Aguhont Story Record 1st Episode

『始まりの物語』 

作:藤村 最 

(1:0:1) ⏱30分 

 

【登場人物】 

ティアン 不問:獣人。猫耳。どこの国にも属さない戦いの見届け役。

マズダー ♂:人工皮膚を被った人間と見分けがつかないアンドロイド。

       おっさん。どこの国にも属さない戦いの見届け役。



*****


ティアン:

「んーん!いい眺め!!

 うん!大陸全部が見渡せるぢゃん!

 こぉゆーのを絶景って言うんだろぉねぇ」

マズダー:

「山に登って行ったっつーから、後を追ってみたら……。

 なぁに、やってんだ??」

ティアン:

「っ!?

 マツダのおっちゃんっ!」

マズダー:

「誰がマツダだ?!マ・ズ・ダーっだって、言ってんだろぉが!」

ティアン:

「どっちでもいいぢゃん」

マズダー:

「ヒトの名前がどっちでもいい訳ねぇだろっ!」

ティアン:

「っていうか、追っかけてきたって言うなら、わざわざ気配消す必要なくない?」

マズダー:

「……お前、ほんっとヒトの話聴かねぇなぁ。

 気配消すのは、もう癖になってる。気にすんな。

 それに、そんな風に言っちゃぁいるが、お前だって気づいてたじゃねぇか。

 こっちがちゃんと付いてきてるかチラチラ確認してやがったくせして」

ティアン:

「まっ、そりゃぁ、そんくらいは必須スキルだからねぇ。

 いくら観測者って言ったって、いつ争いの火種が飛び火するかわかんないんだから。

 ある程度は戦えないと話になんないでしょ」

マズダー:

「だったら、途中で止まったって良かったじゃねぇか」

ティアン:

「結果的に合流できたんだからいいぢゃん」

マズダー:

「……んで?何しにこんな山の上まで来たんだ?」

ティアン:

「えー?それはまぁ、世界を観に?」

マズダー:

「なんで疑問形なんだよ」

ティアン:

「だってさぁ、これからこのアグホント大陸のあちこちで、

 色んな戦いが繰り広げられるわけでしょぉ?

 ちっちゃい小競り合いもあれば、大きな戦も起こるかもしれない。

 戦いを見届ける役目を担う僕としてはぁ、やっぱり一回大陸の全容を

 確認しておかないといけないかなぁって……」

マズダー:

「なるほど、な。

 とは言え、この大陸の4か国を治めていた

 古の4賢者の最後の生き残りが死んで、

 均衡を保っていた諸国が何かしら動き始めるだろうって

 いうことは、誰しもが予見できることではあるが……。

 互いの国に国交が全く無しってわけでも無ぇし、

 人間、アンドロイド、エルフ、獣人の4種族だって

 入り混じって 暮らしちゃぁいるしなぁ。

 さってばさって戦いが起こるとは限らないけどな」

ティアン:

「だけど!

 俺らは中立な立場として各地の争いを監視しろって命を受けてんだから!

 構えとかないわけにはいかないぢゃん」

マズダー:

「だからってなぁ、起こるかもわからない、

 それこそ規模や場所もはっきりしない、

 戦いを嗅ぎ付けて、見届けろって言われてもなぁ~」

ティアン:

「だからこそ!

 オレはこの山に登ってきたってわけよ。

 このアグホント大陸の中心に聳えるいっちばん高い山にね!」

マズダー:

「ほぉ?」

ティアン:

「各地の戦いを見届けるためには、

 やっぱり1にも2にも情報収集が大事なわけさ!」

マズダー:

「……だったら、酒場にでも行ったほうがいいんじゃねぇか?」

ティアン:

「それはそれでやるって~!

 でも!まずはちゃぁんと世界を観ておかなくちゃ!」

マズダー:

「そういうもんかねぇ……。

 俺は、お前の容姿だったらどこにでも潜り込めるんだから、

 もっと楽な方法ってのがあるんじゃねぇかなぁって思うけどな」

ティアン:

「そりゃぁ、おっちゃんに比べれば小柄で俊敏な拙者は身軽ですからなぁ」

マズダー:

「いやぁ、そうじゃなくてだなぁ……

 ガキみたいな見た目で、男か女かもよくわかんねぇ、

 おあつらえ向きに猫の耳なんか生やしてるんだから、

 気に入って近くに置こうとする輩がいくらでも……」

ティアン:

「うん、うん。

 それは……おっちゃん、

 あたしのことカワイイって思ってくれてるってこと?」

マズダー:

「んなっ!?そういうことじゃなくてだなぁっ!!」

ティアン:

「へへっ♪

 照れとる照れとる。

 なるほどね!こうやって取り入ればいいのか」

マズダー:

「……あのなぁ、おっさんをからかうな。

 つーか、大体お前はいくつなんだ!?」

ティアン:

「……各自ご自由にご設定くださいませ。

 まぁ、獣人はぱっと見年齢分かりづらいからねぇ。

 何の獣人かによって歳の取り方も違うし。

 でもさぁ、マツダのおっちゃんだって数年前に見かけた時と

 見た目変わってないと思うんだけど?」

マズダー:

「そりゃぁ、俺は外身は人工皮膚で……って、

 だぁから!マツダじゃなくて、マズダーだって何度言えば……」

ティアン:

「あっ!!すっげぇ!!

 北のほうはこの時期でも雪積もってんだーーー!!」

マズダー:

「ヒトの話を聴けっ!!」

ティアン:

「やっぱりさぁ、着目すべきは北の国「タングリスニ」だよねぇ!

 一年のほとんどの間を雪に覆われた大陸一の軍事国家!!

 北と東を険しい山脈、西には魔晶石を擁する内海、

 降り積もる雪と寒冷な気候も相まった鉄壁の天然要塞都市!!

 共生に重きを置く人間が中心となって出来た国ってだけあって、

 しっかり統制がとれてるし、有事に備えた訓練なんかもなされてる。

 種の能力が平々凡々な人間が中心とはいえ、

 手先が器用で武器の扱いにも慣れてるし、

 北は魔晶石の恩恵を受けてるから魔法だって使える。

 まぁ、雪国ってこともあって、

 資源や食糧が乏しいって難点はあるかもだけど、

 その分、領地拡大や優秀な人材の確保を求めてるだろうから、

 侵攻する可能性も高いんじゃないかなぁ」

マズダー:

「んなこと言ったら、東の国「マリシ」だって侮れねぇぞ。

 魔晶石から離れてるから魔法が使えないとは言え、

 それを補って余りある科学力がある。

 なんてったってアンドロイドと科学者の国だからな。

 北と違って山々に囲まれているわけじゃぁないが、

 北と西との間は山脈で隔てられてる上、

 軍事は勿論、警備、医療、生産にいたるまで、

 テクノロジーでしっかり賄われてる。

 開発によってちぃっと土地が荒廃しちゃぁいるが……」

ティアン:

「……昔はそんなことなかったんだけどね、マリシも」

マズダー:

「あ?なんか言ったか?」

ティアン:

「いいや、べっつにぃ」

マズダー:

「まっ、マリシには他の3カ国に無い鉱山があるっつーのも

 利点の一つだろうな。

 兵器にしろ、機械にしろ、科学技術を動かすには

 鉱物は不可欠なもんだ。

 だからこそ、あの東の地で科学が発展したんだろうが……」

ティアン:

「まぁ、確かに東の科学力には目を見張るものがあるけどさ、

 ウチら見届け役が注視しなきゃいけないのは、

 リーベルかもしんないけどね」

マズダー:

「ほぉ、でも西のリーベルか。

 それはやっぱり魔力の素養が高いエルフが中心の国だからか?

 でも、リーベルは国土としちゃぁ一番小さいし、

 タングリスニみてぇに統率されてるって感じでも無ぇだろ」

ティアン:

「チッチッチッ!

 それはあくまでも都市、国としての観点だろ?

 確かに国としての規模は小さいけど、

 リーベルの領土はあのアホほど広い森全体っていってもいい。

 大陸西部一帯を占めるあの森全てがリーベルの管理下なんだよ」

マズダー:

「それを言ったら北部一帯の豪雪地帯は

 タングリスニの物みてぇなもんじゃねぇか」

ティアン:

「それは違う。

 北も東も南も、城周辺の土地を領土としちゃあいるけど、

 中には国に従属していない集落もあるし、

 特別庇護を受けてないところだってある。

 だけど、リーベルだけは、エルフ達によって

 森全体に魔法障壁が張られてる。

 西のリーベルは主にエルフと獣人が暮らす国だけど、

 獣人は気まぐれなのばっかりだからね、

 国の中に住まないで点々と森の中に住んでるやつも多い、

 ただあの森全ての住人が少なからずリーベルから恩恵を受けてるんだ。

 徒党を組んでいないとはいえ、もし他国と争うことになったら、

 個の能力の強いエルフや獣人は須らく奮起すると思うよ。

 いくら魔力の高いエルフの魔法障壁って言っても、

 外から一掃されるのを防ぐってのが精々だろうからね。

 森を守るためならって、ね」

マズダー:

「なるほどなぁ。

 山や大地なんかもそうだが、自然っつーのはある意味脆いからな。

 けど、再生するのも育むのも途方もない時間がかかっちまうし。

 ん?

 だけどよぉ……それと俺らがリーベルを気にしなきゃいけないっつーのは、

 どうつながるんだよ?」

ティアン:

「はぁぁ?

 おっちゃん、あれを見てよ??

 ほら、あの森!!

 こっから見たって判るくらいの緑!緑!緑!

 あの濃い緑ぜぇんぶがリーベルの森なんだよ!?

 そん中のそこかしこにヒトが散らばって住んでて、

 どこでいつ誰が戦ってるかなんて、

 探すだけで一苦労でしょーが。

 他の国と違って街に噂が流れてくるってわけでもないだろうし。

 遠くから見て、あ、やってるやってる!

 って見えるわけでもないんだかんね!」

マズダー:

「それを言ったら、南のバルナだって大変なんじゃねぇか?」

ティアン:

「なんで?

 バルナは交易都市。4か国の中で一番栄えていて、

 商店や飲食店、娯楽施設なんかまである。

 情報収集するにはうってつけの国でしょ?

 他の3か国との間で資源の輸出入を通して国交もあるから、

 ともすれば他の国の情報だって入ってくるし、争い事は起きにくい」

マズダー:

「だがっ!その分人口も多いし、リーベルの森ほどじゃぁないが、

 国土も4か国中で一番広い!

 ヒトがわんさかいるところじゃいざ戦いが起こった時に動きづらいって

 可能性もあるし、デマだって多くなる。

 それに、4種族が入り乱れて暮らしている国な分、

 国内での内紛だってあるかもしれねぇ」

ティアン:

「うっ……。

 それは……そうかもしんないけど……」

マズダー:

「それになぁ、バルナには大きな港がある!

 あの港は南の温暖で穏やかな海の恵みを収穫するためだけに

 あるわけじゃぁ無ぇ!

 アグホント大陸の外の大陸とも交易があるんだ!!

 この大陸に無い道具や技術、ヒトだって入ってくる。

 今はある意味一番平和に見えるバルナがいざ侵攻するって話になれば、

 他の国にとっては充分な脅威になり得るっつーわけだ。

 なんせ、資源も食糧も金も、更には人材だって山ほどあるんだからな!」

ティアン:

「おっちゃん……やけにバルナに肩入れしちゃいないかい?」

マズダー:

「いんや、そういうわけじゃ無ぇ。

 でもまぁ、俺がこの大陸で一番初めに踏んだ土地がバルナだからな、

 多少の思い入れがあるっちゃぁあるかもな」

ティアン:

「一番初めに踏んだ土地って……。

 おっちゃん、バルナの出身……いや、違うな、もしかしてソトの人?」

マズダー:

「あぁ!その通りだ。

 俺は、大陸外製ってやつだな。

 んで、ティアン。

 お前は、どこの出身なんだよ……?」

ティアン:

「ん?わたし??

 んー、出身地はねぇ……我に勝てたら教えてあげる、よっ!!」

マズダー:

 瞬間、短い呼気を吐きだすと同時に、ティアンは右腰に提げていた短剣を

 抜き放ち、鋭く、俺の首筋目掛けて切り付けてきやがった。

 すんでのところで、反射的に身を低くしつつ、抜きかけの刀でそれを防ぐ。

 息を吐く間もなく、次いで今度は左からの一閃。

 俺は大きく後ろに飛び退り間合いをとった。

 刀を抜き放ち、構える。

ティアン:

「さっすが!ほぼノーモーションだったのに受け止めるぢゃん!」

マズダー:

「流石って、お前……

 どこの世界にいきなり切りかかってくるやつがいるっ!!??」

ティアン:

「こーこ♪」

マズダー:

 そう言って、ティアンは一足飛びに間合いをつめてくる。

 ティアンの武器は二刀の短剣。

 俺の刀に比べればその攻撃範囲は狭い。

 だが、強靭な獣人の脚力はリーチの短さなどものともせずに、

 一気に自身の攻撃範囲へと持ちこむ。

 ティアンはわざと俺の刀に右の短剣を押し当てるようにし、

 すかさず左の刃で脇腹目掛け横薙ぎに切り付けてくる。

 この攻撃もまた先ほど同様一撃で相手に痛手を与えることを

 目的とした紛うことなき本気の一撃。

 反射的に、右足を半歩後ろに退いて身を捻りつつ、

 右の牽制の剣を上から押しつぶすように刀に力を込める。

 右側に圧がかけられたことで、僅かに態勢が崩され、

 左の剣は狙いが逸れ、右脇腹を掠めただけだった。


「だぁから!なんだって攻撃してくる!?

 お前は一応俺の仲間だろうがっ!」

ティアン:

「へぇ、おっちゃん、オイラのこと仲間だと思ってくれてんだ!

 そりゃぁ、嬉しい、ねっ!」

マズダー:

 嚙み合ったままの右の刃に向け、俺はより一層力を込める。

 体格差も勿論だが、力の強さはこちらが上、そのまま押し込めて

 動きを封じてしまうつもりだった。

 しかし、ティアンのほうもこのまま組み合うことが不利になることを

 わかっているのだろう。

 右の刃の下に左の刃を十字を作るようにして添え、

 刀からの圧を受け止めつつ、更に身を低くしたかと思うと、

 足払いを繰り出してきやがった。

 踏ん張りを絶たれてしまえば、腕力の差など意味を成さない。

 致し方なく軽く跳んで躱す。

 ティアンの足から放たれた風圧が、履物越しに伝わってくる程の僅かな跳躍。

 それは、滞空時間が長ければ、この俊敏な獣人はすかさず態勢を立て直し、

 次の一手を打ってくるであろうことを読んでのこと。

 だが、これ以上間合いの中でチョロチョロされるのも面倒だ。

 なので、俺は着地するや否やティアンの十字に組まれた両の短剣の上から、

 ティアンを蹴り飛ばした。

ティアン:

「くっ……」

マズダー:

 足払いの反動でまだ態勢が整っていなかったティアンは、

 俺の蹴りに後ろへと地面の上を滑るように跳ね飛ばされる。

ティアン:

「武器の上から蹴ってくるかぁ?普通」

マズダー:

「うるせぇ。

 切り落とされでもしない限り、こちとら大した痛手じゃないんでな。

 んで?

 なんだってまた、いきなり攻撃してきたんだ?

 出自に触れられるのが嫌だったか?」

ティアン:

「いんや、んなことないよ。

 ただ、充分世界も観たから、

 ここらでおっちゃんと手合わせでもしとこうかと思って。

 ほらっ、だって大事だろ?自分の相棒の力量を知っておくのって☆」

マズダー:

「ほぉん。

 そーゆーことなら、こっちもきちんと相手してやんないとなぁ」

ティアン:

 おっちゃんはフンっと少しだけ、口角をあげたかと思うと、

 改めて構えた。

 抜き身の刀が太陽光を反射してキラリと光る。

 明らかに纏う空気が変わった。

 それを合図にこちらも地を蹴る。

 今度は一気に距離を詰めるのではなく、小走りに駆ける。

 おっちゃんもさっきのようにインファイトに持ち込まれるのを

 避けるように、吾輩の武器の間合いに入る手前で仕掛けてくる。

 下から打ち上げるような一閃。

 刀の切っ先から放たれた風圧が砂埃を巻き上げる。

 意図的なのかどうかは判らないが舞い上がった砂は煙となって

 目隠しのように互いの姿を隠す。

 だが、視界が悪いのはこちらだけではなくおっちゃんも同様のはず。

 おっちゃんの近くに辿り着く直前にスライディングするように

 横へと大きく逸れーーーー

マズダー:

「はぁっ!」

ティアン:

 上から振り下ろすようなおっちゃんの一撃を交わす。

 しかし、手ごたえがヒトのそれではなかったからか、

 おっちゃんは刀を下までは振り切らず、返す刀で横に薙ぐ。


「こっちだよ!」


 おっちゃんの横をすり抜ける用に斜め後ろに回り込んだあっしは、

 下から伸び上がるように一撃!

 おっちゃんはそれを器用なことに刀の鞘のほうで受け止めた。

 組み合ってしまえばこちらが不利。

 すかさずもう一振りの短剣で切りつける!

 これもまた鞘の持っている部分を滑らせるようにして防がれる。

マズダー:

「さっきのよく避けたじゃねぇの!」

ティアン:

「そりゃ避けるでしょ!?当たってたらこちとら真っ二つだっつの!」

マズダー:

「安心しろ。当たりそうだったら寸でのとこで止めてやる」

ティアン:

「ぜったい嘘だ!」

 話しながらも剣と刀は忙しなくかち合い続けている。

 ワイはステップを踏むように右へ左へと位置を変えながら、

 おっちゃんへと切りつけていく。

 でも、一つも綺麗に入らない。

 浅く掠める程度に傷はつけられてもこれってのは刀でいなされる。

「さっきの木だって真っ二つだっただろ!?」

マズダー:

「あー、さっきのってあれか……。

 変わり身の術みてぇなことしやがって。

 お前、あんな木片どっから持ってきた?」

ティアン:

「どっからって、すぐそこから!

 なんか立て看板みたいの立ってたから」

マズダー:

「あのなぁ、あるからってなんでも使うな!」

ティアン:

「いーぢゃん!別に!!

 だって山のてっぺんって木が生えてないんだもん!」

マズダー:

「だもん!じゃねぇ。

 わざわざ誰かがここまで登ってきて折角建てたんだろうに」

ティアン:

「使えるもんは使う!!

 それがわっちの信条なの!」

 こちらの攻撃などどこ吹く風。

 余裕でしゃべり続けるおっちゃんにイラっとして、

 更に手数を増やす。

 有効打がなくったって、些細な当たりでも

 重ねていけばダメージにはなるはず!

マズダー:

「あと、お前さっきから、その一人称変えんのやめろ!」

ティアン:

「別にいいでしょ!気分で変えてんの!」

マズダー:

「せめて2個か3個くらいにしろってんだ!

 毎回変えんな!」

ティアン:

 こちらの剣撃の繰り出す速度が変わったことを察して、

 おっちゃんも太刀筋を変える。

 短剣の一撃を誘導するように刀を滑らせ、

 次の剣撃のタイミングを遅らせると、

 刀の柄で牽制まで繰り出してくる。


「……だったら、これはどうだっ!」

マズダー:

「おいおい、そんな大きく跳んじまったら、

 受けてくれっていってんのと変わらねぇだろ?」

ティアン:

 一際高く跳躍した私は、膝を抱え込むようにして、

 両の手の剣を前に突き出すようにしておっちゃんへと飛び掛かる。

 この姿勢だと次の一撃は読みにくい。

 双刀かつ、小柄だからこそできる芸当。

 おっちゃんは仕方なく空中の某へ先制攻撃は仕掛けず構えたまま、

 ギリまで引き付ける。

 ボクはそのまま切りつけたりはせず、体重をのせて両手の剣ごと突撃!

 おっちゃんは勿論刀でこの攻撃をがっちりと受け止める。

 そう!それがこっちの本当の狙い!

 縮めていた体を空中で伸ばすように広げ、おっちゃんの肩を足場にして、

 おっちゃんを飛び越す。

 その際前宙の要領で一回転しつつ、すかさず腕へと目掛けて一閃!

 よし!入った!

 おっちゃんの両腕の二の腕辺りから赤い飛沫が舞うのが逆さに見えた。

マズダー:

「へぇぇ。やるじゃねぇか」

ティアン:

「使えるものはなんでも使うって言ったでしょ?」

マズダー:

「面白ぇ。

 おっちゃん、ちっとお前さんを舐めてたわ」

ティアン:

 おっちゃんは吐き捨てるようにそう言うと、

マズダー:

「ふぅぅぅ……はぁぁぁぁ」

ティアン:

 深呼吸するように腹の底から気を吐き出しーーー

マズダー:

「ふんっ!!」

ティアン:

「んなっ!?なんだそれ!???」

マズダー:

「奥の手ってやつだな」

ティアン:

 にやりと不敵に笑むおっちゃんの両の肩部からは、

 二本づつ、計四本の腕が生えていた。

 ただの腕ではない。

 鉄の色をした硬質なそれは、先程切り割いた服だけでなく、

 肌までを突き破り、蠢く。

 き……気持ちわるっ!!

 今度はおっちゃんから仕掛けてくる。

 刀を握る元からあった二本の腕に加え、機械の腕が四本。

 六本の腕が上下左右から不規則にこちらへと向かってくる。

マズダー:

「これで、おいそれと足場にも出来ねぇだろっ!」

ティアン:

「なんかっ、人間にしちゃぁっ、変だなって思ってたけどっ!

 アンドロイドだった、とはねっ!」

マズダー:

 六本の無作為な攻撃をティアンはギリギリで躱し続ける。

 言ってることは少し前までと変わらないが、

 ティアンの表情からは余裕が消えている。

ティアン:

「ってゆーか、反則だよね!それっ!!このっ!卑怯者!!」

マズダー:

「なぁにが、卑怯だ!?

 散々ぱら、不意打ちだの、変わり身だの、ヒトを足場にするだの

 やっておいて!」

ティアン:

「それはっ、それ!これはっ、これっ!でしょーがっ!」

マズダー:

 ティアンは尚も「いたいけな子供に何するんだ」だの、

 「傷物になったらどうしてくれるんだ」だの、

 やいのやいの言っているものの、その実、

 虎視眈々と隙を突いてこの場を切り抜けようとしているのは明らかだった。

 その証拠に、手が増えた分上から攻めるのは難しいだろうと判断して、

 身を屈め、足元ばかり狙ってきている。

 こいつの実際の年齢は知らないが、

 ちょっとここらで大人に逆らうと痛い目をみるってことは

 解らせとかないとな。

 でかいの一発いくか。

 こんだけちょこまかしてんだから、どうせ避けるだろ。

 俺は、ティアンが足元ばかりに気がいっているのをいいことに、

 肩部の四本の腕の攻撃の手を悟られぬ程度にゆるめ、

 充填を始める。

 全身の血が沸き立つような感覚と共に肩から腕へと力が集束していく。

ティアン:

「はっ!?えっ??ちょっ!」

マズダー:

 ティアンも光の粒子となって充填されていく力の波動を感じたのか、

 慌てふためいた声をあげる。

 だが、もう遅い。

 充填完了。

 後は、放つだけ。

 六本の腕を前へと突き出し、掌が集まったその間に凝縮された

 高エネルギーを溜めーーー

ティアン:

「待った!ストップ!すとーっぷ!!」

マズダー:

 予想外なことに、ティアンは大きく距離をとるようなことはしなかった。

 流石にとんでもない攻撃をしてはこないだろうと高を括っているのか、

 はたまた攻撃範囲や速度が読めない分、近くにいるほうが良いと判断したのか。

ティアン:

「だめだって!撃っちゃ!!」

マズダー:

「超マツダキャノンっ!!!」

ティアン:

「あー、もうっ!!」

マズダー:

 高エネルギー波が放たれるその瞬間、

 こともあろうにティアンは俺に抱き着くように腕の下へと潜り込んできた。

 そして、六本の腕を押し上げるようにして、軌道を変えさせる。

 一筋の閃光が空を切り裂くように音をたてて打ちあがる。

ティアン:

「はぁ…はぁ…」

マズダー:

 息を切らせたティアンは力が抜けたようにその場にぺたりと座り込む。

 けれど、こちらも『超マツダキャノン』を放った後は、

 ある程度エネルギーが回復するまでまともに動けない。

ティアン:

「あのさぁ!あんなんぶっ放すなんて……馬鹿ぢゃないの!?」

マズダー:

「こっちのセリフだ!

 くっついてきたりして直接ぶち込まれたらどうすんだ!?

 危ねぇだろぉがっ!?」

ティアン:

「はぁぁ!?

 おっちゃん、自分の役目解ってる!?

 戦いの見届け役でしょーが!!

 あんな派手なの今の時点でやっちゃったら、

 目立つだろぉがぃ!!

 これから4か国が動き出すかもって時に、

 あんなの撃って、どっかの国に被害が出たら、

 変な火種になったり、警戒されたりするかもでしょーよ!

 今後動きづらくなるだけだっつーの!!」

マズダー:

「あ……ま、まぁ、開幕の花火ってことにしとこうぜ?」

ティアン:

「あんな花火あってたまるかっ!!

 こほん、とにかく、おいどんは逃げるかんね!

 後は自分でなんとかしてよっ!」

マズダー:

 ティアンはそう言い放つと、近くに転がっていた板切れを手にとった。

 それは、先の戦闘中に俺が切った立札の一部だった。

 どうやら、俺が切ったのは立札の柱の部分だったのだろう。

ティアン:

「よっと!」

マズダー:

「あっ!お前、まさか、それで滑り降りてくつもりだろっ!?

 だったら連れてってくれよ。

 あれ撃った後は動くのつれぇんだよ」

ティアン:

「いーやーだーねー!

 もうちょっとしたら誰かしらさっきの『花火』見て

 集まってくるだろうから、ここを離れたほうがいいよー」

マズダー:

「あっ、ちょっ、冷てぇじゃねぇかっ!?」

ティアン:

「知ぃらない!

 あ、それとおっちゃん?」

マズダー:

「あん?」

ティアン:

「自分でもやっぱり「マツダ」って言ってたぢゃんか!」

マズダー:

 そう言い捨てると、ティアンは立札の上に飛び乗り、

 斜面を一気に滑り降りていく。

 俺は重い体を引き摺るようにして、踵を返した。



ティアン:

 っとゆーことで!

 兎にも角にも!

マズダー:

 今ここから、

ティアン:

 アグホント大陸の物語ーーー

マズダー:

 戦いの火蓋がーーー

ティアン:

 スタート!!(同時に)

マズダー:

 切られる!!(同時に)



fin

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