Aguhont Story Record 13th Episode

『バオジュンZ666』 

作:oroるん 

(1:3:1) ⏱90分 

 

➖登場人物➖

・ティアン 性別不問 獣人 猫耳 ちびっこ どこの国にも属さない

《バルナ》

・イディア 今回は女性 アンドロイド バルナでパン屋を営んでいる

・モナカ 今回は女性 人間 多重人格者 以下、今回登場する人格一覧

記載なし (このお話においては)主人格。若い女性だが時々子供っぽい。ボケがち。

(男) 男性の人格。言葉遣いは荒っぽく、好戦的

(令嬢) 貴族の令嬢を思わせる高貴な人格(セリフは一言のみ)

(少年) やんちゃで人懐っこい人格(セリフは一言のみ)

(???)謎に包まれた人格(セリフは一言のみ)

アイヴァン 男性 人間 「レストポープ」にて宿屋を経営している

メロジー 女性 人間 アイヴァンの妻。タングリスニ出身で人間以外の種族を毛嫌いしている

サリバン 性別不問 人間 「レストポープ」の開業医

町人A 性別不問 「レストポープ」の住民

町人B 性別不問 「レストポープ」の住民

《タングリスニ》

フーリ 今回は女性 獣人 狐耳 薬師 タングリスニの捕虜

スカミシュ 性別不問(アイヴァンと兼役の場合は男性) 人間 フーリの助手 タングリスニの捕虜


➖推奨兼ね役➖

フーリ➖メロジー

ティアン➖サリバン➖町人A

スカミシュ➖アイヴァン➖町人B


《名前のみ登場》

コハク 獣人 タングリスニの捕虜

テルエス エルフ タングリスニの皇族

ベリリ 人間 タングリスニの皇族

バロウズ 人間 バルナの皇族


※バオジュンの声は一応台詞に起こしていますが、何を言ってもらっても良いです。ゾンビっぽいと尚良いです。

 バオジュンの声と記載された部分はアイヴァン、メロジー、サリバン役の方中心に、前後のセリフが無い方複数名で声を出してください。



➖以下、本編➖


➖バルナ 中心街イディアのパン屋

モナカ:何で?どうしてできないの!?

イディア:そう申されましても・・・

モナカ:お客様の要望には全力で応える、それがプロってもんじゃないの?

イディア:おっしゃる通りですが・・・

モナカ:何?私が今日初めてこの店に来たから?一見様(いちげんさま)はお断りだって言うの!?

イディア:決してそのような事は・・・

モナカ:じゃあさっさと作ってよ!ウエディングケーキ!

イディア:うちパン屋なんですぅ!

➖少し間

モナカ:(ため息)アナタ、そんな顔して、ウエディングケーキの一つも作れないの?

イディア:顔関係あります?ってかどんな顔なんですか、私。

モナカ:ガッカリだわ。アナタには失望した。

イディア:初対面で失望されましても・・・

モナカ:この先一生「ウエディングケーキの作れない女』のレッテルを貼られるのよ。それで良いの?

イディア:別に良いです。パン屋なんで。

イディア:ちなみに、どなたが結婚されるんですか?

モナカ:何の話?

イディア:えっ?いや、だってウエディングケーキをお求めなんですよね?

モナカ:うん。

イディア:それって、結婚式で使うからじゃないんですか?

モナカ:アナタ何言ってるの?

イディア:お客様こそ、何をおっしゃっているんでしょう?

イディア:結婚式じゃないなら、どうしてウエディングケーキが必要なんですか?

モナカ:食べたいから。

イディア:は?

モナカ:私が食べたいから。一人で。

イディア:えっ?ウエディングケーキを一人で?

モナカ:うん、そう。

イディア:うわあ、そんな気がしてたけど・・・コイツやべえわ。

モナカ:だってケーキは、食べる為にあるものでしょう?

イディア:いやまあ、そりゃそうですが。

イディア:でもウエディングケーキは結婚式で出されるものですよ?食べるよりも、「ケーキ入刀」とか「ファーストバイト」とか、そういうセレモニー的な目的で作るものかと・・・

モナカ:そんな事、誰が決めたの?

イディア:いや、知らないですけど・・・

モナカ:法律で決まっているの?

イディア:決まってないですけど・・・

モナカ:はい論破。

イディア:ろ、論破?こんな小学生の屁理屈みたいな理論で論破されたことになるの?

モナカ:だから作って。

イディア:無理です。材料も無いですし。作り方も知らないですし。

モナカ:ブス!

イディア:うわすっごいストレートな悪口言われた。

モナカ:あー!もうウエディングケーキの口になってるのにー!

イディア:どんな口だよ・・・

モナカ:(ため息)わかったわ、しょうがないからウエディングケーキは諦める。

イディア:そうして下さい。

モナカ:代わりにモンブランちょうだい。

イディア:だからうちパン屋なんですぅ!

モナカ:はあっ!?ウエディングケーキも駄目、モンブランも駄目・・・じゃあ一体何なら作れるの!?

イディア:だからパンですぅ!

➖少し間

モナカ:パン?パンですって?それじゃあまるで、ここがパン屋みたいじゃない!

イディア:パン屋ですぅ!

モナカ:いつから?

イディア:最初からです!

モナカ:何故それを早く言わないの!

イディア:ずっと言ってますぅ!

モナカ:(ため息)せっかく新しいお菓子屋さんが出来たと思って来てみたら、まさかパン屋だなんて、ガッカリ。

イディア:お客様はスイーツがお好きなんですか?菓子パンもたくさん種類がありますよ。

モナカ:私はケーキが良いの!

イディア:まあまあ、そう言わずに。このクリームパンなんかどうですか?カスタードクリームがたっぷり入ってて、美味しいですよ。

モナカ:私、カスタードクリームはたい焼きでしか食べないって決めてるの。ごめんなさいね。

イディア:何そのこだわり・・・

モナカ:(遠い目をして)シュークリームに溺れた頃もあった。でも気付いたの、カスタードクリームを優しく力強く包み込めるのは、分厚いたい焼きの生地だけだって。

イディア:いや知らんがな。

モナカ:クリームパンなんて邪道よ!

イディア:めちゃくちゃ王道です!まあまあ、騙されたと思って、一つ食べてみて下さいよ。

モナカ:騙された!

イディア:まだ食べてないじゃないですか!

モナカ:食べなくても分かるもん!そのカスタードクリーム、どうせ練りカラシなんでしょ!

イディア:何の罰ゲームですかっ!?

モナカ:ぜーったい食べないから!

イディア:あーもう面倒臭い・・・つべこべ言わんと、黙って食えやあ!(モナカの口に無理矢理クリームパンを突っ込む)

モナカ:っ!(無理矢理口の中に押し込まれもがくが、最終的に飲み込む)

イディア:・・・どうよ!

モナカ:・・・

モナカ:・・・う、うまい!

➖少し間

イディア:(N)『私が店を持つようになってすぐの頃、突然現れたこの奇妙な客は』

イディア:(N)『その後、一番の常連さんになった』

➖間


➖タングリスニ フーリの工房

スカミシュ:フーリ先生!

フーリ:やあ、スカミシュ。良い加減、その「先生」って言うの、辞めてくれないかな?

スカミシュ:先生は先生です!タングリスニ1番の薬師で、私の師匠ですから!

フーリ:しがない捕虜だけどね。

スカミシュ:ただの捕虜が、こんな立派な工房建ててもらえますか?

フーリ:どうなんだろうねえ。

スカミシュ:そうだ!頼まれてた薬草調達して来ましたよ!(薬草の入った袋を渡す)

フーリ:(袋を受け取り)ありがとう、助かるよ。

スカミシュ:全部あると思うんですけど・・・

フーリ:えっ!?(袋の中身を確認する)すごい、全部揃ってる!

スカミシュ:良かった。

フーリ:これ、たったの三日で集めたの!?一週間はかかると思ってたのに・・・

フーリ:ゴメンね、自分の仕事もあるのに。

スカミシュ:良いんです!私、フーリ先生のお手伝いするのが楽しいんです。

スカミシュ:それにベリリ様も、しっかりお手伝いするようにおっしゃっていますし。

フーリ:皇族ベリリか。一体どんな人なんだい?

スカミシュ:さあ?私も会ったことないんです。

フーリ:そうなの?

スカミシュ:はい。極度の人嫌いらしくて、ベリリ様に会ったことがある人はほとんど居ないみたいですよ。私は人づてに命令を受けてるだけです。

フーリ:そうなんだ。テルエスとは違ったタイプか。

スカミシュ:とにかく、私はこれからも先生のお手伝い頑張りますんで。どんどん「こき使って」下さい。

フーリ:・・・やっぱり「こき使われてる」と思ってるんだ。

スカミシュ:へっ!?あ、いや、それは・・・

フーリ:(笑いながら)冗談だよ、冗談。本当にありがとね。

スカミシュ:冗談かあ、びっくりした。

フーリ:本当に感謝してるんだよ。工房だって、いつも片付けてもらってるし。

スカミシュ:そんなの、全然大したことじゃないですよ。

フーリ:おかげで、私は片付けなくて良くなったし。

スカミシュ:いや、たまには自分でもやって下さい。

スカミシュ:薬のレシピノートもあちこち散乱してましたよ。無くしたら大変でしょう?

フーリ:別に良いよ。薬作りは理屈より実践が大事だからさ。

スカミシュ:それ、実際に人に使ってみて効果を確かめるってことですか?怖すぎますよ。

フーリ:うっ。

スカミシュ:ノート、ちゃんと整理しておきましたからね。

フーリ:ありがとう。全部覚えておけたら、ノートなんか必要ないんだけどねえ。

スカミシュ:それは無理でしょ。すごい量ですもん。

フーリ:それもあるけど、わたし特別忘れやすいからさ。

スカミシュ:ああ、薬の副作用でしたっけ?

フーリ:多分ね。それ自体、はっきり覚えてないけど。

フーリ:他にも大切なこと、忘れちゃってるのかなあ。

スカミシュ:先生なら、記憶を取り戻す薬も作れるんじゃ無いですか?

フーリ:そうだね。いつか、作ってみても良いかもね。

スカミシュ:あの、ところで・・・

フーリ:ん?

スカミシュ:噂で聞いたんですけど、先生軍部とモメてるんですか?

フーリ:いんやあ、そんなこと無いと思うけどお?

スカミシュ:軍からの呼び出しを、何やかんや理由を付けて断っていると聞きました。

フーリ:私も色々と忙しいからねえ。

スカミシュ:忙しいんですか?

フーリ:そうだよー。昼寝とか仮眠とかうたた寝とか・・・

スカミシュ:寝てばっかじゃないですか!軍からの呼び出しを蹴って寝てるんですか?ヤバいですよ。

フーリ:だってさー、あの連中の用件なんてロクなもんじゃないんだよ?

スカミシュ:どう言う事ですか?

フーリ:「化学兵器になる薬を作れ」とか、「麻薬を精製しろ」とか、そんな事ばっか言ってくるのさ。

スカミシュ:麻薬!?どうして軍が麻薬を・・・

フーリ:さあね。密かに売って金儲けでもするつもりなのか、権力者への献上品か。あ、噂だけど、これはベリリ様の指示らしいよ。

スカミシュ:そんな・・・

フーリ:こっちに連れてこられた時も、本当にひどいやり口だったんだよ?危うく足を切り落とされる所だったんだ。いくら義足だからってひどくない?せっかくリーベルで楽しくやってたのにさ。

スカミシュ:・・・

フーリ:確か君もリーベルから無理矢理連れてこられたんだったよね?

スカミシュ:ええ、まあ・・・

フーリ:酷いって思うでしょ?

スカミシュ:・・・どうなんでしょう?

フーリ:えっ?

スカミシュ:最初は怖かったし、当然怒りもありました。でも今は、もうこの国で頑張って生きていくしかないって思ってます。

フーリ:本当にそう思ってる?こっちに来て、かなり苦労したって聞いてるよ?

スカミシュ:誰がそんなことを。

フーリ:ちょっと噂をね。リーベルに家族は?

スカミシュ:いないです。だから、帰りたい理由もそんなに無いんですよ。

フーリ:ふーん。

スカミシュ:それに、タングリスニに来て良い事もありました。フーリ先生の元で学べたり、とか。

フーリ:おだてても何にも出ないよん。

スカミシュ:本心ですって!

フーリ:そうかい・・・ねえスカミシュ。

スカミシュ:はい?

フーリ:捕虜に過ぎない私にできることは限られてるけどさ、困ったことや辛いことがあれば、何でも私に話してね。

スカミシュ:フーリ先生・・・

フーリ:君は私の可愛い一番弟子なんだから。

スカミシュ:ありがとうございます。

フーリ:さて、私はコハクの所に行ってくるとするよ。最近不安定みたいで心配だから。2〜3日は向こうにいるつもり。

スカミシュ:分かりました。行ってらっしゃい。

➖間


➖「バルナの辺境の町 レストポープ」

➖町にある一軒のパン屋

イディア:いらっしゃいませー!バルナ一のパン屋、「イディアのお店」特製サンドイッチはいかがですかー!

ティアン:メイドさん、それちょうだい!

イディア:私はメイドじゃありません!・・・あら?アナタ、前にどこかで・・・

ティアン:また会ったね、お姉さん。

イディア:思い出した!お祭りの日にお店に来てくれた猫耳さんね。

ティアン:そうだよ。相変わらず、美味しそうなサンドイッチだ。一つ下さいな。

イディア:毎度どうも。(サンドイッチを渡す)

ティアン:(サンドイッチを受け取り)今はこの町に?

イディア:ええ。この地方で採れる麦を使うと、とっても美味しいパンが作れるの!

ティアン:なるほど。良い時に来たみたいだ。

イディア:今も旅をしてるの?

ティアン:うん。でもしばらくはこの町にいるつもりだから、毎日パンを買いに来るよ。

イディア:本当?嬉しい!

ティアン:メイドさんのパン、美味しいからね。

イディア:だからメイドじゃないってー。

モナカ:(店の扉を開け)イディアー。

イディア:モナカ、いらっしゃい。

モナカ:あれえ、この人・・・

ティアン:おや、こんにちわ。

イディア:知り合いなの?

モナカ:うん。前に会った。

ティアン:ケーキ屋さんでね。

イディア:そうなんだ。世間は狭いね。

モナカ:ねえイディア、昨日言ってたやつできた?

イディア:もちろん!(アップルパイを持ってくる)はい、特製アップルパイよ。

モナカ:うわあ・・・

ティアン:焼きたてだ。美味しそう。

イディア:どう、すごいでしょ?作るの結構大変だったんだからね。まず・・・

モナカ:いっただっきまーーす!

イディア:へ?

モナカ:(アップルパイを貪り食う)

イディア:ちょ、ちょっと!ここで食べないでよ!

ティアン:手遅れ、みたいだね。

モナカ:(アップルパイを素手で貪り食う)

イディア:お代もまだもらってないのに!

モナカ:(頬張りながら)とっても美味しいよ、イディア。

イディア:そりゃそうでしょーよ。

ティアン:良いじゃない。こんなに美味しそうに食べてくれたらさ。

イディア:それは・・・まあ、そうなんですけどね。

モナカ:?

アイヴァン:(店の扉を開け)こんちわー。

イディア:あ、いらっしゃいませ、アイヴァンさん!いつもありがとうございます!

アイヴァン:あれ、ティアンさん?奇遇ですね。

ティアン:アナタは確か、宿のご主人?

モナカ:猫耳さん、おじさんの宿に泊まってるの?

ティアン:うん。もしかして、今朝食べたクロワッサンは・・・

アイヴァン:はい、ここで仕入れたんです。

ティアン:道理で美味しいと思った。

アイヴァン:ここのパンはバルナ一ですから。なあ、モナカちゃん。

モナカ:だよねー。

イディア:モナカちゃん、ありがとう。だけど良い加減、アップルパイのお代払ってくれないかな?

モナカ:何言ってるの?さっき払ったじゃない?

イディア:騙されるか!

アイヴァン:イディアちゃん、取り込み中悪いけど、ちょっと急いでるんだ。

イディア:す、すいません。少々お待ちください!

ティアン:忙しくなってきたみたいだし、そろそろお暇(いとま)するとしようか。

イディア:ティアンさん、ありがとうございました!またのご来店お待ちしてます!

モナカ:またねー(アンパンを食べる)

イディア:コラ!勝手に食べるな!

➖間

ティアン:良い所だな、ここは。小さい町だけど、暖かい。

ティアン:・・・こんな平和な町で、一体何が起きるって言うんだ。

➖間


➖タングリスニ フーリの工房

フーリ:ただいまーっと・・・誰もいないか。

フーリ:ん?これはスカミシュの置き手紙か。なになに。

スカミシュ:『別の仕事が入ったので、しばらく来れません。私がいない間も、あんまり散らかしちゃ駄目ですよ』

フーリ:はーい。

フーリ:すごくキレイになってる。さすがスカミシュだな。

フーリ:薬瓶も整理してくれたんだ。助かるー。

フーリ:本当に良い奴・・・なんだけどなあ。

フーリ:何かこう、まだ完全には腹を見せてくれてないような気がするんだよねー。

フーリ:打ち解けるには、もうちょい時間がかかりますかねえ。

フーリ:ま、良いや。この前考案した薬、調合してみよーっと。

フーリ:・・・

フーリ:(何だろ?何かがおかしい気がする・・・)

フーリ:(すごく綺麗になってる。それは確かだ)

フーリ:(いや・・・綺麗過ぎる)

フーリ:(整然(せいぜん)とすることで、逆に何かを隠そうとしているような・・・)

フーリ:・・・考え過ぎかなあ。ただ単にスカミシュが几帳面なだけか。

フーリ:レシピノートもキチンと順番に並べてくれてるし。

フーリ:・・・ノート?

スカミシュ:『レシピノートもあちこち散乱してましたよ』

フーリ:・・・そうだ、スカミシュはいつもノートをきちんと整理してくれている。

フーリ:ノートだけは、いつも・・・

フーリ:(何だ?大切なもの、誰にも見せちゃいけないノートがあったような・・・また忘れちゃったのか?)

フーリ:えーっと、大事な物、大事な物、どこにしまったっけ?

フーリ:思い出せ私!これは絶対忘れちゃいけない事だろ!

➖少し間

フーリ:思い出した!薬棚の裏に・・・

フーリ:よいしょ、よいしょ(薬棚をスライドさせる)

フーリ:そうだ、この隠し扉だ!この中に・・・(扉を開けて中に入る)

フーリ:えーっと・・・(箱を見つける)あった!この箱だ!この箱に入れたはず(箱を開ける)ん

フーリ:・・・無い。やっぱり無くなってる。

フーリ:「バオジュンZ666」・・・大変だ。

➖間


➖レストポープ 早朝 イディアの店

スカミシュ:(店の扉を開け)すいませーん。

モナカ:・・・なに?

スカミシュ:あの、イディアさんですか?

モナカ:ちがう。

スカミシュ:えっ?じゃあ、誰かな?

モナカ:お手伝い。

スカミシュ:そ、そうなんだ。イディアさんはいるかな?

モナカ:いる。

スカミシュ:・・・

モナカ:・・・

スカミシュ:あの・・・イディアさん、呼んできてもらえるかな?

モナカ:・・・(舌打ち)

スカミシュ:いま舌打ちした!?

モナカ:(店の奥に向かって)イディアー、誰か来てるー。

イディア:(店の奥から)誰ー?

モナカ:(店の奥に向かって)不審者ー。

スカミシュ:不審者!?

イディア:(店の奥から出てきて)あら、どちら様?

スカミシュ:イディアさんですか?小麦粉の配達です。

イディア:ご苦労様です。ちょっとモナカちゃん、何が不審者よ。

モナカ:こいつが名乗らなかったから。

スカミシュ:こいつ!?

イディア:すいません、この子は気にしないで下さい。

スカミシュ:はあ。

イディア:そういえば、いつもの方(かた)は?

スカミシュ:・・・ちょっと体調が良くないみたいで。

イディア:そうでしたか。・・・あ、そこに置いて下さい。

スカミシュ:はい・・・こんなに朝早くから、大変ですね。

イディア:パン屋は朝の仕込みが勝負ですから!

スカミシュ:きっと美味しいんでしょうね。今度はお客さんとして来ます。

イディア:ありがとうございます!お待ちしてますね。

スカミシュ:ええ・・・それじゃ、また。(スカミシュ退場)

モナカ:・・・

イディア:モナカちゃん、どうしたの?

モナカ:何か、変。

イディア:何が?

モナカ:分かんない。

イディア:何それ。小麦粉も届いたことだし、仕込み始めるわよ。しっかり手伝ってね。

モナカ:あーい。

➖間


➖数時間後 イディアの店

イディア:はい、焼き上がったわよ。

モナカ:うわあ、良い匂い。よし、誰も見てないわよね?いっただっき・・・

イディア:見とるわ!(チョップする)

モナカ:あいたっ!イ、イディア?いつの間に?

イディア:ずっといるじゃん。

アイヴァン:(店の扉を開け)おはよう!

モナカ:あ、おじさん。

アイヴァン:モナカちゃん、お手伝いかい?

モナカ:この人は・・・知ってる。

アイヴァン:何の話?

イディア:アイヴァンさん、おはようございます!

アイヴァン:イディアちゃん。ゴメンね、開店前に。昨日の晩に急な団体が来ちゃってさ。

イディア:いえいえ、いつもお世話になってますから。

モナカ:はい、パン。(パンを渡す)

アイヴァン:ありがとう。

モナカ:ねえ、もうお手伝い終わりで良い?

イディア:モナカちゃん、まだ開店すらしてないのよ?

モナカ:えー。

イディア:「えー」じゃありません。約束したよね?昨日のパン代、働いて返すって。

アイヴァン:なるほど、そういうことか。

モナカ:お手伝い終わったら、パン食べ放題の約束だからね!約束守ってよ!

イディア:うん、そんな約束、絶対にしてないよね。

アイヴァン:相変わらず仲良しだねえ。じゃあ行くよ。イディアちゃん、本当にありがとう。モナカちゃん、頑張ってね。

イディア:毎度どうもー。

➖間


➖アイヴァンの宿屋

アイヴァン:(パンを食べている)今日は一段と旨いな。

ティアン:おはようございます。

アイヴァン:ティアンさん、おはようございます。早いですね。良く眠れましたか?

ティアン:おかげさまで。ひょっとしてそれは・・・

アイヴァン:見られちゃいましたか。イディアちゃんのお店のパンです。お客さんの朝食に出すんですが、我慢出来なくてつまみ食いを・・・

ティアン:なるほど、そういう事か。確かに良い匂いだね。

アイヴァン:ティアンさんもお一ついかがですか?焼きたてですよ。

ティアン:良いの?それじゃあ遠慮なく(パンを食べる)・・・ん?

アイヴァン:どうしました?

ティアン:昨日のパンと、少し味が違う気がして。

アイヴァン:そうなんですよ!昨日より美味しいですよね!

ティアン:まあ・・・確かに。

メロジー:何してるの?

ティアン:奥さん、おはようございます。

メロジー:・・・どうも。

アイヴァン:仕入れてきたパンを試食してたんだ。一つ食べる?

メロジー:いらない。

ティアン:美味しいよ。

メロジー:私、人間が作ったものしか口にしたく無いんです。

ティアン:えっ?

アイヴァン:メロジー!

メロジー:何よ?だってそのパン、あのアンドロイド女が作ったんでしょ?気持ち悪い!

アイヴァン:辞めろよ、そういう言い方は。

メロジー:何であいつをかばうのよ?あの女に気でもあるわけ?

アイヴァン:馬鹿な事言うな!

メロジー:そうよねえ?まさか機械女を好きになるわけないわよねえ?

ティアン:奥さん、アンドロイドが嫌いなの?

メロジー:アンドロイドだけじゃなくて、私は人間以外の全種族が嫌いなの!

ティアン:そうなんだねえ・・・ちなみに私、獣人なんだけど?

メロジー:・・・他の宿に行きたいなら好きにすれば?言っておくけど、宿代は返さないからね!

アイヴァン:お前、お客様になんてことを!

ティアン:アッハッハッハッ!正直な人だなあ。逆に清々しい。

メロジー:フン!

アイヴァン:どこ行くんだ?朝食の準備は?

メロジー:気分悪いから、二度寝してくる!

アイヴァン:おい!

ティアン:行っちゃった。

アイヴァン:(頭を下げながら)本当に申し訳ございません!

ティアン:大丈夫、気にしてないから。しかし、奥さん強烈だねえ。バルナにあんな人がいるなんて。

アイヴァン:妻は元々タングリスニの出身でして。人間社会が中心になっているタングリスニでも、特に排他的な家庭で育ったみたいで、他種族を嫌うのを当たり前に思ってるんです。決して悪い人間じゃないんですが。

ティアン:この国じゃ暮らしにくいでしょう?

アイヴァン:住んでみれば、少しは変わるんじゃないかって期待してたんですが・・・

ティアン:うまくいかなかったみたいだね。

アイヴァン:はい・・・

アイヴァン:イディアちゃんのパン屋を最初に見つけたのは、実は妻なんです。

ティアン:そうなの?

アイヴァン:はい。「すごく美味しいパン屋さんができた!」と喜んでいたんですが、イディアちゃんがアンドロイドだと分かった途端・・・

ティアン:・・・

アイヴァン:もう限界かな。妻をタングリスニに返してやるべきなのか・・・

ティアン:この宿はどうするの?

アイヴァン:・・・わかりません。

ティアン:・・・

アイヴァン:とりあえず、朝食の準備してきます。(立ち上がると同時にふらつき)おっと。

ティアン:大丈夫?足元フラついてるよ?

アイヴァン:すいません、大丈夫です。ちょっと立ちくらみしたみたいで。

アイヴァン:朝食出来たら呼びに行きますので、部屋で待ってて下さい。

ティアン:うん、わかった。

➖アイヴァン、食堂に入っていく

ティアン:アイヴァンさん、大丈夫かな?・・・あれ?私も、体が熱っぽくなってきたような・・・

➖間


➖数時間後 イディアの店

イディア:そろそろ開店時間ね。

モナカ:やっと閉店かあ。疲れたあ。

イディア:うん、開店ね?か・い・て・ん!何なら、今からが本番なんだよね。

モナカ:そんな嘘、信じない。

イディア:現実から目を逸らすのは辞めなさい。

モナカ:なるほど、これが「ぱわはら」というやつかあ。

イディア:良い加減にして。

メロジー:(店の扉を勢いよく開け)イディア!いる!?

イディア:メロジー・・・さん?珍しいですね。いまお店を開けるところなんです。

メロジー:ふざけるな!アンタ、とうとうやってくれたわね。

イディア:何の話ですか?

メロジー:食中毒よ!食中毒!

イディア:えっ?

モナカ:食中毒?

メロジー:そうよ!アンタのパンを食べた私の夫も、うちの客も、みんな高熱を出して倒れたのよ!

イディア:嘘・・・

モナカ:それ、ここのパンが原因とは限らないんじゃ・・・

メロジー:何言ってんの!そうに決まってるでしょ!その証拠に、パンを食べていない私は何ともないわ!

イディア:でも・・・

メロジー:だからアンドロイドが作る物なんて食べちゃ駄目なのよ!

モナカ:ひど!そこまで言わなくても良いじゃん!

メロジー:あなた、どうしてアンドロイドの肩を持つのよ!

モナカ:おばさんが意地悪するからだよー!

メロジー:フン!見てなさいよ。この町どころか、バルナのどこでも商売できないようにしてやるから!

モナカ:はあっ!?何様のつもりだよ!

イディア:・・・

サリバン:(店内に入り)あ、いたいた。メロジーさん。

イディア:サリバン先生?お医者様がどうして?

メロジー:誰かさんのせいで食中毒なんか起きちゃったもんだからね。宿で診察してもらうのよ。

サリバン:こんな所で油を売っている場合じゃないでしょう?

メロジー:先生。だって、全部こいつの責任なんですよ?

サリバン:分かりますけど、今は皆さんを治療するのが先でしょ?クレームは後にしましょ。

メロジー:はい・・・

メロジー:あ!診察代は全部アンタ持ちだからね!分かった?

イディア:はい・・・

サリバン:ま、当然ですな。

モナカ:イディア・・・

メロジー:後で請求に来るからね!それまでの間、店を畳む準備でもしてなさい!(出ていく)

サリバン:では失礼します。(出ていく)

モナカ:・・・行っちゃった。私、あのおばさん嫌い!

イディア:・・・

モナカ:イディア、まだ分からないよ?イディアが作るパンで食中毒なんて、わたし信じられない。

イディア:・・・うん。でも、もし本当だったら、責任は取らないと。

モナカ:どうするの?

イディア:とりあえず、アイヴァンさんの宿屋に行ってみる。私が行って何ができるわけじゃ無いけど、ここでじっとしてられない。

モナカ:そう。

イディア:今日はお休みにする。せっかく準備してくれたのに、ゴメン。片付けるの手伝ってくれる?その後で宿に行くわ。

モナカ:それは良いけど・・・ねえ、イディア。お店、辞めたりしないよね?

イディア:・・・


➖数十分後 アイヴァンの宿屋

アイヴァン:(苦しそうな息遣い)

サリバン:では、私は宿泊客を診てきます。

メロジー:先生!主人は大丈夫なんですか?もらった薬も、全然効いてないみたいですけど。

サリバン:今は様子を見るほかありません。また後で来ます。(部屋を出ていく)

アイヴァン:(苦しそうな息遣い)

メロジー:フン!あんな女のパン食べるからよ。

アイヴァン:(熱に浮かされる)

メロジー:お客さんも、寝込んじゃってるし。ウチは病院じゃないのよ、もう!

アイヴァン:あ・・・ア・・・ガ・・・

メロジー:いや、そんなことよりも、これでウチの評判に傷が付いたら・・・客が来なくなったらどうしよう。

メロジー:これも全部、あのアンドロイド女のせいよ!そうよ、宿の損害は、あいつに弁償させれば良いんだわ!

メロジー:アナタも、それで良いわよね?この期に及んで、あの女を庇(かば)わないでよ。

アイヴァン:・・・

メロジー:ちょっと、聞いてんの?・・・って、アナタどうしたの?

アイヴァン:(うめき声)

メロジー:肌の色が、紫色に?

アイヴァン:ウガアッ!(メロジーの腕に噛み付く)

メロジー:痛っ!・・・噛まれた?何すんのよ!?

アイヴァン:ウゥゥ・・・

メロジー:ちょっと、アナタ?

アイヴァン:ウガアァァァァ!(襲い掛かる)

メロジー:イヤアアアアア!!

➖町中 アイヴァンの宿屋前

イディア:やっぱり、閉まってるね。アイヴァンさんが倒れちゃったから、無理もないか。

モナカ:どうする?帰る?

イディア:そういうわけにはいかないわ。

イディア:(扉をノックして)すみません。イディアです。

メロジー:(屋内から)イヤアアアアア!!

モナカ:何!?

イディア:今の声、メロジーさん?(扉を開け)失礼します!

モナカ:入っちゃうの!?

イディア:モナカちゃんはここで待ってて!

モナカ:わ、私も行くよー


➖宿屋 屋内

イディア:メロジーさーん!大丈夫ですかー?

モナカ:おばさーん!生きてるー?

メロジー:(階段を駆け降りながら)助けて!!

イディア:メロジーさん!?

モナカ:うわっ!血だらけじゃん!

イディア:何があったんですか?

メロジー:あの人が・・・あの人が・・・急に襲いかかってきて・・・

モナカ:あの人?まさかおじさんが?どういうこと?

イディア:この傷・・・まるで、動物に噛み付かれたみたい。

メロジー:(息苦しそうに)どうして私がこんな目に・・・全部アンタのせいよ!

イディア:・・・とにかく、手当しましょう。血を止めないと。

サリバン:(客室のドアが開き)助けてくれえ!

イディア:えっ?サリバン先生?

アイヴァン:(客室から飛び出し)グアアッ!

イディア:アイヴァンさん!?

モナカ:体が紫色になってる!?

サリバン:ひっ!来るな・・・来るなあ!

アイヴァン:ガアアッ!(噛み付く)

サリバン:ああっ!

イディア:何あれ・・・

モナカ:おじさん、どうしちゃったの?

アイヴァン:ウグゥゥゥ・・・

モナカ:こっち来るよ!逃げよ!

イディア:でも・・・サリバン先生が・・・

モナカ:今は一旦逃げよ!何か普通じゃ無いよ!ほら、おばさんも!

メロジー:・・・

イディア:メロジーさん?

メロジー:(うめき声)

モナカ:おばさん?肌の色が・・・紫に・・・?

メロジー:ウガアッ!(イディアに噛み付く)

イディア:キャアッ!(飛びかかってきたメロジーを辛うじて抑えつける)

モナカ:イディア!

メロジー:(イディアに噛みついたまま離れない)

イディア:メロジーさん!まさか、アイヴァンさんみたいに・・・

モナカ:イディアから離れろ!(メロジーをつき飛ばす)

メロジー:(突き飛ばされ)ギャワッ!

イディア:何これ・・・一体どうなってるの?

モナカ:おばさんもおかしくなった。これは・・・

イディア:危ないっ!

モナカ:えっ?

サリバン:(モナカに襲いかかる)ウガアァァァァ!

モナカ:っ!

イディア:モナカちゃん!

モナカ:(男)オラァァァァ!(サリバンを蹴り飛ばす)

イディア:へっ?

サリバン:グハァッ!

イディア:モナカちゃん?

モナカ:(男)肌が紫・・・(舌打ち)このヤブ医者も同じかよ。

アイヴァン:ウガアッ!(モナカに襲い掛かろうとする)

モナカ:(男)させるかよ!(殴り飛ばす)

アイヴァン:グヴァッ!

メロジー:ウキャアッ!(モナカに掴みかかる)

モナカ:(男)(揉み合いながら)このクレーマーババア!汚ない手で触んじゃねえ!(頭突きをかます)

メロジー:ウガッ!

モナカ:(男)オラァッ!(ハイキック炸裂)

メロジー:フギャッ!

モナカ:(男)しばらく寝てろや、カス共!

イディア:・・・

モナカ:(男)イディア、大丈夫か?

イディア:うん・・・あの・・・うん・・・大丈夫・・・

モナカ:(男)こいつら急にどうしたんだ?これが食中毒の症状だってのか?

イディア:でも、メロジーさんもお医者さんも、私のパンを食べてないはずだよ。

モナカ:(男)(少し考え)まさか、噛まれたからか?

イディア:えっ?

モナカ:(男)ヤブ医者もクレーマーババアも、オヤジに噛まれてた。どういう理屈か分からねえが、こいつらに噛まれるとお仲間になっちまうみてえだな。

イディア:そんな、どうして・・・ひっ!

モナカ:(男)っ!

サリバン:(同時に)(うめき声)

メロジー:(同時に)(うめき声)

アイヴァン:(同時に)(うめき声)

モナカ:(男)思いっ切りやったのに、もう動けんのか・・・(舌打ち)体の構造も変わってやがるみてえだな。

サリバン:(同時に)(奇声を発しながら襲い掛かる)

メロジー:(同時に)(奇声を発しながら襲い掛かる)

アイヴァン:(同時に)(奇声を発しながら襲い掛かる)

モナカ:(男)ここは一旦退くぞ!俺について走れ!

イディア:お、俺?

モナカ:(男)早くしろ!

イディア:う、うん!

➖二人手を取り走り出す

モナカ:(男)外に出るぞ!

イディア:わかった!

➖宿の扉を開け放ち外へ

モナカ:(男)扉を閉めろ!

イディア:(宿の扉を閉め)閉めた!

モナカ:(男)鍵はかけられねえよな。何か重しになるものは無いか!?

イディア:私探してくる!・・・あ。

モナカ:(男)どうした?・・・っ!

➖二人の眼前には感染者が徘徊している光景が広がっている

「バオジュン」:(うめき声)※出番の無いキャストを追加してもOKです

モナカ:(男)(舌打ち)もう外にも広がってやがったか!

イディア:この人達、みんな?

ティアン:(苦しそうな息遣い)

イディア:ティアン・・・さん?

ティアン:くっ・・・私に・・・近づいたら駄目だ・・・

モナカ:(男)肌の・・・色が・・・

ティアン:私に・・・近づくなアアアアア!!!

➖間


➖町を見下ろせる高台の上

➖望遠鏡で町の様子を観察するスカミシュ

スカミシュ:ふむふむ、なるほどナルホド。

スカミシュ:宿泊客が全部で21名、朝食を摂ったのが16名、その中で発症したのが14名、と。

スカミシュ:食べ物に混ぜ込んでも、必ず感染するわけではない様ですね。咬み傷からの感染は今のところ100%、ただし発症するまでの時間は個体差あり、と。

スカミシュ:井戸水に入れた方は・・・あまり成果が出ていないか。

スカミシュ:人間も獣人も、等しく「感染」してるみたいですねえ。良かった良かった。

スカミシュ:あとはエルフが居てくれたら完璧なデータが取れるんですが、この町エルフは居ないんでしょうか?

スカミシュ:しかし、肌の色があからさまに変わっちゃうのはどうなんでしょうねえ?誰が感染者・・・「バオジュン」なのか一目で分かっちゃいますねえ。

スカミシュ:ま、区別がついた方が良い場合もあるか。兵器としてはね。

スカミシュ:これからこの「レストポープ」で地獄絵図が繰り広げられるわけか。そして私は高みの見物を決め込む、と。ヤバいな、ゾクゾクしてきた。

➖少し間

スカミシュ:・・・ここまでやったんだ。タングリスニの為に、ベリリ様の為に、ここまで。

スカミシュ:悪魔と罵られようが、狂人と蔑まれようが構わない。

スカミシュ:これが私の生きる道なんだ。

スカミシュ:もう後戻りはできないんです・・・フーリ先生。

➖間


➖町中 民家の中

イディア:(荒い息遣い)この家は、大丈夫みたいね。

モナカ:(男)(荒い息遣い)とりあえずな。

モナカ:(男)(荒い息遣い)町の人間、どれくらい紫になっちまったんだ。(舌打ち)俺たちしか残ってない、なんてことねえよな。

イディア:・・・どうしてこんなことに?

モナカ:(男)今日、いつもと違うことがあったろ。

イディア:えっ・・・あ!

スカミシュ:『・・・ちょっと体調が良くないみたいで』

イディア:まさか・・・

モナカ:(男)(舌打ち)あいつが何者かは分からねえが、ただの業者じゃなかったのは確かだ。小麦粉に、何か混ぜられてたんだろう。

イディア:そんな!一体何のために?

モナカ:(男)それは・・・

イディア:何?

モナカ:(男)この病気・・・と言って良いのか分からねえが、こいつを広める為にお前のパンが利用されたんだ。

イディア:っ!

モナカ:(男)バルナで一番の、お前のパンがな。

イディア:ひどい・・・私のパンで、みんなが・・・

モナカ:(男)イディア、分かってるとは思うが、お前のせいじゃねえぞ。

イディア:今日は、とっても美味しく焼けたと思ったんだよ。きっと、みんな喜んでくれるって。

イディア:何で気付かなかったんだろう。たくさん試食したのに。私が、アンドロイドだからかなあ?

モナカ:(男)・・・お前は悪くない。悪いのはあのニセ小麦粉売りだ。

モナカ:(男)探し出してぶっ飛ばして・・・やりたいとこだけどな、今は町を出るのが先決だ。

イディア:町を出る?

モナカ:(男)ああ。

イディア:町の人たちは、どうするの?

モナカ:(男)残念ながら、俺たちに出来ることは何もねえ。あるとすりゃ、一刻も早く他の町にこの事態を知らせる事だ。

イディア:・・・

モナカ:(男)悩んでる暇はねえ。だから(かぎ爪を取り付ける)

イディア:モナカちゃん?何で武器なんか。

モナカ:(男)紫の奴ら、元は一般人のはずなのにえらく強かった。身体能力が強化されてるんだろう。おまけに打たれ強い。

モナカ:(男)数だって増える一方だ。今までみたいに手加減してる余裕はねえ。だから・・・

イディア:待ってよ!殺しちゃうって言うの?そんなのダメだよ!相手は一般人なんだよ?

モナカ:(男)(舌打ち)甘っちょろいこと抜かしてんじゃねえ!あいつらはもう人間じゃねえんだ!

イディア:分からないじゃん!もしかしたら、元に戻す方法があるかもしれないでしょ?

モナカ:(男)どこにそんな方法があるってんだ!?あるとして、どうやって見つけるんだ?

イディア:それは・・・

モナカ:(男)安心しろ、お前に人殺しはさせねえよ。それは、俺の役目だ。

イディア:何言ってんの?私がモナカちゃんにそんなことさせて、平気だって思うの!?

イディア:モナカちゃんだって、本当はそんなことしたくないでしょう?

モナカ:(男)ごちゃごちゃうるせえな!他に道はねえんだ!

イディア:でも・・・

アイヴァン:(同時に)(建物の外から)アアアア

メロジー:(同時に)(建物の外から)アアアアア

サリバン:同時に)(建物の外から)アアアアア

※出番の無いキャストを追加してもOKです

イディア:っ!

モナカ:(男)(舌打ち)来やがった!囲まれるとまずい!外に出るぞ!

イディア:うん!

➖外に出る二人

➖感染者たちは症状が進み、見るも無残な姿となっている

➖肌は紫から赤黒に、皮膚はただれ、目玉が飛び出そうになっている

アイヴァン:アガアアア

イディア:っ!アイヴァン・・・さん?

メロジー:ウゥゥゥ

モナカ:(男)マジかよ・・・えらくキツい見た目になってんじゃねえか・・・

サリバン:グルルル・・・

モナカ:(男)おい。こいつらを見ても、まだ人間だって言えんのか?

イディア:・・・

➖間


➖「レストポープ」入り口付近

フーリ:ここが、「レストポープ」。この町にスカミシュが・・・

フーリ:テルエスの情報、間違いないんだろうな。アイツに借りを作るのは癪(しゃく)だけど、そんな事言ってられない。

フーリ:っ!あれは・・・!

ティアン:(ふらつきながら歩く)くそっ・・・私としたことが・・・

フーリ:あの肌の色!やっぱりバオジュン化してる!

フーリ:(注射器を取り出し)間に合うか・・・

ティアン:ん?誰だ?

フーリ:お願い、効いて!(注射器をティアンの首筋に突き刺す)

ティアン:うっ!痛っ!

フーリ:・・・

ティアン:(体の違和感が、消えていく?これは・・・)

フーリ:良かった、効いてるみたいだ。

ティアン:アンタは・・・私を、治してくれたのか?

フーリ:・・・大丈夫。抗体が出来たから、もう「バオジュン」になることは無いはずだ。

ティアン:「バオジュン」?紫色になった人たちか?

フーリ:そうだ。

ティアン:・・・「バオジュン」とは一体なんなんだ?何が起こってる?

フーリ:・・・

ティアン:いや、今はそれよりもこの事態を収めるのが先だ。アンタ、その「バオジュン」を治せるんだろ?

フーリ:ああ、この解毒剤を使って。その為にここに来たんだ。

ティアン:私に半分くれ。

フーリ:えっ?

ティアン:もう町中に広まってる。一人じゃ手が足りないだろう?私も手伝う。

フーリ:しかし、この注射器の使い方が分かるのか?

ティアン:さっき私にやったみたいにすれば良いんだろう?大丈夫だ。

フーリ:だが「バオジュン」は凶暴だ。君はもう感染しないが、襲われたら危険だ!

ティアン:大丈夫、こう見えてそれなりに心得はあるんだ。

フーリ:・・・

ティアン:悩んでいる時間は無いはずだ!

フーリ:・・・素人に頼むのは気が引けるが、確かに人手は欲しい。分かった、頼むよ。

ティアン:ああ。

フーリ:多分、全員分には足りない。それに、症状が進み過ぎている人には効果があるか分からない。出来るだけ発症してから時間が経過していない人に打ってくれ。

ティアン:どうやって見分ければ良い?

フーリ:肌の色だ。最初は紫だが、時間が経つと赤黒くなる。

フーリ:それに肌がただれて、毛が抜け始める。眼球が飛び出たりしているかもしれない。

フーリ:完全に見極めるのは難しいが・・・

ティアン:とにかくやってみる!

フーリ:じゃあ、私は町の西側から回る。

ティアン:なら、私は東から。

フーリ:急ごう!

ティアン:待って。君の名前は?

フーリ:フーリ。

ティアン:フーリ。私はティアン。

フーリ:ティアン。宜しく頼むよ!

➖少し間

ティアン:介入は最小限に・・・でも、これは流石に見過ごせない!

➖間


➖町中

➖モナカとイディアがバオジュンたちから逃げている

アイヴァン:グワアアアア!(イディアとモナカを走って追いかけている)

モナカ:(男)(走りながら)イディア絶対に止まるんじゃないぞ!

イディア:(走りながら)うん!

モナカ:(男)くそっ!あいつら足も早えのかよ!

イディア:疲れたりもしないみたい!

モナカ:(男)どんなチートだ?フザけやがって!

メロジー:グオオオ!(飛びかかる)

モナカ:(男)うおっと!(ギリギリかわす)危ねえ!

イディア:モナカちゃん、こっち!

モナカ:(男)おう!

モナカ:(男)ここを抜ければ、町の出口だな!

イディア:うん。もうすぐ・・・

町人A:(遠くから微かに聞こえるように)助けて・・・

イディア:・・・えっ!?

モナカ:(男)どうした?

イディア:いま、声が聞こえなかった?「助けて」って。

モナカ:(男)何も聞こえなかったぞ?

町人A:(微かに聞こえるように)助けて・・・

イディア:ううん、確かに聞こえた。多分・・・あそこの路地から!(イディア、建物の間の路地に入る)

モナカ:(男)イディア!?馬鹿!行くな!

イディア:待ってて、いま助け・・・あっ。

モナカ:(男)どうした・・・うっ!

➖路地には血まみれで既に肌が紫がかっている町人A。そして多数のバオジュン

町人A:(ひどく弱った様子で)助けて・・・助けて・・・

サリバン:グルルル・・・

※出番の無いキャストをバオジュンで追加してもOKです

イディア:なんて数・・・

アイヴァン:グルルル・・・

モナカ:(男)(舌打ち)後ろもふさがれた!もう逃げ場はねえ!

モナカ:(男)こうなったら(かぎ爪を構える)

イディア:武器はダメ!!

モナカ:(男)もうそんなこと言ってる場合じゃねえんだ!

町人A:助けテ・・・タスケ・・・グワアアアア!(イディアに噛み付く)

イディア:ぐうっ!

モナカ:(男)てめえ!

イディア:殺さないで!!!

モナカ:(男)っ!

町人A:(噛みつきながら)グウウ・・・

イディア:(町人Aを抱きしめながら)大丈夫、大丈夫だよ。私が、元に戻してあげる。絶対、助けてあげるから。

サリバン:(イディアに襲いかかる)グワアッ!

イディア:ぐあっ!

モナカ:(男)イディア!(イディアに駆け寄ろうとする)

アイヴァン:ゴオオオッ!(モナカに掴みかかる)

モナカ:(男)邪魔だ!放せ!

イディア:うっ、くっ!

モナカ:(男)イディア、反撃しろ!お前ならできるだろ!

イディア:出来ない、よ。わたし、戦闘用じゃないもん。

モナカ:(男)イディア!

イディア:大丈夫・・・大丈夫。わたしアンドロイドだから、感染もしないし、痛みも感じない。

イディア:だから大丈夫・・・大丈夫・・・

モナカ:(男)(バオジュンたちを押し除けようともがきながら)くそが!お前ら、イディアに触んじゃねえ!ぶっ殺すぞ!

町人A:(同時に)グオオオオ!

「バオジュン」:(同時に)ガアアアアア!

※出番の無いキャストを追加してもOKです

モナカ:(男)やめろおおお!!

➖間


➖レストポープ近くの高台

スカミシュ:いやあ、今回の実験は大成功だな。この結果を報告すれば、きっとベリリ様に喜んで頂ける。

スカミシュ:「バオジュン」の諸君、この町に留まらず、是非ともバルナ中に広まってくれ。

スカミシュ:そして願わくば、そのままバルナを滅ぼせ・・・なんてね。

スカミシュ:・・・ん?あれは誰だ?

スカミシュ:望遠鏡の倍率を拡大してと・・・っ!

スカミシュ:フーリ先生!?

スカミシュ:ど、どうしてここに?どこから情報が漏れたんだ?

スカミシュ:解毒剤を持ってきたのか?クソッ!

スカミシュ:ここまできて、台無しにされてたまるか!

スカミシュ:・・・邪魔はさせませんよ、先生。

➖間


➖アイヴァンの宿屋

イディア:(目覚める)

モナカ:(男)気がついたか!?

イディア:ここは・・・?

モナカ:(男)最初の宿屋だよ。デタラメに逃げ回ってるうちに、ここに戻ってきちまった。

イディア:そう・・・モナカちゃんが助けてくれたのね。

モナカ:(男)ああ。

イディア:ねえ、モナカちゃん・・・

モナカ:(男)安心しろ、誰も殺しちゃいねえよ。

イディア:良かった、ありがとう。

モナカ:(男)人のことなんか気にしてる場合じゃないのに・・・馬鹿だよ、お前は。

イディア:そう、だね。

イディア:(ボロボロになった自分の体を見て)あ・・・

モナカ:あんまり見ない方が良いぞ。

イディア:盛大にやられちゃったね、私の体。

モナカ:(男)すまねえ、守ってやれなかった。

イディア:何言ってんの。充分守ってくれたじゃない。だからこうしてお話できるんでしょ?

イディア:それに、体は修理すれば平気だもん。いやーアンドロイドで良かった。

モナカ:(男)それ、もう辞めろよ。

イディア:え?

モナカ:(男)「痛みを感じないから平気」とか「修理できるから平気」とか、そういうこともう言うなよ。平気なわけねえだろ。

イディア:・・・うん、そうする。

モナカ:(男)今度こそ、俺がお前を守る。もう誰にも、お前を傷付けさせたりしねえからよ。

イディア:うわあ。モナカちゃんが男だったら、絶対好きになっちゃう場面だね。

モナカ:(男)俺は男だ。

イディア:へっ?・・・そ、そうなんだ。

モナカ:(男)動けそうか?

イディア:うん、何とか。

イディア:ここもずっと安全じゃないもんね。移動しないと。

モナカ:(男)・・・

イディア:モナカちゃん?

モナカ:(男)ん?・・・ああ、悪い。

イディア:大丈夫?

モナカ:(男)大丈夫だ。裏口から出よう。

イディア:ええ。


➖宿屋裏口前

イディア:ここが裏口ね。ドアの外にいるかもしれないから、音を立てないようにしないと。

モナカ:(男)(自分の右手を見ている)

イディア:モナカちゃん?

モナカ:(男)・・・

イディア:モナカちゃん、本当に大丈夫?手がどうかしたの?・・・(指先が紫に変色しているのに気付き)っ!

モナカ:(男)(舌打ち)かすり傷だったし、ワンチャン大丈夫かと思ったんだけどなあ。

イディア:手が・・・紫色に・・・

モナカ:(男)みたいだな。

イディア:か、噛まれたの?

モナカ:(男)ちょびっとだけ、(右手を捲り上げると、二の腕に歯形がついている)あー、やっぱり服貫通してたか。

イディア:そんな・・・私を、助けるために?

モナカ:(男)関係ねえよ。あそこは紫野郎だらけだったし、無傷で逃げ切んのは難しかっただろうさ。

イディア:・・・私が、殺さないでってお願いしたから・・・

モナカ:(男)選んだのは俺だ。

イディア:でも!

モナカ:(男)イディア、ずっと言ってるだろ。お前は何も悪く無い。だから、気にすんな。

モナカ:(男)それにもう、時間がねえんだ。よく聞いてくれ。お前に頼みたいことがある。

イディア:なに?

モナカ:(男)俺を・・・

➖モナカの人格が入れ替わる

モナカ:私を、殺してくれないかな?

➖間

➖町中

町人A:あれ・・・私、どうして?

フーリ:大丈夫?

町人A:そうだ!私、化け物に襲われて・・・それから意識を失って・・・

町人A:あなたは誰?一体何が起こってるの!?

フーリ:いまは説明してる時間がない。とにかく逃げて。

町人A:どこへ?

フーリ:とりあえず、町の外へ。

町人A:でも家族が・・・

フーリ:まだ「バオジュン」がうろついている。町は危険なんだ!いまはとにかく逃げて!

町人A:わ、分かった。

➖町人、走り出す

ティアン:(走ってくる)フーリ!

フーリ:ティアン!

ティアン:解毒剤を使い切ったんだ。そっちは?

フーリ:残り一本。

ティアン:実はさっき助けた人が言ってたんだ。噛まれてすぐの人を知ってるって。

フーリ:本当?その人はどこに?

ティアン:この町にある宿屋に入って行ったって。多分、私が泊まっていた所だ。

フーリ:案内して!

➖間


➖宿屋

イディア:何を、言ってるの?

モナカ:私を、殺して欲しいの。まだ「人間」でいる内に。

イディア:・・・

モナカ:お願い。

イディア:できるわけない!そんなことできるわけないでしょ!

イディア:言ったでしょ?「私は戦闘用じゃ無い」って。

モナカ:でも、できるよね?知ってるんだよ。

イディア:無理だよ!

モナカ:・・・

イディア:ねえ、諦めちゃダメだよ!まだ何か方法が・・・

モナカ:ヤバいな、体の自由が効かなくなってきた。自殺するのも無理そうかな。

イディア:モナカちゃん!

モナカ:イディア、もう時間がないの。

イディア:嫌!嫌だよ!友達を手に掛けるなんて!

モナカ:じゃあイディアは、私が化け物になって、他の人を襲っても良いって言うの?

イディア:っ!

モナカ:私を殺すことが、私を救うことになるの。

イディア:・・・

モナカ:私ね、この世界が好き。このアグホント大陸が好き。海が好き。花が好き。森が好き。山が好き。雪が好き。ここに住む人が、好き。

モナカ:私の目に映る世界はね、いつも綺麗なの。だから、この世界を美しいと思えなくなるなんて、嫌なんだ。私自身が、この世界を汚す(けがす)存在になるなんて、耐えられない。

モナカ:それは私にとって、死ぬよりも辛いことなんだよ。

イディア:モナカちゃん・・・

モナカ:イディア、お願い、私を助けて。

➖間

イディア:(スカートからゆっくりとナイフを取り出す)どうして、こんなことに。

モナカ:ゴメンね、イディア。辛い役割、押し付けちゃったね。

モナカ:みんなもゴメン。私、ここで終わりみたい。

モナカ:(男)お前の選択は、俺たちの選択だ。気にすんな。

モナカ:(令嬢)私達(わたくしたち)、やれるだけやりましたものね。

モナカ:(少年)あーあ、もっとお菓子食べたかったなー・・・なんちゃって。オイラも後悔してないよ。

モナカ:(???)もう少しバロウズとも遊びたかったが、まあ仕方ないか。

イディア:(ナイフを構えながら)モナカちゃん、ありがとう。

モナカ:何が?

イディア:私と友達になってくれて。

モナカ:私も、最後に一緒なのがイディアで良かった。

イディア:モナカちゃん!

モナカ:バイバイ。

イディア:(ナイフで斬りかかろうとし)っ!

フーリ:(裏口の扉を開け放ち)待って!

モナカ:えっ?

フーリ:これが最後の一本!(モナカに注射する)

モナカ:うっ!(注射を打たれ倒れる)

イディア:モナカちゃん!?あなた、一体!?

フーリ:シッ!静かにして!

イディア:何を・・・

イディア:あっ!肌の色が、戻って・・・

フーリ:(脈をとりながら)脈拍、呼吸共に正常。良かった、間に合った。

モナカ:(目覚める)あれ、私?

イディア:モナカちゃん!(モナカを抱き起こす)

モナカ:イディア・・・?わたし、化け物になってない?

イディア:なってない!なって無いよ!

モナカ:良かったあ。これでまた、イディアのパンが食べられる。

ティアン:みんな、大丈夫?

イディア:ティアンさん?

モナカ:猫耳さんも元に戻ったんだね。

ティアン:うん。このフーリの解毒剤のおかげでね。

フーリ:・・・

イディア:あの、本当にありがとうございました。貴方のおかげで、私、大切な友達を無くさないで済みました。

フーリ:お礼なんか、言わないでよ・・・

モナカ:なんで?助けてくれたじゃん。

フーリ:だって・・・

モナカ:?

ティアン:君はこの病気のことを前から知ってたみたいだね。

イディア:えっ!?本当ですか?

フーリ:・・・ゴメン!

モナカ:何が?

フーリ:この状態を引き起こした薬「バオジュンZ666」を開発したのは・・・私なんだ。

ティアン:っ!

イディア:っ!

モナカ:っ!

➖間

➖モナカ、男の人格と入れ替わる

モナカ:(男)どういうことだ?こんなクソみたいな薬、何で作った?

フーリ:最初は、兵士に投与する肉体強化薬だったんだ。傷を負いにくくなり、疲れも感じなくなる、そんな薬のはずだった。私は、戦いで死ぬ兵士が減るならと思って協力したんだ。

ティアン:協力?ということは、誰かに頼まれて作った薬だったのか?

フーリ:そうだ。

イディア:一体誰が?

フーリ:それは・・・

モナカ:(男)タングリスニか?

フーリ:っ!

イディア:モナカちゃん?

モナカ:(男)狐の獣人で両足が義足、おまけにフーリって言う名前なんだろ?聞いたことあるぜ。アグホントでも有数の薬師で、今は確かタングリスニの捕虜だよなあ?

フーリ:どうしてそれを?

ティアン:随分詳しいね。一般人じゃ、そこまでの情報を得るのは難しいと思うけど?

モナカ:(男)(舌打ち)うるせえ。色々とツテがあんだよ、俺にはな。

モナカ:(男)流石は天才薬師様だ。とんでもねえ薬を作ってくれたよなあ?おかげでこの有様だ!

フーリ:・・・

モナカ:(男)てめえのせいで・・・

イディア:モナカちゃん、辞めて。

モナカ:(男)ああ?お前まで利用されたんだぞ!バルナ一、いや、アグホント一のお前のパンが、この薬をばら蒔く(まく)のに使われたんだ!

フーリ:パンに?・・・そうか、食品に混ぜたのか。

モナカ:(男)冷静に語ってんじゃねえ!

イディア:モナカちゃん、落ち着いて!フーリさんは、こんなことになるとは思って無かったんでしょ?

フーリ:・・・

ティアン:この薬ができた経緯、続きを聞かせてくれないか?

フーリ:この薬の開発を始めてからしばらくして、軍部の要求がおかしな方向に向かっていったんだ。

フーリ:肉体強化と共に、投与された者の理性を奪い、近くにいる人間を無作為に襲う効能が追加された。この状態になった人間は「バオジュン」と名付けられた。

フーリ:「バオジュン」となった人間は理性を失った代わりに二つの本能に支配される。1つ目は「仲間を増やすこと」

ティアン:仲間を増やす?

フーリ:「バオジュン」に襲われ傷を負った者は、同じように「バオジュン」になってしまう。特に咬み傷からは感染しやすい。

イディア:みんな感染してしまうの?

フーリ:そういうわけじゃない。君のようなアンドロイドは、整体パーツの比重にもよるが原則感染しない。人間や獣人にも、ごく稀に感染しない者もいる。

フーリ:それに、私たちのように解毒剤を打たれた者もだ。体内に抗体ができる為、「バオジュン」に襲われても感染しない。

フーリ:ただし、その場合は「バオジュン」の「仲間にならない個体は、生命活動を停止させる」という二つ目の本能によって、攻撃の対象となる。

フーリ:「バオジュン」は身体能力が強化され、痛みや疲れも感じない。集団で襲われたら一般人では撃退できないだろう。

モナカ:(男)とことん厄介な薬だな。

フーリ:一人が感染すれば、「バオジュン」はどんどん増殖する。そうやって都市や軍事施設を壊滅させる。この薬は、恐ろしい化学兵器だったんだ。

フーリ:それに気付いた私は、開発から手を引いた。研究成果も密かに持ち出して隠したんだ。だから、薬は完成しなかった。

ティアン:えっ?じゃあどうして・・・

フーリ:盗まれたんだ。私の研究成果を。多分それを基に完成させたんだと思う。

イディア:誰が?

フーリ:・・・

モナカ:(男)タングリスニにはイカれた皇族もいるって話だな。確かテルエスとか言ったか。

フーリ:今回はテルエスの仕業じゃない。「こんなやり方はつまんない。遊び心に欠ける」とか言ってた。

フーリ:むしろ今回の件では色々協力してもらったんだ。代償は高くつきそうだけどね。

モナカ:(男)じゃあ、誰の仕業だ?

フーリ:多分、皇族のベリリだ。

ティアン:ベリリ?

フーリ:ああ。「バオジュンZ」の開発を指示したのは皇族の一人だという話だったが、それがきっとベリリだったんだ。軍部においてはテルエスに匹敵するほどの影響力があるらしい。

フーリ:しかも、最近そいつの息がかかった奴が、私の助手をしていたんだ。

イディア:それは・・・

スカミシュ:ちょっと喋り過ぎじゃないですか、フーリ先生?もう少し捕虜としての自覚を持って頂きたいですね。

フーリ:スカミシュ!

モナカ:(男)誰だてめえ!?

ティアン:話の流れからすると、こいつがその助手なんじゃない?

イディア:この人が?

フーリ:スカミシュ、最初からこれが目的だったんだな?

スカミシュ:そういうことですねえ。アナタの助手になったのは、隠された「バオジュンZ」の研究成果を見つけ出すため。

フーリ:工房を片付けるフリをして、ずっと探し回っていたわけか。

スカミシュ:駄目じゃないですかあ、大切なものを隠してあるのに、他人に自由に出入りさせちゃあ。

フーリ:君を、信頼するべきじゃ無かったよ。私と同じ捕虜だと言うのも、嘘だったのか?

スカミシュ:いいえ、それは本当です。ただ、貴方と違うのは、私がタングリスニに忠誠を誓っている点ですかねえ。

フーリ:・・・魂を売ったのか?

スカミシュ:はあ?はあ!?はあ!?はあ!?はあ!?何だよその言い様は!

スカミシュ:アンタは良いですよねえ!アグホントでも随一の薬師としての才能と実績があって!

フーリ:何を言っている?

スカミシュ:私には、いや私「たち」には何もなかった。ねえ知ってます?特別な能力を持たない捕虜が、どんな仕打ちを受けるのか!

スカミシュ:実験動物、性奴隷、サーカスの見せ物・・・もはや人間扱いもしてもらえないんですよお。

スカミシュ:専用の工房?自由に外出?アンタは知らないですよねえ、自分がどれだけ恵まれているか。

スカミシュ:私はただ必死だったんです。タングリスニに来てからずっと。「生きる」そのためだけに。

スカミシュ:ああ、そっか。確かに先生の言う通りですね。私、魂売ってましたわ。(狂ったように笑う)

イディア:どうしてこの「レストポープ」に薬をばら撒いたの!?

スカミシュ:そんなの決まってるじゃ無いですか?「実験」ですよ「実験」

スカミシュ:まさかタングリスニ国内で実験できないですからねえ。この町を選んだのは、たまたま良い条件が揃っていたから、それだけですねえ。

モナカ:(男)ごちゃごちゃうるせえぞ、このサイコ野郎!お前がやったことはなあ、絶対に許されねえんだよ!

スカミシュ:んなこたあ分かってんだよ!今更許して貰おうなんざ思うかこのボケェ!

イディア:こんなこともう辞めて!

スカミシュ:辞める?何を?生きることを?そしたら死ぬしか無くなるじゃん。

ティアン:随分余裕かましてるけど、状況分かってる?多勢に無勢って言う言葉、知らないのかな?

スカミシュ:ご心配なく。私にはこれがありますから(ショットガンを取り出す)

イディア:っ!

フーリ:あれは?

スカミシュ:これはマリシ製の改良型ショットガンです!通常のものより、威力も射程もリロード速度も装弾数も段違いですよお!そこのアンドロイドの貴方だって、一発で吹き飛ばせるでしょうねえ!

イディア:くっ!

スカミシュ:この事件の裏にタングリスニがいることを知られるわけにはいかないんです。だから、貴方達の口は、封じさせてもらいますねえ。

モナカ:(男)くそ・・・

メロジー:(窓を突き破って)グアアッ!

ティアン:っ!

スカミシュ:バオジュンか。ちょうど良い。こいつの威力を試させてもらうか。

イディア:待って!

スカミシュ:(引き金を引く)

メロジー:(吹き飛ばされ)グヒャアアアッ!!

スカミシュ:(狂ったように笑う)すごい!凄すぎますよこれえ!

ティアン:(スカミシュに飛びかかる)いまだっ!

スカミシュ:(ティアンとショットガンの取り合いになり)くっ!何ですか貴方は。離して下さい!

ティアン:(揉み合いながら)介入は最小限、なんだけどねえ!いくらなんでも君は下衆(げす)過ぎるよ!

スカミシュ:くそっ!放せ!

メロジー:(最後の力で飛び上がり二人に襲い掛かる)グアアアッ!

スカミシュ:こいつ、まだ動けて・・・!

ティアン:うわあっ!(倒れ込む)

スカミシュ:この死に損ないのバオジュンが!くたばれ!(メロジーにショットガンを撃つ)

メロジー:グギャアッ!(絶命)

スカミシュ:(息を荒くしながら)さあ、仕切り直しといきましょうか。

イディア:っ!ティアンさん!腕に傷が!

ティアン:・・・噛まれたか。でも、それは私だけじゃないみたいだ。

イディア:えっ?

モナカ:(男)おい、見てみろ。アイツの肩!

スカミシュ:・・・あっ。

フーリ:スカミシュ、噛まれたのか?

ティアン:私は大丈夫。一度解毒剤を打たれた人間は、もう感染しないらしい。でも・・・

スカミシュ:わ、私が、バオジュンに?

モナカ:(男)・・・

スカミシュ:そんなの嫌だ!ああ、どうしよう。どうしよう!

フーリ:スカミシュ・・・

スカミシュ:・・・(吹き出す)

イディア:笑った?

スカミシュ:(笑いながら)なーんちゃって、ちゃんと解毒剤打ってますよーだ。残念でしたー。

モナカ:(男)(舌打ち)何だよ、そういうことか。

スカミシュ:(咳払い)では改めて、皆さんにはここで死んで頂きます。おとなしく・・・

フーリ:(被せて)スカミシュ。

スカミシュ:何ですか?ああ、命乞いってやつですか。

フーリ:君が自分に打った解毒剤、私のノートにあった製法で作ったのかい?

スカミシュ:へ?そうですけど、それが何か?

フーリ:そうか・・・

フーリ:スカミシュ、残念ながらそれは不完全だ。

スカミシュ:・・・は?

フーリ:あのノートの製法では正しい解毒剤は作れない。あれはまだ構想段階の製法だったんだ。

スカミシュ:でも、あのノートには未完成だなんてどこにも・・・

フーリ:あれはメモみたいなもんだからね。人に盗まれるなんて想定してないんだよ。

フーリ:それに言ったよね、薬作りは、理屈より実践が大事だって。

➖間

スカミシュ:(吹き出し、段々と笑いが大きくなる)

スカミシュ:ハッタリだ!そうなんでしょ?そうに決まってる!全部嘘なんだ。

フーリ:スカミシュ、本当なんだ。

スカミシュ:嘘嘘!そうやって私を動揺させるつもりなんでしょ?その手には乗りませんよ。

スカミシュ:あ、あれ?足元がふらつくなあ。熱も出てきたみたいだし、視界もぼやけてる。まるで「バオジュンZ」の初期症状みたいだ。

スカミシュ:い、いや、そんなはずは無い。気のせい、気のせいだ!

イディア:見て、あの人の手!

スカミシュ:手?手がなんなんですか?

モナカ:(男)紫に・・・

スカミシュ:へっ?(自分の手を確認し)えっ?あれっ?

スカミシュ:・・・フーリ先生。解毒剤は?

フーリ:もう全部使い切ったよ。新しく作るにしても、ここじゃ無理だ。

➖間

スカミシュ:(絶叫する)

フーリ:スカミシュ・・・

スカミシュ:(フーリにすがりつき)フーリ先生!お願い!お願いします!助けて下さい!私は命令に従っただけなんです!私はだってこんな事したくなかった!

フーリ:すまない、どうしようも無いんだ。

スカミシュ:諦めないで!貴方天才なんでしょ?方法を考えてよう!

スカミシュ:これ全部アンタのせいだろ!アンタがこんな薬開発したからだろ!私に見つかるような場所にノートを隠しておくからだろ!だから責任取れよ!

フーリ:・・・

スカミシュ:ああ、嘘嘘!今のぜーんぶ嘘!私先生のこと尊敬してるんです!大好きなんです!愛してるんです!だから助けて下さい!

フーリ:・・・ん?何だこの臭い?

ティアン:何かが、焦げるような・・・

イディア:見て、あそこから煙が!

モナカ:(男)火事か!?

フーリ:火の手が早い!みんな急いで外へ!

スカミシュ:わ、私も!

サリバン:グワアッ!(スカミシュに襲い掛かる)

スカミシュ:ぐっ!こいつ、どこから湧いてきた!

サリバン:グォォォ!

スカミシュ:放せ!放せえ!

➖宿の外

イディア:(咳込みながら宿から出てくる)

モナカ:(男)イディア、大丈夫か?

イディア:え、ええ。みんな外に出れた?

フーリ:いや、スカミシュがまだだ。

町人A:あっ!ここにも出口がある!塞がないと!

イディア:えっ?

町人B:よし、板を打ちつけろ!

フーリ:あんたら、何やってるんだ?

町人B:この宿に例の化け物がいるんだ。だから閉じ込めないと。

モナカ:(男)何だと?まさか、火をつけたのもお前らか?

町人A:仕方ないでしょ!化け物は皆殺しにするの!

町人A:(扉に🚪板を打ち付け)よし、塞いだ!

スカミシュ:(宿の中から)あれ?何で開かないんだ?

フーリ:スカミシュ!

スカミシュ:(ドアに体当たり等しながら)まだ人がいるんだ!お願い、開けて!開けて!開けて!焼け死んじゃうよお!!!

イディア:助けないと!

モナカ:(男)よせ!火が回ってる!もう無理だ!

イディア:そんな・・・

フーリ:スカミシュ・・・ゴメン。

スカミシュ:熱い!熱い!熱い!熱イ!アツイ!アツイ!(断末魔の叫び)

※出番の無いキャストで断末魔追加してもOKです

➖間

イディア:(N)『それから数日が過ぎた』


➖タングリニ国境近くの森にある小屋

イディア:あ、フーリさん。

フーリ:やあ。

モナカ:フーリ。ここ狭い、熱い、お腹空く。

フーリ:偶然見つけた小屋だからな。不自由をかけてすまない。もう少しの辛抱だから。

イディア:「レストポープ」の様子はどうですか?

フーリ:まだゴタゴタしてるけど、少しは落ち着いたみたいだ。

モナカ:バオジュンは?

フーリ:そっちも多分大丈夫。みんな死んじゃったみたいでね。

イディア:そうなんですか?

フーリ:うん。元々バオジュンたちの寿命は6時間くらいなんだ。

イディア:そんなに短いんですか?

フーリ:あまり長生きさせると今度は味方にとっての脅威になりかねないからね。兵器ゆえの安全装置みたいなものさ。(ため息)

モナカ:フーリ?

フーリ:あれからずっと考えてる。どうして「バオジュンZ」を作ってしまったんだろうって。

イディア:フーリさんは利用されてただけなんでしょ?開発だって、途中で抜けてるし。

フーリ:でも、何故ノートを残してしまったんだろう?作らないと決めていたのに。処分すれば良かったんだ。

モナカ:・・・

フーリ:私みたいな人間にはね、頭に悪魔が住み着いているんだ。

イディア:悪魔?

フーリ:自分の知的好奇心を満たすためなら、手段を選ばない悪魔が・・・

フーリ:きっとその悪魔が、私の耳元でほんの少し囁いたんだろうね。

イディア:フーリさん。

フーリ:もう二度と、間違えたくないなあ。

モナカ:フーリなら、きっと最後は間違えないでいられるよ。

フーリ:そうかな?

モナカ:そうだよ。

フーリ:ありがとう。そうであれば良いと願っているよ。

イディア:あの、フーリさん。

フーリ:なんだい?

イディア:ずっと止められてましたけど、一度町に戻っても良いですか?

フーリ:・・・

イディア:お店、そのままにして出てきちゃってますし。だめですか?

フーリ:それは辞めておいた方が良い。

イディア:どうしてですか?

フーリ:君は、あのバオジュン事件の・・・首謀者という事になっているんだ。

イディア:えっ!?

モナカ:なんで!?

フーリ:恐らくは、スカミシュが仕掛けていた情報工作だ。君は今、バルナで指名手配されている。

イディア:そんな!

モナカ:ひどいよ!そんなのおかしいじゃん!

フーリ:君が望むなら、身の潔白を証明する為に私が証言しても良いが・・・タングリスニの一介の捕虜に過ぎない私の証言では、信用してもらえないと思う。

イディア:じゃあ、私はどうすれば良いんですか!?

フーリ:提案なんだが・・・タングリスニに来ないか?

イディア:えっ?

イディア:何を言っているんですか?よりによって私をこんな目に合わせた当事者である国に、身を預けろって言うんですか?絶対に嫌です!

フーリ:確かにタングリスニには汚い一面がある。皇族もイカれた奴ばっかりだ。

フーリ:でも、悪い人間ばかりじゃない。良い人もたくさんいる。タングリスニに来てまだ日は浅いけど、それなりに人脈もできた。きっと君を助けられると思う。

イディア:でも・・・

モナカ:大丈夫だよ、イディア。私も行くから。

イディア:モナカちゃん?

フーリ:君も?

モナカ:私も少し前までタングリスニに居たの。友達もいるから、きっと力になってもらえると思う。

モナカ:言ったでしょ?(男の人格に入れ替わり)今度こそ、俺がお前を守る、ってな。

イディア:・・・

モナカ:(元の人格に戻り)私を信じて。ね?

イディア:・・・わかった。

モナカ:それに、いつかきっとバルナにも帰れるよ。

イディア:そうかな?

モナカ:うん、絶対!

モナカ:(???)(小声で)ということで、宜しく頼むよ、バロウズ。

イディア:何か言った?

モナカ:(元の人格に戻り)なんにもー。

フーリ:私にできることなら何でもするから。今度こそ、本当に。

イディア:フーリさん、お世話になります。

モナカ:そう言えばさー。

イディア:なに?

モナカ:あの猫耳の人、どこ行っちゃったんだろうね?

イディア:ティアンさんのこと?いつの間にか居なくなってたのよね。私も心配だわ。

フーリ:きっと大丈夫。根拠は無いけど、無事な気がするんだ。またどこかで会えるさ。

モナカ:そっか。きっとそだねー。

イディア:ええ。

➖間

ティアン:今回はしくじったな。一時的とは言え、完全に理性を無くすなんて。

ティアン:解毒剤、私の分を誰かに回してあげたかった。私なら自力で回復できるから。フーリは知らなかったから、仕方ないけどね。

ティアン:タングリスニ・・・イカれた奴多過ぎでしょ。テルエスだけでも、お腹いっぱいだってのに。

ティアン:「レストポープ事件」この報告書は、長くなりそうだな。



➖完

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