Aguhont Story Record 14th Episode

『森に感謝を』 

作:天びん。 

(1:3:2) ⏱20分 

 

【登場人物】

・エリス:エルフの女性皇族、白銀の長髪を縛ってポニーテールにしている。常識的だがたまに何処か抜けている。

・クリオ:性別不問、各地の伝承を調べるのが趣味で、大体宿屋や飲み屋でバイトしながら情報を集めて各地を転々としている。

・シャトン:獣人の女性で弓の名手。口数が少ないが情に厚く親切。言葉が足りずよく勘違いされる。

・アリーンシャ:獣人(クォーター)の女の子、元気で活発。無謀で図太く振る舞うが、少々臆病な一面も。戦闘ではバルナで購入した両手剣・グランルナを扱う。今回はラポムの護衛としてついてきた。

・ラポム:性別不問、獣人。リスのような見た目でリンゴを半分にしたような帽子を被ってリュックを背負っている。珍しい木の実を集めるのが好き。今回はリーベルの木の実をはじめ、野草などのサンプルを採りにリーベルに来た。

・マズダー:男性、人間のおっさんに見えるが実はアンドロイド。何処の国にも属さない戦いの見届け役。



エリス:2人とも、急に呼び立ててすまないな。

クリオ:クリオは今日仕事なかったから大丈夫だよ。

シャトン:私も…特に予定はなかった。

エリス:そうか…今日は2人にちょっと仕事を手伝ってもらおうと思ってね。

クリオ:仕事…?

エリス:クリオは昔やったことがあると思うよ。

エリス:…では場所を変えようか。


―エリス、2人をリーベルの森の一角に連れていく。


エリス:…ここだ。

クリオ:あー、なるほど。植樹を手伝ってほしいんだね?

シャトン:植樹…?

エリス:あぁ。リーベルは森全体を魔法障壁ですっぽり包んでいる。

エリス:しかしながら、森から資材を切り出したり、まぁ…戦闘訓練などをすることで誤って森が破壊されてしまうことも稀にある。そこで、リーベルの国民は定期的に森に植樹しているんだ、森への感謝とこの国の未来のために。

シャトン:森への感謝…。

クリオ:それにね、木は育つのに時間かかるんだけど、植樹するのはシラカシ、クヌギ、ミズナラとかのドングリ、栗にクルミがなる木の苗だからね。リーベルには収穫祭があるんだけど、その時収穫した大量の木の実でたくさんの料理が作られるんだぁ。

エリス:そう、我々リーベルの民は森の恵みである食糧を食べ、植樹して返す…森と共に生きているんだ。その事を改めてシャトンにも知ってもらいたくて、な。

シャトン:…素敵ね、そういうの。

エリス:クリオも久々に戻ってきたし、一緒にやるのも悪くはないだろう?

クリオ:そうだね!シャトンは宿屋で見た時から一度ゆっくり話してみたいと思ってたんだ。

シャトン:私と…?

クリオ:うん、クリオも獣人だけど君よりは獣寄りだろ?

クリオ:シャトンの髪…スゴく綺麗だし、やっぱり憧れがあるんだよね。

エリス:確かにな。私も初めて見た時は7色に輝いてるのを見て心底驚いたものだ。


―それを聞くとシャトンは自身の髪に触れながら、もう片方の手でフードを深く被る。


シャトン:この髪は目立つからね…

シャトン:普段は隠しているんだよ。…ほら、植樹するなら早くやりましょう。


―シャトンはプイッと背を向けて、早足で苗が積まれている所に歩いていった。


クリオ:…触れない方が良かった?

エリス:本人は気にしてるのかもしれないね。

エリス:目立つ容姿は良くも悪くも人を惹き付ける…きっと心ない言葉を投げられたこともあるんだろう。

エリス:…さて、私達も作業に取りかかろうか。


―少し離れた場所でアリーンシャとラポムがリーベルの森の中を歩いている。


アリーンシャ:うはー…ここがリーベル…ものすっごいでっかい森だぁ!

アリーンシャ:目的の木はこの辺にあるの?

ラポム:そうなんだよー!!この前食べた料理がすーっごく美味しくて!コックさんに聞いてみたらリーベルの珍しい木の実を使っているって言うんだよ。

アリーンシャ:ラポムさんは珍しい木の実に目がないもんね。

ラポム:うんうん!ちゃんとリーベルへの旅行許可もとったし、楽しみだなぁ!どんな味なんだろ…

アリーンシャ:でも護衛をつけていくように言われたんだよね?だから私がいるわけだし。

ラポム:そうだね!まぁ、リーベル国民は比較的温厚で穏やかな人が多いから、こっちから仕掛けたりしない限りは大丈夫じゃないかな?

アリーンシャ:ならいいけど…。

アリーンシャ:ま!もし戦闘になっても、ルナを使ういい機会だし文句はないけどね~。

ラポム:僕はあまり戦闘はしたくないなぁ。僕の攻撃手段って短剣か小型爆弾くらいしかないし。

アリーンシャ:爆弾は…森の中で爆発させたくないもんね、火事になったりしたらそれこそ一気に国際問題になっちゃう。

ラポム:だから、慎重に行こうね!

アリーンシャ:はーい!分かってまーす!

ラポム:うんうん…あっ?!

ラポム:あれはリーベルにしか育たない野草?!これ天ぷらにしたら美味しいって聞いたことある!!

ラポム:ああっ!!こっちには野生のライムの木だ!スゴいなぁ…!

アリーンシャ:全く…そんなに慌てると転んじゃうよ?

アリーンシャ:自然の恵みは逃げないから、ゆっくり探そ?


―マズダー、木陰からアリーンシャとラポムの様子を伺っている。


マズダー:(タングリスニの国民2名がリーベルに入国…っと。)

マズダー:(だが今回は特に争いを吹っ掛けに来たって感じでもねぇ。…装備を見るに、木の実や野草の採集にきたってところか。)

マズダー:…やれやれ、今回ばかりは無駄足か?


―一方、リーベルの3人は順調に植樹を進めていく。


クリオ:どう?こうやって自然と触れ合うのもたまにはいいでしょ?

シャトン:…そうね。タングリスニではあまりこういった自然に触れる機会はなかったから。

クリオ:こうやって自然に感謝するっていうのは、元々この地を治めていた賢者様が大切にしていた考え方だそうだよ。

シャトン:リーベルにいた賢者…オーベル様のことね。

クリオ:そ!なんか昔アグホント大陸の外から攻められそうになったことがあるそうなんだけど、その時奴らはリーベルから上陸して森に火を放ち、焼き払って侵略しようとしたみたいなんだ。

クリオ:でもね、それは結果的に叶わなかった。

シャトン:…どうして?

クリオ:この魔法障壁さ。当時この地を治めていたオーベル様はエルフ族の長でもあった。オーベル様は集落のエルフ皆に声をかけ、全員で魔晶石に祈りを捧げたんだ。

クリオ:そしたら魔晶石がある浮き島の方で光の柱が現れ、天に吸い込まれたかと思うと、リーベルの森を覆うように光の粒子が舞い降りてきた、まるで雪のように…。

シャトン:―!まって、もしかしてそれがこの魔法障壁だというの…?

シャトン:だとしたら、魔法障壁はそれからずっと張られている…?

クリオ:…へへっ、気になるでしょお?

クリオ:今のはあくまで一説だよ。

クリオ:魔法は魔晶石の恩恵がある地以外では使えない。つまり魔法が使える国は…リーベルとタングリスニだけだ。

シャトン:タングリスニではこの手の話は聞かなかったわ…

シャトン:私がまだリーベルに住んでいた頃に教えてもらったのは、単に「エルフが森を守るために魔法障壁を張ってる」って話だし。

クリオ:シャトンの話も間違ってはないよ、実際はその通りだからね。

クリオ:でもその起源は?違う国ではどんな言い伝えで残ってるんだろう?複数説があるなら一番それっぽいのはどの説だろう?他にも不思議な現象とか、魔法が使えない国ではどんなことが信じられていて、どんなことを語り継いでいるんだろう?

クリオ:クリオはそういう各地の伝承が気になって、各国を旅して回ってたんだ。

シャトン:貴方の生き方、スゴく素敵ね。

クリオ:えへへ…ありがとう。

エリス:クリオ、シャトン。そろそろ苗がなくなりそうだ。私の家の横に予備の苗があるから持ってきてもらえるかい?

シャトン:分かったわ。

クリオ:りょーかーい!


―アリーンシャとラポムは2人で木の実や野草の採集をしていた。


アリーンシャ:ラポムさん、この野草は?

ラポム:その野草は粉にすると腹痛をおさえる薬になるよ、メッチャ苦いけど…

アリーンシャ:うへぇ…丸薬(がんやく)ならなんとか我慢するけど、粉は嫌だな…

ラポム:誰だって苦いのは嫌だよね!僕も苦手だよ~。

アリーンシャ:よしっ、この辺はもうサンプル採り終えたんだよね?

アリーンシャ:なら場所を変えようか、採りすぎたら生態系壊しかねないし。

ラポム:ラッポム!次はどんな木の実や野草に出会えるかなぁ~♪

アリーンシャ:…?(ラポム謹製どんぐり爆弾を拾う)

アリーンシャ:ラポムさん、このどんぐり普通のより大きくない?

アリーンシャ:あっ!ひょっとして新種とか?

ラポム:ポム?

ラポム:―!!キミっ!それはまさか―!!

アリーンシャ:…あ、何か取れちゃった…。

ラポム:キキキキミ、今すぐそれ捨ててぇー!!

アリーンシャ:…へ?


―どぉん…と大きな音と地響きが鳴り、苗を持って戻ろうとしていたシャトンとクリオは顔を見合わせる。


クリオ:何?今の音…!

シャトン:(火薬の匂いと…木が焼ける匂い…)

シャトン:(タングリスニの国境には古い砲台もあったはず…まさか―)

シャトン:砲撃…?

クリオ:砲撃だって?!でもリーベルの森には魔法障壁があるから外から攻撃しても通らないはずだよ。

シャトン:エリスに知らせるわ、最悪の場合敵襲の可能性もある。


マズダー:シャトンは鏑矢(かぶらや)をつがえ、空に向かって射る。

マズダー:ピューーッという高い音がしたかと思えば、少しして同じ音が聞こえた。恐らくエリスの鏑矢であろう。


シャトン:…応えた。

シャトン:私達は現地に行ってみましょう。

クリオ:うん、行こう!!


―シャトンとクリオが走り去ると、マズダーが木陰からひょっこり顔を出す。


マズダー:(…ありゃあ、ラポムのどんぐり爆弾じゃねぇか。)

マズダー:(まーた随分と物騒なもんをお見舞いしたねぇ。)

マズダー:…まぁいい。戦いの狼煙が上がったとすれば悪くはない。


―どんぐり爆弾によってアリーンシャは完全に伸びていた。


ラポム:ちょっとキミ!しっかりして!!大丈夫?!(ペチペチ)

アリーンシャ:…ハッ?!ラポムさん?

アリーンシャ:私どうして森の真ん中で寝て…?!

アリーンシャ:え?!何か周りの木全部折れてる?!地面も抉れてるんだけど…え?え??どういうこと?!

ラポム:あれは多分僕が作ったどんぐり爆弾だ。

ラポム:今回の旅行では要らぬ火種になるかもと思って全部タングリスニに置いてきたんだけど…

アリーンシャ:置いてきたのに何でこんなところにそんな物騒なものが転がってるわけ…?

ラポム:僕がこれを試作した時、テルエス様に少し譲って欲しいと言われて3個だけ渡してるんだ…

ラポム:だからもしかしたら…

アリーンシャ:え…

アリーンシャ:ってことは今私達…もしかしなくとも、かなりまずい状況にいる?

ラポム:は、早く逃げるよ~!!


―2人が逃げようとした矢先にシャトンの矢が3本足元に突き立てられる。


シャトン:―そこ、止まりなさい!!

ラポム:ぴゃぁぁぁぁ!!早速来たぁぁぁぁ!!


―アリーンシャ、ラポムを庇うように立つ。


アリーンシャ:ラポムさん、私の後ろに…!

ラポム:キミ?!

アリーンシャ:説明して分かってもらえるなら良し、無理ならこの子で何とかするっきゃないでしょ…。

ラポム:んな無茶なぁ…!

シャトン:―これは…!

クリオ:うわ…ヒドイなぁ、森がメチャメチャじゃないか…!

シャトン:これは貴女達がやったの…?

アリーンシャ:やったというか…結果的にそうなってしまったというか…?

ラポム:ぼ、僕達の意思じゃないよ!僕達はタングリスニから来たただの旅人です…!!

シャトン:なるほど…国の命を受けてやったと?

アリーンシャ:違うってば、そうじゃなくって…

クリオ:んー…

クリオ:シャトン、何か事情があるみたいだよ。

クリオ:エリスも来るだろうし、まずは話を聞いてみたら?

シャトン:…そうね。取り敢えず、危ないものを持ってないか所持品を改めさせてもらうわ。

アリーンシャ:!

アリーンシャ:(ラポムさんの所持品を調べられたら小型爆弾が見つかっちゃう…!)

アリーンシャ:(―かくなる上は…!)

アリーンシャ:…ラポムさん。

ラポム:ポム?

アリーンシャ:逃げるよぉぉぉぉ!!

ラポム:ポムゥゥゥゥゥ?!


―アリーンシャ、ラポムを抱えてダッシュで逃げようとする。


シャトン:逃げた!クリオ!!

クリオ:逃がさないよっ…と!!


マズダー:すかさずクリオがボウガンで行く手を阻む。

マズダー:アリーンシャが間一髪避けるが、ボウガンの矢はアリーンシャの右足があった場所に刺さった。

マズダー:続いてシャトンが弓を引き絞る。


アリーンシャ:うぉ!やっば~!!

シャトン:武器を捨てて手を上げなさい…!

アリーンシャ:嫌だ…って言ったら?

シャトン:撃つ。

シャトン:安心して、急所は外すから。

ラポム:あ、安心できない…!

シャトン:足を狙うだけよ。

アリーンシャ:さらっと怖いこと言う…!

クリオ:逃げずにお話ししてくれたら助かるんだけどなぁ…。

クリオ:クリオもこれ以上森が破壊されるのは嫌なんだ。

アリーンシャ:あんた達が武器下ろしてくれたら考えるわよっ!


マズダー:アリーンシャはシャトンの矢を避けると、ラポムを抱えたまま森の奥深くへ逃げて行き、シャトンとクリオも後を追いかけた。


―数分後、エリスが現場に到着する。


エリス:2人がいない…一足遅かったか。

エリス:(…地面にボウガンの矢、こっちの木にも矢…)

エリス:(射角から見て…クリオがボウガンで足を狙うも相手に避けられ、隙を見て相手が逃げようとしたことからシャトンが牽制の目的で矢を放った、といったところか…)

エリス:―ん?

エリス:(木々が同心円状になぎ倒され、地面が抉れている…ここで爆発が起きたのか。)

エリス:(それにしてもこの地面の抉れ方…以前タングリスニ人が侵入し、自宅を爆破された時の痕跡とよく似ている…。)

エリス:単なる偶然か?

エリス:―いや…もし同一のものだとしたら、リーベルに対するテロ行為の可能性も考えられる。

エリス:…念のため、タングリスニに問い合わせるか。


マズダー:アリーンシャが地を蹴ると同時にシャトンとクリオから牽制の矢が放たれる。

マズダー:アリーンシャは距離を取るのかと思いきや、飛び退くとラポムを背に庇い両手剣を構えた。


アリーンシャ:…ルナバーストォ!!(おりゃおりゃおりゃ~!!とか追加してもOK)


マズダー:アリーンシャはそう言って両手剣をぶん回す。

マズダー:すると、両手剣が淡く光り、アリーンシャを中心に風が吹き始めた。

マズダー:その風はシャトンとクリオの矢を弾き、地面に吹き落とされる。


シャトン:―!

シャトン:うそ…。

クリオ:あわわわわ!

アリーンシャ:…え?あ、あれ?

ラポム:…キミ、痛くない?大丈夫?

アリーンシャ:大丈夫…。

アリーンシャ:(え?私剣を振り回しただけだったのに…剣に矢が当たった感覚もなかった…。)

シャトン:ならば…クリオ!

クリオ:なーに?

シャトン:もう1発撃ってちょうだい。

クリオ:オッケー。

シャトン:1回の量を増やせば…っ!


マズダー:今度はシャトンが3本、クリオが1本矢を放つが、アリーンシャが剣を振るうと周囲に発生した風は再び矢の威力を奪い、4本とも地面に転がした。


シャトン:まさか…

アリーンシャ:もしかして私、剣の風圧だけで矢を落としたの…!?

ラポム:キミ…ものすごく強かったんだね…!今のカッコ良かったよ!

アリーンシャ:えへへっ…そう?

アリーンシャ:そうだ!この技は『疾風一閃』と名付けよう…!!

クリオ:シャトン。(コソコソ)

クリオ:多分あれ属性武器だよ。クリオ、属性付与が出来るから付与された武器視たら何となく分かるんだ(コソコソ)

シャトン:…なるほど。

シャトン:風の属性武器ってことね。だとしたら遠距離武器だと分が悪い…。

クリオ:クリオも剣は扱えない…困ったねぇ…(尻尾をパタリ)

シャトン:…クリオ。

クリオ:どしたの?

シャトン:何があっても、私を信じられる?

クリオ:…へ?


マズダー:シャトンが二言三言呟くとクリオが頷いて森の奥へ消えていく。


アリーンシャ:何こそこそしてるか知らないけど、もう私達の事は放っておいてくれない?

シャトン:そういうわけにはいかないのよ。

シャトン:私も…リーベルを守る戦士なの!


マズダー:シャトンが地を蹴り間合いを詰める。

マズダー:途中で小振りの枝を拾うと、体を捻りながらアリーンシャ目掛けて振り下ろした。


シャトン:―ふっ…!

アリーンシャ:わわ…っと!


マズダー:アリーンシャは両手剣で受ける構えを取るが、シャトンは寸前で止め、横に側転し、また距離を取る。

マズダー:途中で木の実をヒョイヒョイと拾うと、サイドステップをしながらアリーンシャを見据えた。


アリーンシャ:んもぅ!動きにくいなぁ…!

シャトン:当たり前でしょ、これは戦闘よ。

アリーンシャ:怖いこと言わないで…っ!


マズダー:アリーンシャが剣を振ろうとすると、シャトンが持っていた数個の木の実を投げる。

マズダー:アリーンシャの視線がそれを捉えたのを確認してシャトンが木の枝を振り回すと、アリーンシャはそれを防ぐように、剣で弾いた。


アリーンシャ:何?当てる気もないのに木の実なんか投げてきて…陽動のつもり…?

ラポム:…!

ラポム:アリーンシャ、右!

アリーンシャ:―!


マズダー:シャトンが大小様々な茶色い塊を投げてくるのを見てアリーンシャは左に飛び退く。

マズダー:当たらなかった球は地面に当たるとベシャッと音を立てて崩れた。どうやら泥団子のようだ。


アリーンシャ:あっぶな…!

シャトン:ちっ…目眩ましになるかと思ったのに…

アリーンシャ:ラポムさん、ありがとう。お陰で助かったわ。

ラポム:危なかったね…。

ラポム:あの獣人は動きが変則的でどこから襲ってくるか分からないや…。

シャトン:…まだまだいくわよ…!


マズダー:それからも何度かシャトンは攻撃しながら木の実や泥団子を投げつつ、木の棒でアリーンシャを狙い、その度にアリーンシャはラポムから指示を受けつつ何とか木の実や泥団子をかわし、木の棒を弾き続けた。


シャトン:どうしたの?

シャトン:息が上がってきたわよ。

アリーンシャ:く…っ。

ラポム:次の攻撃…くるよ!

シャトン:―やぁっ!!


マズダー:またもシャトンが茶色い塊を投げてくる。アリーンシャは間一髪で避け、振り下ろされるであろう木の棒を受けようとした。


クリオ:―よいしょお!!


マズダー:突如自分の左側に飛んできた球が膨らみ、重い袋のようなものが左手に叩きつけられる。シャトンによって投げつけられたクリオが自慢の尻尾を叩きつけてきたのだ。


アリーンシャ:え?!


マズダー:バシンと乾いた音が鳴り、叩かれた手からグランルナが滑り落ちていく。


アリーンシャ:…しまった!

クリオ:おーっと!!


マズダー:クリオが再び自慢の尻尾でグランルナをシャトンの足元に弾くと、シャトンはそれを拾い上げ、アリーンシャとラポムを見据える。


クリオ:危ないものはもう持たせないからね。

シャトン:…終わりよ、手を上げなさい。


―アリーンシャとラポム、木の蔓でぐるぐる巻きに縛られ、エリスの元に連れていかれる。


エリス:なるほど…。

エリス:では爆発はリーベルに対するテロ行為などではないんだな?

アリーンシャ:はい…全くもってそんなつもりはありませんでした…。

ラポム:恐らくたまたま落ちてたところを拾った拍子に信管が外れて爆発してしまったんです…。

シャトン:タングリスニに問い合わせましたが、出国時の荷物の中にどんぐりらしきものはなかったとの事です。

クリオ:多分この2人が言ってることは間違ってないんじゃないかな?

エリス:…そうか。

エリス:ならば今回起きた爆発に関しては目を瞑ることにする。

エリス:シャトン、解いてあげなさい。

ラポム:ありがとうございます…。


―シャトンがラポムの蔓を解くが、アリーンシャの蔓は解かれない。


アリーンシャ:…?

アリーンシャ:あれ?私のは?

エリス:次に事情聴取を拒否し、証人を連れて逃亡しようとしたアリーンシャ、君について。

アリーンシャ:ひぇ…?

エリス:やましいことがないのであれば、その場で否定すれば良かっただろう?

アリーンシャ:あの…それは…

エリス:結果的に君達には非がなかったわけだが、ここまで事を大きくしてしまったのは君の言動によるところだと私は思う。その点、如何かな?

アリーンシャ:…。

エリス:というわけで、アリーンシャ。

エリス:君には今回の爆発で焼失した森の復興を命ずる。しっかり土壌を整え、植樹をし、社会福祉としてしっかり働いてくれ。

アリーンシャ:ぴぇ…。

ラポム:アリーンシャ…君は僕を守ろうとしてくれたのに…。

エリス:大丈夫、あくまで少し反省してもらうだけだ。彼女は犯罪を犯したわけではないから、住居もこちらで用意するよ。あくまで森の修復をしてくれれば問題ない。

ラポム:(さすがに僕が作った爆弾だとは言えない…。)

ラポム:…ラッポム。

クリオ:アリーンシャ、じゃあこれからよろしくね。

シャトン:…よろしく、アリーンシャ。

アリーンシャ:…分かりました。

アリーンシャ:実際事故でも森で爆発したのは私のせいだし…

アリーンシャ:リーベルの森の復興、頑張りますっ!!


―マズダー、近くの木の上から様子を見ている。


マズダー:『アリーンシャ…リーベルにて社会福祉作業を命ぜられる』、か。

マズダー:個人に悪気はなくとも、一応タングリスニの謀略が元で起きたことだ…尻拭いはきっちりタングリスニの国民がしなくちゃな、テルエスよ。


―マズダーはそう呟くと、何かを思い出したようにフッと口元を緩ませ…嗤う。


マズダー:だがしかし…まさか戦闘中にシャトンがクリオを投げつけるとは思わなかったなぁ。

マズダー:ふ…はは…。その点エリスはいい拾い物をしたと言える。


―マズダーの表情は木陰に隠れて見ることは出来ない。しかしその小さな呟きはどこか悦に入ったような印象を受ける。


マズダー:いいぞ…もっと物語に味わい深さを出してくれ。

マズダー:俺たちをあっと言わせるような意表を突く物語を、…な。



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