいえ、たかが卵に目の色変えすぎだろ?怖ぇーよ。)

マズダー:(んで、予想通りあん時のガキも居やがるし…。持ち合わせ無ぇから絡まれたら厄介なんだよなぁ…)

マズダー:今回は勝負よりも調査の方が優先だ。ガキにゃあ悪いが、見つからねぇように細心の注意を払うとしよう。


―マズダー、気配を消しながらナハトの跡を追いかける。


ハンペン:(超ご機嫌で)ハ・ン・ペーン♪ハ・ン・ペーン♪

ハンペン:お?こぶしクルミの樹ってあれじゃねーの?!

ハンペン:えっとぉ…(キョロキョロ)

ハンペン:周囲に敵影…なーし!じゃ今のうちに樹に登ってぇ、俺の棍でこぶしクルミを~…下に落とす!(テイッ、テイッと声を入れてもOK)


マズダー:ハンペンのたぐいまれな棒術により、いくつものこぶしクルミが地面に落ちる。


ハンペン:ヘヘヘッ!簡単、かんたーん!

ハンペン:待ってろぉ、水色スベスベ卵!!殻は綺麗に割って…中身はメッチャ美味しい卵料理作って食ってやるからなぁ!

ハンペン:…よいしょっと。料理は何が良いかなぁ~♪ゆで卵?卵焼き?オムレツ?プリンも良いなぁ~♪


マズダー:ご機嫌で樹を降りたハンペンがこぶしクルミに手を触れようとした途端、わんわんと大きな音が聞こえてくる。


ハンペン:んぅ?

ハンペン:!?わきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


マズダー:一方無事にリーベルの軍部に書状を提出したナハトは、急ぎ足でこぶしクルミの樹があるエリアに向かっていた。


ナハト:ヤバい、ヤバい、ヤバい。

ナハト:(書状を提出してから、広場の様子を見に行ったが、物珍しさもあって客が結構並んでた…!早くクルミ取りに行かねぇとそれこそ特賞が出ちまうかもしれねぇ!)

ナハト:―!今の悲鳴、あの憎たらしいガキか!

ハンペン:あわわわわわ…

ナハト:おいチビ助!何があった!

ハンペン:た、助け…たぁすけてぇ!!


マズダー:見ると、ハンペンはこぶしクルミの木の真下でうずくまるようにして震えており、その周りを黒い塊がわんわんと唸るようにして飛び回っていた。

マズダー:更にナハトが周囲を確認すると、あちこち齧られたこぶしクルミが点々と落ちている。


ナハト:コウモリモスの大群…?おいチビ助、一体何やらかした!

ハンペン:分かんないよぉ!俺は木に登って実を落としただけだぁ!落とす前にも周りを見たけど、1匹も居なかったのにぃ!!

ナハト:ばっか!お前…コウモリモスは夜行性で、日中は枯れ葉に擬態すんだよ!!木見りゃ分かるだろ!!


マズダー:ナハトがクルミの木を指すと、木の根本にツバメの巣のような土の塊がついている。


ナハト:コウモリモスの幼虫は狙いをつけた木に穴空けて中に住み着くんだ。その際排泄物を外に出すから木を見りゃ1発でコウモリモスが潜んでるか分かる!!

ハンペン:そんなこと知らねぇよぉ!!何でも良いから助けてぇ!!

ナハト:(舌打ち)やるっきゃねぇか…。

イディア:間に合いましたか!

ナハト:お前はさっきの…! 

イディア:贔屓の商店で防虫剤を仕入れてきましたよ!

イディア:これで怖いものはありません!

ナハト:助かる。俺が準備する間、あんたは周囲に防虫剤を撒いてくれ!

イディア:了解しました。ハンペンさん、なるべく薬は吸わないようにしてくださいね…うぉりゃぁぁぁ!!


マズダー:イディアがタンクの先につけられたアームを伸ばしてコウモリモスの周囲に防虫剤を噴霧する。それを確認したナハトはホルダーからハンドガンを取り出し、弾の火薬を手早く抜いて麻布(あさぬの)に集めると巾着状に縛った。

マズダー:続いてナハトが自身に身体能力強化魔法をかける。


ナハト:「ストレングス・ライズ」!!

ナハト:…うし、チビ助!さっきの水晶こっちに転がせ!!

ハンペン:うぇ?!ちょちょちょ…!えーい、どうとでもなれぇ!!

ナハト:それと、あんた。今から俺がこのオーブを作動させるから、オーブが光ったら一回薬撒くのを止めてくれ。

イディア:分かりました!


マズダー:ナハトが光のオーブを発動させると、それまで無秩序にハンペンの周囲を飛んでいたコウモリモスが一瞬ピタッと静止した後、光のオーブを中心に弧を描くように飛び始めた。

マズダー:ナハトは光のオーブを地面の土が見えている部分に置くとハンペンに声をかけた。


ナハト:…よし。チビ助、こっち来い。

ハンペン:うわぁぁぁぁん!こわかったぁぁぁぁ!!

イディア:よしよし、もう大丈夫ですからね。

ナハト:ったく…これを機に行動する前にちったぁ考えろ。

ハンペン:でも…どうしていきなりコウモリモスが離れたんだ?

ナハト:夜行性の虫には光の角度によって飛ぶ高さや方向を変える仕組みがあるんだよ。自然光なら全く問題ないんだが、人工の光源だと周囲をグルグル旋回しながら近付くように飛ぶことになる。標的を1ヵ所に集めるのに、これ程都合の良い物はない。

ハンペン:?集める…?

イディア:一体何をなさるおつもりで…?

ナハト:オメーら全員火炙りだ…!


マズダー:ナハトの言葉と同時に麻の巾着袋が光のオーブ目掛けて投げつけられる。袋はオーブに当たると、衝撃で中の火薬が周囲にバラ撒かれた。

ナハト:…あばよ。

マズダー:ナハトがハンドガンでその麻布を撃つと、眼前にオレンジ色の炎が広がる。


ハンペン:うぉぉぉ!!炎?!

ナハト:粉塵爆発だ。ハンドガンの弾から抜いた火薬の量じゃ大した炎にはならねぇが、―虫の駆除には十分だろ。

イディア:十分すぎます!

イディア:まったく何してるんですか!!ここは森なんですよ?!周囲一帯焼け野原にする気ですか!!場所を考えてください、場所を!!


マズダー:イディアはというと、背負っていたタンクから薬の容器だけを取り外し、大急ぎで水を散布している。

マズダー:先程の粉塵爆発で火の粉が舞い、一部木に燃え移っていた。


ナハト:あ、やべ。

イディア:「あ、やべ。」じゃねーんですよ!いいから早く火を消すの手伝ってください!!


―マズダー、少し離れた場所でナハトとイディアの消火活動を眺めている。


マズダー:おーおー、やることが派手だねぇ…まぁ、『戦争屋のナハト』じゃこうなるのは必然か。

ハンペン:ツンツン。

マズダー:軍には所属せず、依頼があれば金額次第で荒事から暗殺もこなすクソツヨ「戦争屋」。一騎当千とはよく言ったもんだ。

ハンペン:ツンツン。

マズダー:ん?おん?何だ?

ハンペン:(超良い笑顔で)よぉ!

マズダー:あっ…

ハンペン:よぉ、兄ちゃん。また会ったな!

マズダー:よ、よよよよぉ、坊主…元気だったか?

ハンペン:おう!この通り元気だぜぇ!

マズダー:そ、そうかぁ…そいつぁ良かった…坊主はどうしてこんなとこに?

マズダー:(つーか、俺隠密スキルばりに気配消してたはずなのに、何でコイツ俺がここにいるの気付いた?!)

ハンペン:俺?キレーな水色卵をゲットするために、こぶしクルミを取りに来たんだけど、とんでもない目に遭って…そしたらなーんか、知ってる奴が近くにいるような気がして、その辺うろうろしてたんだ。

マズダー:(勘ってことかよ!!鋭すぎだろ!!)

マズダー:そうかぁ…じゃ兄ちゃんは仕事があるからここいらで失礼するな?

ハンペン:まぁ待てや。

―ハンペン、棍でマズダーの着流しを引っ張り、引き倒す。

マズダー:べふっ?!

ハンペン:兄ちゃん。俺、マリシで自動車の修理費踏み倒されたの、忘れてねぇぞ?

マズダー:俺が踏み倒したっていうか、坊主が飛んでったっていうか…。

ハンペン:んな細けー事はどーでもいいんだ。

ハンペン:…兄ちゃん、お前今いくら持ってる?

マズダー:へ?

ハンペン:い・く・ら、持ってんだ?


―ナハトとイディアが無事火を消し終えて、こぶしクルミを回収していると、ハンペンがマズダーに肩車される形でやってくる。


ハンペン:おーい、兄ちゃん達~!

ナハト:あ、チビ助!お前火も消さずにどこほっつき歩いてやがった。

ハンペン:わりぃ、わりぃ。ちょっと知り合いが居たからさ。

マズダー:どうも…。

イディア:あ、ハンペンさん!これ…光のオーブ。さっきの爆発でも壊れなかったようなので磨いておきました。

ハンペン:おお!サンキュー!

ナハト:ったく…元はといえばお前が考え無しにクルミを取りに来たからこうなってんだぞ。分かってんのか?

ハンペン:はーい、反省してまーす…。

ハンペン:しっかし兄ちゃん、スゲー物知りだよな。博識っつーの?

ナハト:俺はタングリスニのスラムで育ったからな。1日1日を生き抜くために必要なことは、全て覚える必要があったんだよ。

ナハト:害虫駆除の仕事もしたし、コウモリモスなんかは良い例だな。

イディア:そういえば…コウモリモスに齧られなかったクルミを選別していたんですが…無事なのは個数にして50個ですね。

ハンペン:なら兄ちゃん達で分けてくれよ。

ナハト:え、良いのか?

ハンペン:まぁ、コウモリモスに襲われてたの助けてくれたし…俺にはコイツが居るからさ♪

マズダー:帰りたい…今すぐダッシュで帰りたい…撒いたと思ったら背後にいるとか怖すぎだろ…

ナハト:このおっさん「帰りたい」って言ってるし、ガタガタ震えてっけど、大丈夫か?

ハンペン:だいじょーぶ、大丈夫!

ナハト:大丈夫だと思えないが。

ナハト:ま…、良いなら遠慮なく。

イディア:さて…結構時間も経ちましたし、広場に向かいましょうか。

ヴェニン:おや、皆さんお揃いで。こぶしクルミはとれましたか?

イディア:ええ、これだけ集めることができました。

ヴェニン:ほぉ、結構集められましたね!勿論特賞はまだ残っておりますよ。

ナハト:特賞含めていくつ残ってる?

ヴェニン:数にしてちょうど100個残ってます。

ナハト:結構残ってるな…。

イディア:で、どうやって回します?

ハンペン:10連ずつ交替で回していくのはどうだ?1回ずつ交替するのは何か面倒だし…

イディア:良いですね!

ハンペン:あー…順番なんだけどさ、俺先に回しても良い?早いうちに回さないと財布が逃げ…(咳払い)

ハンペン:財布がなくなっちゃうかもだからさ。

ナハト:いや、ごまかせてねーぞ。「財布」ってワードが全然隠れてねーからな?…というか、おっさんを財布呼ばわりって何したらそうなんだよ…。

マズダー:俺が聞きてぇよ…。

イディア:じゃあ、ナハトさん次どうぞ。コウモリモスを蹴散らしてくれたのはナハトさんですし。

ナハト:良いのか?じゃあチビ助、俺、イディアの順番で。

ヴェニン:ではハンペンさん。クルミとゴルド、どちらで回されます?

ハンペン:ゴルドで!早速10連いくぜぇ!!

ヴェニン:では5000ゴルドお願いします。

マズダー:5000ゴルド?!ぼったくりじゃねーか!!

ナハト:あー、おっさん。その辺の件(くだり)もうやったんだわ。後ろ詰まってっからさっさと回してくんね?

マズダー:冷てぇ!

マズダー:(小声で)…くっそ…これ経費で落ちるか?いや、無理だよなぁ…そもそもティアンが認めねぇよ。

ハンペン:いいから、お金!今回はちゃんと払えよ?

マズダー:わーったよ!払うっつーの!…うぅ。

ヴェニン:はい、確かに!ではハンペンさん、10回分どうぞ!

ハンペン:よっしゃぁ!!来い、アローカナ!!

マズダー:ハンペンが勢い良くハンドルを捻るとガシャコン、ガシャコン…と次々景品が出てくる。

ヴェニン:えっと…ポケットティッシュが7つ、箱ティッシュが2つ、キッチンペーパーが1つですね。

ハンペン:あちゃ~…外れた…

ナハト:景品紙ばっかじゃねーか!何?オススメって紙ばっかなの?どんな確率?!

イディア:次はナハトさんですね。

ナハト:おう。じゃあ俺はクルミ10個で頼む。

ヴェニン:ふむふむ…では10回分どうぞ!

ナハト:よっしゃ!S級のレア食材…来い!!

マズダー:ナハトが神妙な面持ちでハンドルを捻ると、景品がガシャコン、ガシャコン…と音を立てながら転がり出てくる。

ヴェニン:中身は…知識の経典が6つ、守護の護符が3つ、神殿の模型が1つですね。

イディア:わぁ!護符じゃないですか!!良いなぁ!!

ナハト:いや、驚くところそこ?!今度は神繋がりだったぞ?!神殿の模型とか使い道ないからな?!これ本当にオススメ商品なん?!

ハンペン:はいはい、次はイディアだから、兄ちゃんはこっちなー!

ナハト:解せねー!!

イディア:ヴェニンさん、では私もこれでお願いします。

ヴェニン:クルミ10個で10連ですね。ではどうぞ!

イディア:頼む…アローカナ来てくれ…!

イディア:―来い!!

マズダー:イディアはハンドルを握ると1回1回祈るように捻っていく。

ヴェニン:結果は…ポケットティッシュが7つ、キッチンペーパーが1つ、光のオーブが1つ…!

ヴェニン:―!おお…大当たりぃ!!

ヴェニン:イディアさん、特賞ラス1おめでとうございまぁす!!

イディア:え?

ナハト:だぁー!爆死したぁ!!

ハンペン:あぁ~…俺の水色タマゴぉ…

マズダー:お前のじゃねーだろ。

マズダー:(良かった…出費は最低限に抑えられた…)

ヴェニン:こちら、特賞アローカナの卵1ダースです!

イディア:あ、ありがとうございます!!

イディア:これで美味しいサンドイッチを作らせていただきますね!!

イディア:―そうだ、ナハトさん、ハンペンさん。

ナハト:ん?

ハンペン:はい?

イディア:これから皆でお疲れ様会といきませんか?


―宿屋キュヴェルの食堂にて。ナハトとマズダー、ナプキンをつけたハンペンがテーブルにつくと、イディアが焼きたてのくるみパンと特製サンドイッチを運んできた。

イディア:はい!こぶしクルミで作ったくるみパンと、イディアの特製サンドイッチ、アローカナスペシャルです!!


ハンペン:うぉぉぉぉぉ!!うまそぉ!!

マズダー:えっと…俺まで良かったのか?ご馳走になっちゃって。

イディア:良いんですよ、ご飯は皆で食べた方が美味しいですから。

マズダー:じゃあ…遠慮なく。

イディア:それでは皆さん。

全員:いただきます!

ナハト:…ん!キュヴェルのくるみパン、もしかしてあんたが作ってたのか!

イディア:よく分かりましたね!リーベルに支店を出して以来、うちで仕入れてくださってるんですよ。

ナハト:なるほどな?キュヴェルの食クオリティが上がったのはそういうことか!

ハンペン:はぁぁぁぁぁぁ♡このタマゴサンドうまぁぁぁぁ♡黄身が濃厚で舌触りがなめらかぁ…!マヨネーズとの相性も抜群…!!

マズダー:確かに、これうめぇなぁ!正直たかが卵と思ってたけど、これは高級品って言われても頷ける。

ハンペン:イディアぁぁぁ!!俺ここに住む!!俺のために毎日タマゴサンド作ってくれぇぇぇ!!

イディア:ハンペンさんのためだけに作ることはできませんが、毎日買いに来てくれたら嬉しいです!

ハンペン:買う!毎日買う!通い詰める!!

マズダー:卵料理で移住が決まるのかよ!坊主チョロすぎだろ!

イディア:そういえば、ナハトさんって「戦争屋のナハト」と呼ばれてるんですってね。

ナハト:ん?あぁ…そう呼ばれることもあるな。

イディア:今って護衛のお仕事でリーベルに来てるんですか?

ナハト:仕事の依頼か?一応今日で依頼は完了してるし、フリーっちゃフリーだが。

イディア:なら、護衛として私を…うちの店を守ってくれませんか?

ナハト:…詳細は?

イディア:ちょっと他国で一悶着ありまして、私は自分のパンでお客さんを笑顔にしたい。でもそれを妨害される可能性があるんです。

イディア:とりあえず、私が新商品を開発するまで…。私が材料の仕入れや調達に出掛ける時、優先的に私の護衛をしてもらえたら助かります。

ナハト:となると、拠点を一時的にリーベルに移さないといけないか?

ナハト:んー…報酬次第だな。

イディア:お給料は勿論出しますが…ナハトさん、さっきの粉塵爆発でリーベルの森の木何本か燃やしましたよね?手伝ってくれるなら私の心の中に留めておきますよ。

ナハト:え。それだけ?

イディア:リーベルの民は自然を大切にしてますからね。木が燃えたとあらば、ほぼ確実に奉仕作業を命じられますよ。

ナハト:是非やらせていただきます!

イディア:ありがとうございます。

マズダー:(…こっちも大概チョロいな。)


―夜もすっかり更けた頃、マズダーは音を立てずにキュヴェルの館内を歩いていた。


マズダー:(!ここか…)


―お目当ての部屋を見つけると、マズダーは手慣れた様子で鍵を開け、スルリと部屋の中に入っていく。


マズダー:久し振りだな、嬢ちゃん。…とはいっても、お前は俺を知らねぇだろうが。

マズダー:(俺はベッドで寝ている部屋の主に声をかける。ソイツは顔を真っ赤にして寝苦しそうに呻いていた。)

マズダー:(俺は机の上に洗面器が置いてあることに気付くと、嬢ちゃんの額に乗っていたタオルを取り、水で冷やして絞り再び乗せてやる。)

マズダー:…つれぇよな。

マズダー:今日嬢ちゃんの護衛だったナハトが軍に書状を提出した。リーベル軍が動いてるから、じきに薬が届く。それまでの辛抱だ。

マズダー:(俺は嬢ちゃんの顔から腕にゆっくりと視線を移す。ベッドから力なく垂れた腕は青白く、所々緑色に変色しているのが確認できた。)

マズダー:ドライアド症候群…発症者は減ってきたが、完全になくなった訳じゃない。嬢ちゃんはリーベル国民じゃねぇのに、リーベル近郊に来ただけで発症した…原因は何だ。

マズダー:今まではリーベル国内で発症するケースしかなかったし、ましては高熱を伴うなんてことはなかったのに。追加で報告書まとめるには、もう少し調査が必要か。


―マズダー、腕を布団の中にしまうと、部屋のドアの前まで移動する。


マズダー:嬢ちゃん…いや、ティーナ。お前の身は今日からリーベル国預かりになる。お前にとっちゃ急な展開でビックリするだろうが、まぁ悪い話でもねぇだろう。

マズダー:ゆっくり養生してくれや。


(扉の閉まる音SE)



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